94限目「カーラとシェステ、それぞれの修練③」
「さて、次のテーマに行くぞ。これまでの内容は❝魔力総量❞の考え方がテーマだった。今度は❝魔力密度❞の考え方がテーマになる。魔力密度とは何だったか覚えてるかい?」
「ええと……。魔力の❝質❞のことで、魔力の❝濃さ❞をイメージするといいって授業の時グレンが言ってた!」
「完璧だな。魔力の濃さとは、魔力の❝強度❞でもある。魔力密度は魔力強度でもあるんだ。密度の濃い魔法の方が強い魔法だと言える。今から実演しよう」
俺は両手に《火球》を1個ずつ用意する。
「今の時点で、この2個の《火球》は同じ魔力総量、同じ魔力密度。つまり全く同じ魔法だ。1個を的として使う」左手の《火球》を離れた位置に移動させる。
「次はこの右手の《火球》の見た目の大きさを半分にする。つまり見た目は小さくなるが、魔力密度は2倍になる。ここまではいいな?」シェステは真剣な顔つきでしっかりと頷く。
「これをあの離れた《火球》に思いっきり当てるとどうなるかって話だが、どう思う?」
「う~ん……。密度が濃い方が強いんでしょ?でも強いからどうなるんだろう。いや同じ《火球》の魔法だからでっかくなっちゃうかも。
あ~、なんかゴチャゴチャしてきた!」同じ火属性魔法を使ってるからちょっと難しかったか。
「ふふ、ちょっと難しかったな。でも考え方はいい線いってるぞ?では実際にやってみよう」俺は右手の《火球》を的に向けて勢いよく放った。
バシュッと音を立て、的になっていた《火球》は四散し、放った方はそのまま貫通して前方の樹に当たり燃え上がっていた。指をパチッと鳴らし今度は《水球》ですぐに消火した。
「正解は魔力密度の濃い方が❝勝った❞でいいんだ。あと、俺は勢いよく放ったから貫通しちまったが、勢いが弱かったらシェステが想像してた通り1個になっていただろう」シェステの考え方はあながち間違っていなかったってことだ。
「魔力密度が違う魔法は、❝質❞が違う。別の魔法と言ってもいい。だから一気にぶつけると反発し合う。だが、ゆっくりと近づけると双方が合わさって互いに混ざってしまうのさ。
だが例外はある。そもそも混ざらないものは反発しかしない。それが何かは自分で試して自分の感覚として学びなさい」
「はい!了解であります!」ビシッと敬礼をするシェステであった。
「というわけで、今後は俺が魔法を放ち、それをシェステが防ぐもしくは火力で上回る魔法を放つ。そういう修練をする。一気に実戦を想定したものになるから覚悟しておくんだぞ?
だが、その前に防御魔法を教えておく。アルスがいるから問題はないんだが、万が一自分だけで対処する必要が出た場合を考えてのことだ。以前カーラと模擬戦をした時に感じただろう?」
「うん。そうだね、使えるようになりたい」以前の模擬戦では、カーラの《真空飛斬》に対して避けるという工程が加わってしまったために、隙ができ負けてしまった。防御魔法が使えれば、もっと攻勢に出れた可能性は強い。 それに、実戦修練を安全かつ集中してできるようにもなってほしい。是非洗練されたウィザードになってもらいたいものである。
「魔法による防御方法には4種類ある。
一つは❝防壁魔法❞。文字通り❝壁❞を作り出して防ぐ方法だ。《壁》系魔法がそれにあたる。火属性なら《火炎壁》、土属性なら《石壁》って具合だ。勿論より強度の高い上級魔法もあるから、精進するといい。
一つは❝結界魔法❞。属性が限定される防壁魔法よりも汎用性が高く、使い勝手がいい。だが、その分魔力が必要になるから注意だ。アルスの使う結界魔法、あれをシェステも使えるようになるのが理想だな。
一つは❝補助魔法❞。強化魔法ともいう。物理・魔法を問わずダメージ耐性を上げることで、防御が可能になる。お手軽だが、他のバフも使用しての重ね掛けが必要な場合が多い。時と場所に応じて何を使用するかというセンスが必要になる。
そして最後だが、❝攻撃魔法❞。相手の威力を上回る魔法で制圧する、超実戦的方法だ。相手の戦意を喪失させて早期決着を図ることもできる、なかなか気持ちいいやり方ではある。
だが一つ間違えれば、カウンターをもらって危機的状況になる場合もある。4つの方法の中で細心の注意が必要なパターンだ。それに戦闘センスがものをいうから、これも相当場数を踏まないと難しいぞ?
さぁ以上だ。最後に言った方法は今後の修練のメインになるからひとまず横に置いておく。その前に言った3つの方法をまずは覚えてもらう。
覚えてもらうことが一気に増えて大変だが、これができるようになればBランク・Aランク開拓者も狙えるだろう。頑張れよ!」真剣に聞いていたシェステだが、最後の一言で目の輝きが半端ない。
「うん、頑張るよ!Aランクのウィザードかぁ~、いいな~なりたいな~!」そうはいうものの、覚えることが本当に多くなる。これは知識もだが感覚的な部分が大きい。とにかく反復して身体に叩き込むしかないと思われる。
だが、全て習得できればAランク達成はもちろんだが、《高位魔導師》にもなれるだろう。そうなれば最前線でも戦える。本当に楽しみだ。
「説明が長くなってしまったが、早速いくぞ!まずは❝補助魔法❞からだ」俺は最強の弟子を育てるべく実技指導を行うのであった。
それから数日後、俺達はようやくフェイの村へと到着した。村民の数が30名ほどの小さな村で、アスダンの話ではとても、そう穏やかで心が休まるそんな村だと聞いたんだが。目の前にいるのは中型の魔獣達。
「とんだ歓迎だな。どうみても村民ではないようだが……。とりあえず駆除するか。シェステも修練の成果を見せてみろ」
「うん、やってみる!」図らずもシェステの初陣となるわけだ。実戦に勝る経験なしだ。お手並み拝見と行こうじゃないか。




