93限目「カーラとシェステ、それぞれの修練②」
「本当に必要ないんだ。俺が❝教える❞必要はな。つまり」シェステの目をじっと見つめる。
「つまり?」シェステが俺を見つめ返してくる。
「シェステはもう使えるようになってるってことさ」俺は全力の笑顔でサムアップした。
「えぇ~!いつの間に??だって一度も使ったことないよ!」自分の手を頻繁に裏返している。驚きを隠せないようだ。まぁそうだよな。
「それは使う機会がなかっただけさ。じゃあ試しにやってみようか」シェステの隣に行き、まずは実演をする。結局教えてるような気がするが、まぁ本人は気づいてないようだし、いいか。
俺は《火球》を右手に1個出す。左手にも1個出す。両手を合わせ1個に合わせる。合わせた1個を左手で持つと、右手に1個出して左手に合わせていく。この一連の操作を続けていき、合計10個分の《火球》を作り出す。
「これで10個分の《火球》の出来上がりだ。さあ、シェステも同じようにやってみてくれ。」俺は無詠唱だが、シェステはちゃんと1回ずつ『《火球》』を唱えている。
だが、連続で同じ作業をしていると徐々に声が小さくなり、少しゴニョゴニョ感が出てくる。どうやらはっきり言えてないようだ。最後は『ファエアーオール』になっていた。何の魔法だよ!
しかし、合体作業自体はきちんとできている。
「ふぅ~できた!」
「あぁ~、ちゃんとできたな!❝無詠唱❞が」
「え~~!!」持っていた火球がかき消える。今日はやたらと驚いているシェステである。
「作業に集中するあまり気づいてなかったようだな。まぁ、まず10個分の《火球》は初めて作っただろう?よくできているじゃないか」
「あぁ!ほんとだ!気づいてなかった!すごいや!」本当に素直だ。そこが強みなのだろう。今までの修練もきちんとやっていたから、実力がきちんと育ったってことだ。
「そしてこれも気づかなかっただろうが、最後の辺りファイアーボールって言えてなかったぞ?」あれ、そうだったっけ?って顔をしている。
「つまり、言えてないのに魔法が発動している。これは裏返すと❝言わなくても❞使えるってことだよ。
いきなりだと難しいだろうが、まずは口を閉じたまま1個出してみてくれ」本当にできるのかという心配はあるだろうが、素直な子だからすぐに実践するんですよね。
「!!」次の瞬間には立派な《火球》が1個、彼女の右手の上に浮かんでいた。
「ん~ん~ん~!!」
「いや、喋っていいからな」
「できたよ!できた!すごい!」
「ふふふ、前も言ったが、魔法発動の肝はイメージだ。イメージがしっかりできていれば詠唱は必要ない。今は口を閉じてるが、喉は動いてるはずだ。次は完全無詠唱を目指して頑張りなさい。そのうちイメージするだけで魔法が出せるようになります」イメージ修練を長い事続けていた成果が出たというわけだ。
「はい!頑張ります!」嬉しそうに手を挙げて、はしゃいでおります。
「よし!そこでちょっとじっとしててくれ」俺は手をかざす。
「やったな、おめでとう!!《魔法使い(メイジ)》から《魔導師》へジョブアップできたぞ!」《鑑定》で確認できた。少し時間がかかったなんてことはない。通常ここまでのペースでウィザードになれた者はいないだろう。誇っていいぞ。
「ほんと!?ウィザード!かっこいい!!」今日はシェステの成長ぶりがしっかりと確認出来てよかった。本人もこれで次のステップへ進むという自覚を持って修練に臨めるだろう。
「さて、ウィザードになったことだし、今までよりも修練の難易度もアップします。より実戦的になるので、心して励むように。いいね?」
「了解であります!」シェステは可愛く敬礼をする。
「では、少し頭の体操をするぞ?」俺は《火球》を右手に1個出す。
「これを基準とした場合、仮にAとする」次に左手に《火球》を5個出す。
「5個の方をBとした時、Aの1個とBの5個、どっちが強いと思う?」
「B!!」
「そうだな。手数も多く、魔力総量的にもBの方が上だ。じゃあ、次」Bの5個はそのままで、Aも《火球》を5個に増やした後1個にまとめる。
「どっちが強い?」元は同じ5個だ。少し難しいかな?シェステは少し考えている。
「強さは同じなんじゃないかなー」
「ほう、なぜそう思う?」
「魔力総量?が同じだから」おお、よく考えているじゃないか。
「ははは、シェステのことだから見た目的にAの大きい1個を選ぶと思ったんだがな。
正解は、理論的には当たりだが実戦的には間違い、ってところだな」
「えぇ~、分かんない!」シェステはほっぺを膨らまして不満そうである。
「勿論魔力総量としてはAもBも同じだ。だから合計の威力は同じということになるが、それは両方が同時にぶつかった時だけだ。
もし、5個のうち1個が同時にぶつからなかったら、どうなる?」
「ええと……5個対4個で5個の方が勝つ?」
「その通りだ、4個と1個に分かれてしまった場合、簡単に言えば同時に当たらないと5対4の1回目と5対1の2回目でそれぞれ負けちゃうってことになる。
厄介なのは、今回は同じ魔法《火球》ってのも大きい。同じ魔法がぶつかった場合、火力が大きい方に飲み込まれてしまう。
だから最悪、5対4と5対1じゃなくって、5対4の後9対1で、最後威力10の火球になって向かってくることも考えなくてはいけないってことだ。」
「そっか……。だから計算の勉強もしてるんだね」そう、日頃の修練もだが、計算の練習も随時やるようにしている。本人は少し苦手なようだが。
「そういうことさ。相手の作り出す魔法に勝つにはどの魔法をどれくらい繰り出すか。仮に負けた場合は次どうすればいいか。それを即時に計算できないと、実戦では通用しないってことだ。計算の練習も頑張るんだぞ?」
「はい!先生!」良い返事だ。そして講義は続く。




