96限目「四聖獣」
俺達は、フェイの村人と思われる集団と会うために森の中を進んでいる。
あぁ、やはりか。俺達の接近を感じてか集団が逃げるように移動している。エルガデルが言っていたことは事実なようだ。これだとお互い無駄な時間を過ごすことになってしまう。
「シェステ、どうやら俺達が近づいているのが分かってるのか、遠ざかってるみたいだ。俺が一足先に行って知らせてくる。少しここで待っててくれないか?」
「じゃあ、ここで待ってるね。早く知らせて安心させてあげて?」
「おう、行ってくる」俺は《飛行》で垂直に飛び立つと集団を目指して高速移動に入る。
見る見るうちに差を詰めるのだが、困ったことに集団が3つに分かれて移動を始めた。この危機管理能力には本当に感心する。とはいえ、変な言い方だがここで逃がすわけにはいかない。
俺は広範囲に結界を展開して、集団を隔離することにした。緑色のカーテンが周囲を覆っていく。よしっ、隔離成功だ。3つに分かれた集団の一つへと向かう。
ゆっくりと地上に降りると、10人ほどの集団がこちらを警戒しながら身を寄せ合い、前にいる2人の男性が武器を手に構えている。
俺は両手を上げ、話しかける。
「こちらに危害を与える意思はない。俺はグレン、開拓者だ。フェイの村にいた魔獣達は全部退治したよ。もう安全なんで村に戻っても大丈夫だということを伝えに来たんだ」話を聞いた村人達は、安堵したのかその場にへたり込んでしまった。
「よくここまで逃げてくれた。おそらく全員無事なんだろう。本当に大したもんだ」村人達に笑顔が戻る。武器を構えていた男性のうち一人が応対する。
「そうか、分かった。助かったよ、ありがとう。俺達は村に戻る。済まないが他の村人達にも教えてやっちゃくれないか?あんたの方が早そうだ」そう言うとお互い肩を叩いて立ち上がる。
「あぁ、元よりそのつもりだ。では、また後で」手を振る村人達に手を見送られながら、次の集団を目指して飛行する。そうやって全ての集団に伝達し終わると、シェステと合流して先に村へ戻り、村人達を待つことにした。
「みんな無事だったんだよね!よかった~!」シェステは枯れ枝や薪になりそうなものを集めながらそう言った。もうじき夕方になる。村人達も帰ってくるだろうし、炊き出しでもしようと二人で決めたのであった。
「そうだな。逃げるという判断が速かったおかげだ。だが、あの人数じゃ逃げるのも大変だったろう。特に食事とかな」魔獣に見つからないようにするには、迂闊に火を使えなかっただろう。だからこそ、美味しいものをしっかり食べて英気を養ってほしいと思う。
「だよね!グレンの料理をたくさん食べてもらおうよ!」
「おいおい、シェステも作るの手伝ってくれよ?」
「ははは、分かってま~す!」
村にいた魔獣の半数は俺が解体して保存している。試しに炙って食べてみたが、かなり淡白な味ではあるものの、やはり食感も考えると鶏肉に近い。これなら味付けを濃い目にすれば美味しい料理になるだろう。串に刺してミソを塗って焼いてみるか。
あとは、ホワイトシチューにでもすれば身体も温まる。よし、では準備しよう。
シェステに火をつけてもらうと、大鍋を用意して具材を炒め煮込んでいく。シェステには串焼きの準備もしてもらう。もう手慣れたものだ。次々と串が並んでいく。
しばらく煮込みの作業をしていると、村人達が帰ってきた。
「みんな、お帰り!もう少しで料理ができるから、食器準備して集まって!」シェステが仕切ってるぞ!張り切ってるな。とても微笑ましい。
「この娘はシェステ、俺の姪だ。シチューと串焼きを仕上げるから、並んでくれ」逃げていた間まともなものを口にしていなかっただろう。美味しそうな香りを嗅いで、皆喜び勇んで自宅へ戻り、食器を手にして戻ってくる。
出来上がった料理を受け取ると、皆幸せそうに頬張っている。
「量は十分にある。おかわりも自由だ、どんどん食べてくれ!」皆の歓声が上がる。
「シェステもお腹すいただろう、ほら食べなさい」彼女を招き寄せ、食器によそったシチューを手渡す。
「グレンは?」
「シェステが食べ終わったら頂くよ。気にしないでいっぱい食べるといい」
「分かった!いただきます!」シェステは手を合わせて美味しそうに食べ始めた。
「グレン殿」一人の老人が話しかけてきた。フェイの村長だ。
「村長、おかわりですか?」笑顔でそう言うと、手を振って笑う。
「いやいや、十分に頂きました。今回のこと、本当に感謝いたします。それに炊き出しまでして頂いて」村長は丁寧にお辞儀をする。
「どうか気にしないで頂きたい。どちらにしても今日はこの村に厄介になろうと思ってたので、お互い様ですよ」
「お前さん方はひょっとして、ラミナ島に向かうつもりですかの?」真剣な眼差しで村長は言った。
「えぇ、そうです。島の中央へどうしても行く必要がありまして」
「ということは❝祭壇❞が目当てということ……ですな?」どうも言い方が引っかかる。何かあるのだろうか。
「実は代々この村の者はラミナ島の祭壇を管理しておるんですが、ここ最近島に行けておらんのです。魔獣が増えてしまったのが原因で」
「なるほど。何か原因が?」
「オルヴァートの東西南北の各島には祭壇があって、それぞれが各方位を守護する聖獣様を祀っておるのです。通常ならば聖域として魔獣は近寄れぬはず……。
何か良からぬことが起きている……。そう思えてなりませんのじゃ。行くのはやめなされ」
「心配して下さるのはありがたいのですが、私はクシナ様救出のためにどうしても行かねばなりません」
「なんと!ということは海底神殿に!そうでしたか。ではこれ以上は何も言えませぬな。明日にでも船を用意いたします。勝手な物言いじゃが、姫のことどうかよろしくお願いいたします。今や我らの未来は姫にかかっておりますゆえ」俺の手を握り、懇願する村長に、力強く答える。
「お任せください。必ず保護いたします!
ちなみに南の守護聖獣はどのような?」
「名を《陽精樹》。大樹の姿をした気高き賢者です」




