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14 発覚する誤解





「どうしたの?」


太陽の光も加わりキラキラと輝く銀髪の男性が、綺麗な顔面を覗かせる。


「あ、いえ……」


アリエスは驚きつつ、距離が近いユージンから離れるようにベンチから立ち上がると頭と腰を下げた。

ユージンとは幼い頃の付き合いがあったが、それでもアリエスは伯爵家で、ユージンは公爵家の人間だ。

アリエスはユージンに対して常に礼儀をわきまえなければならなかった。


「挨拶はいいよ。それよりなにか悩んでいるみたいだけど、なにがあったの?」


ユージンは頭を下げるアリエスを止めると、何があったのかを尋ねた。

アリエスは何と返せばいいのかと考えているとユージンは言う。


「親しい友達として相談にのりたいんだ」


綺麗な笑みでそう告げたユージンにアリエスは眉をひそめて「どうして…」と呟いた。

だがそんな発言をするつもりはなかったのだろう、アリエスは口から出てしまった言葉に驚きながら抑えるように手で口をふさいだ。

ユージンはそんなアリエスに首を傾げる。


「どうしてって、逆に聞くけどどうしてそう不思議そうにしてるんだい?会えなかった期間が長かったとはいえ、僕たちは仲がよかっただろ?」


尋ねるユージンにアリエスは視線を逸らし、言いずらそうにしていると「怒らないから、話して欲しいな」と告げる。

アリエスは本当に怒っていない、寧ろ優しい目を向けるユージンをみると観念したように口を開いた。


「……デクロン様は私の事、嫌いなのかと思っておりました」


「何故僕がアリスの事を嫌いになるの?」


本当にわからないと首を傾げるユージンに、アリエスは動揺した。

戸惑っているアリエスにユージンは「昔のように話して欲しいな」と眉尻を下げて寂しそうに告げると、アリエスは少しだけ頬を赤くさせる。


「だって……、ユンが辛い時期に私、自分の都合で手紙を出し続けていたから……。だからユンも怒っていたじゃない。“もう手紙を寄こすな”って、そう私に返事したでしょう?」


アリエスはユージンから視線を逸らして悲しそうに告げると、ユージンは驚愕したように目を見開いた。


「その手紙、本当に僕からだったの…?」


「?そうよ、あの時の私と手紙の約束をしたのはユンだけだもの」


アリエスは何を言っているのかとユージンを見上げたが、ユージンは骨が浮かんだ男らしく大きな手で綺麗な顔を隠していた為、表情を伺うことが出来なかった。

そして少しの沈黙の後ユージンは手を落とし、アリエスの手を取る。

アリエスはユージンに触れられたことでドキリとしたが、婚約者がいる自分が他の男性と触れ合うことなんて許されないと振り払おうとしたが、真剣な表情をするユージンに手を振り払うことはできなかった。


「アリス、どうやら僕たちの中には誤解があるようだ」


「誤解?」


「ああ。聞いてくれるか?」


「え、…ええ、勿論よ」


そしてアリエスはユージンの本当の事情を初めて知った。

母親が亡くなって再婚し、婚約話が流れたことだけは知ってはいたが、まさかアリエスに出したユージンの手紙が一通も渡ってはいなかったことを知る。


ユージンがアリエスに出した手紙には王都から公爵領へと移動させられた経緯や、アリエスの手紙のお陰で辛い鍛錬を頑張れているということを書き留めていたのだ。

乳母がアリエスの手紙をユージンに渡していたことから、自分の味方であることは疑いたくなかったが、ユージンの手紙がアリエスに届けられていないことが発覚した今、乳母への疑心が生まれる。

だが、もしかすれば乳母に何かが起こった可能性もあるとユージンはその考えを一度否定した。

わからなければ調べればいいのだと、ユージンは考えたからだ。


「僕は今でもアリスの事が好きなんだ」


真剣な眼差しで告げるユージンにアリエスの心臓は激しく脈打つ。

アリエスは自分の心が誰に向いているのか気付いていながらも、目を固く瞑って頭を振った。


「わ、私には、婚約者が、いるから…」


好きな人にこんなことをいいたくない、せっかく嫌われていないことを知って、そして今でも好いてくれていることを知ったのだから受け入れてしまいたかったとアリエスは思いながらも、必死で拒否の言葉を口にした。

ユージンは顔を真っ赤に染めたアリエスに拒否されてしまったが、アリエスの気持ちを察し嬉しいながらも、拒否された言葉が胸に突き刺さり心臓が締め付けられる思いを感じていた。


「……うん、悲しいけどわかっているよ。僕が何歩も遅かったこと。だから君は僕以外の男と婚約することになってしまった。

でも僕は君が好きだから、だから役に立ちたいんだ。今は友達として、僕にもアリスが何を悩んでいるのか教えてほしいな」


「友達として…?」


「そう。友達として」


ニコリと微笑むユージンにアリエスは顔を真っ赤に染め上げながら、コクコクと何度も頷いた。

好きだと告げたユージンが友達という言葉を口にしたことで、勝手に勘違いをしていたことにアリエスは恥ずかしくなったのだ。

勿論アリエスの勘違いは間違っていなく、ユージンは今でもアリエスを恋情という意味で好意を抱いている。

だが、ユージンが言ったように“今は”友達以上の関係になれない以上、好意を押し付けることをやめたというのが正しかった。


「そ、そうですね!友達として!力を貸していただけるととても心強いです!」


「うん、任せてよ」


ユージンはアリエスの反応に満足気に微笑みながら「口調が硬くなっているよ。友達なんだから気軽に話してほしいな」と囁いた。

アリエスはそんな言葉を平気で話すユージンに、成長して破壊力が上がっているわ!と心の中で叫ぶ。




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