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転魔教師~異世界転移した魔王、元の世界に戻るため召喚者の家庭教師になる~  作者: d-side
第2章 海洋国家オルヴァート編

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91限目「アスラとの手合わせ」

 アスラは左手で木刀を持つとこちらも静かに正眼の構えを取る。


 先に動いたのは彼の方だった。左下段に構えを変えたと思った途端、右上へ強烈な踏み込みと共に右上へ切り上げてきた。俺は身を逸らし、相手の右側へと回り込む。

 その剣筋に沿って、振っている雪のカーテンに裂け目が生じ、さらに先にある木の枝が音も無く裂け落ちた。


 凄まじい剣速と精度だ。片手一振りでこの剣筋のブレの無さ……。なるほど、《大剣豪》の名に偽りなしだ。

「ふふ、今のを避けて死角に回り込むとは。大した❝魔法使い❞じゃ。

 まぁいい、お望み通りお前さんの話を聞こうじゃないか」打ち合いにならずに済んだようだ。全く、食えない爺さんだよ。


 お堂の入口階段に腰掛けると、王女の隠れ場所に心当たりがないかという問いに、アスラは話し始める。


「儂が衛士長だったのは聞いておるじゃろう?当時は❝まだ❞ザナン様は正気を保っておられた。

 じゃが、あ奴、アルバレイという魔族が現れてからは、少しずつ……そう少しずつ様子がおかしくなってしまった。

 儂の忠告など一切聞かず、徐々に奴の傀儡と化してしまわれた」


 少しずつか。自分の権力基盤を固めるまでは周囲に気づかれないように注力した可能性が高い。

「そのアルバレイという魔族、《邪眼》持ちでしょう。《魅了チャーム》の能力で操られていた可能性があります」国を掌握するぐらいの力があるということは、かなりの邪眼使いと見た。これだけでも、アルバレイは惰天四公でほぼ確定だな。


「怪しげな術を使っているかもと感じてはいたのだが、やはりそうじゃったか。

 あぁグレン、敬語は不要じゃ。堅苦しいのは好かん」

「では、ありがたく。アスラは大丈夫だったのか?」


「おそらく《大剣豪》の追加補正じゃろうな。当時は既に精神力数値がかなり上がっておった。だから、儂以外は抗うのは難しかったのじゃろう。

 気が付けば、宮中はアルバレイ派で固められておった」アルバレイが邪眼使いとして相当の実力があるとすれば、それに抗う力を持つ者は相当限られるはず。


「遅きに失したのだ。だが、このまま引き下がるわけにはいかん。

 儂はザナン様に仕合を申し込んだ。この命をもって御諫めするために……。

 だが、結果はこのざまじゃ」右腕を見つめ、彼はさらに話を続ける。


「陛下のジョブは《剣豪》。負けるはずはない。決して侮っていたわけではないが、仕合中感じた。『この力、儂を超えている』と。その瞬間、右腕を叩き折られてしもうたよ」彼が左腕のみで手合わせしたのは、左腕が利き腕ということではなく右腕が使用不可能だったからなのだ。


「すまぬ。話が長くなってしまった。ここからが重要な部分だ。陛下は仕合の最中少しだけ、正気に戻られたのか、こうおっしゃった。

『今の私は自由が利かんのだ。もしもの時は海底神殿に行け』と」


「本気の立ち合いで、一時的に精神力が上がったのでしょう。海底神殿とは?」


「海神様を祀った聖域に建てられている神殿じゃ。代々の王家の者だけが立ち入りを許される。魔を払う結界が施されているから、アルバレイも入れぬだろう。

 だからクシナ様もそこに避難されていると思うのだ」❝海神❞か。紺碧竜のことかもしれない。確かに安全かもしれないが、早く会わなければ。


「我々もそこへ行けるのか?」

「王家の者がいれば直接移動できるのだが、我々は入口となる魔法陣のある場所へ行かねばならん」

「その場所は?」


「オルヴァートの南端にあるラミナ島じゃ。その中央に祭壇がある。そこから海底神殿へ転移できる」

「ならばオルべリア行きは中止だ。準備してその島へ向かおう」

「お前さん決断が速いのぉ。で、物は相談なのじゃが。そちらのお嬢さんは剣士じゃな?」


「私のことですか?はい、現在❝侍❞のジョブを習得しています」

「ほぉ、その若さで。ちと斬撃の型を見せてくれぬか」《大剣豪》の希望だ。是非にとカーラが9つの型を披露する。

「基本に忠実な美しい剣じゃ。良い師に恵まれたのぉ」

「ありがとうございます!」カーラが俺を見て嬉しそうに微笑む。


「グレン、もしよければカーラを少しの間、儂に預けてくれぬか?」

「急な話だな。またなんでそんな気に?」


「いや、儂の気まぐれと言えばそれまでなんじゃがな。常々儂の剣を誰かに継いで欲しいと思っておったんじゃが、お前さんの弟子ということであれば間違いない、と思ってな。

 他流の血が混じることに拒否反応を示す者がいるのは承知しておる。無理にとは言わんが」確かにその通りではあるが、今は師弟関係にあるとはいえ、そもそも最初の師はメイゼルのスタンレー支部長だろう。


「俺は特に流派を掲げているわけではない。だから判断はカーラに任せよう。通常、他流派と稽古なんてざらにあるし、《大剣豪》から直々に学ぶ機会を得るのはカーラにとっても幸運なことだと思う。どうだ?」


「はい!アスラ様よろしくお願いします!」うむ、それでいい。高みを目指すには柔軟な考えが必要だ。

「受けてくれるか!こちらこそありがとう」

「ならば報酬を先に渡しておこう」


「やめいやめい!そんなもんは要らん!」近づく俺にアスラは首を横に振りながら後ずさりする。

「まぁ、遠慮するな」俺は彼の右腕を掴むと、力を込める。すると、異変をすぐに感じ取ったのか、アスラは目を見開いて右腕を見つめる。


「何!?」恐る恐る右腕で木刀を握ると、思いっきり空に向かって剣閃を放つ。

「お主、これは!」自分の右腕にかつての力が戻るのを感じ、アスラは興奮冷めやらぬ様子だった。

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