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プロローグ:光と影の序曲

 病室の扉は、家族じゃないという理由で冷たく閉ざされたままだった。

 ただ、まだ彼女と穏やかに言葉を交わせた頃、最後に僕に見せた、弱々しいけれどどこまでも優しい笑顔と、その後にこぼれ落ちた一粒の涙が、焼き付いて離れない。頬は少しやつれ、自力で湯船に浸かることさえままならないほど衰弱していたのに、ほんのわずかな化粧の崩れや、かすかな匂いを気にしていた。そんな彼女の姿が、痛々しいほどいじらしくて、胸が締め付けられた。「心配なんていらないよ、君はいつだって完璧だったのに」と、声に出せない言葉が喉の奥で何度も渦巻いた。

 僕のような、どこか欠落した人間を受け入れてくれた彼女の瞳には、この世界はどう映っていたのだろう。彼女を容赦なく奪い去ったこの世界を、僕は憎んだ。だが、それ以上に、彼女が確かに愛したこの世界に、彼女が生きていた確かな意味を、何としても刻みたかった。何の意味も目的もなく、ただ黒く塗りつぶされていた僕の存在に、一条の光を与えてくれた彼女に、僕は報いたい。それが、今を生きる僕の、唯一の願いだった。


 これはフィクションだ。だが、たった一人の、かけがえのない誰かを深く想い、まるで魂を削るように、アーティストがその感情の全てを音符や絵筆に乗せて紡ぎ出す詩のように、激情を込めて綴られたフィクション。世間の耳目を集めるようなエンターテイメントにはならないだろう。ましてや、流行に乗るはずもない。書いている僕自身でさえ、面白いとは思っていない。けれど、もし、最後までこの拙い物語を読み進めてもらえたなら、もしかしたら、ほんのわずかかもしれないけれど、たった一人くらいの誰かの人生が、何かしらの形で変わるかもしれない。そんな、ほとんど奇跡に近い可能性に、ほんの微かな、本当に微かな希望を託して、この物語を綴る。

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