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転魔教師~異世界転移した魔王、元の世界に戻るため召喚者の家庭教師になる~  作者: d-side
第1章 アルべリオン大陸編

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82限目「挨拶回りは念入りに」

 王は侍従に申し付けると、報奨金と開拓伯を表す緑色の徽章をすぐに用意し俺に渡してくれた。袋を持ったところ、結構入ってる感じがする。まぁ所持している金をいちいち換金するのも面倒だし、王の言う通りありがたく使わせてもらうよ。

 緑色の徽章を襟元につけると、よく似合うぞと思ってるかどうかは分からないのだが、王は満足気な顔をしていた。


「船の方は今しばらく待ってほしい。準備が整い次第使いを出す。

 貴殿の準備もあろう。私からは以上だ。旅の無事と成功を祈っておる」固く握手をする。寝込んでいた割には、握りしめるその手に力をしっかり感じる。

「王も壮健で。アンバール公国の安寧と発展を祈っております」


 王の寝所を退室すると、両王子にパトリック、そしていつの間にかやってきていたカーライル侯とゴルドー伯とは別れの挨拶を交わす。皆一様に旅の無事を祈ってくれた。


 ゴルドーは目聡く開拓伯の徽章を見つけ憎まれ口をたたくのだが、最後は再び俺の料理を食べるのを楽しみにしているという、いつものツンデレぶりを披露し周囲を笑顔にしていた。


 城の外へ出ようとした時は、兵士が門の両側に列を作り敬礼をして送り出してくれた。誰の差し金かは不問にしておこう。俺を含め3人も敬礼で返す。皆目が輝き笑顔に満ち溢れているのがとても胸を熱くさせる。

 この国への愛国心、いや違うな。その言葉では言い尽くせぬほどの愛情を感じる。その気持ちがきっとこの国を導いてくれるだろう。


 俺たち3人は城からの帰りに、ジーランド警備隊長や図書館長ジアスにも別れの挨拶を済ませる。

 ジアスには、禁書庫を確認することを忘れていたことを指摘され、代わりに王子達に緑翠竜の話を聴くことを勧めると、先程までの不機嫌を忘れて目を輝かしていた。好奇心の塊でいてくれて助かったよ。

 最後は旅の土産話を聴くのを楽しみにしている、とギラギラと獲物を見るような目つきで言われたのがおっかないな、そう思いました。


 3人はその後一路ギルドへ。ギルマスのアインに事情を説明すると、残念そうにしていたがすでに準備していたのか、ギルドの登録者プレートを3枚俺達に見せる。

 今回の一件での評価を踏まえ、ギルドの登録ランクを更新したそうだ。


 Aランクだった俺は、Sランクへ昇格。プレートの色が金から白金へ。本当は《革新者》に認定したかったそうだが、俺が嫌がるだろうと気を遣ってくれたようだ。ありがたい。Sもちょっと嫌なんだが仕方ない。


 そして同じくBランクだったカーラは、Aランクへ昇格。プレートの色が銀から金へ。これは正当な評価だな。Aランクは一流開拓者の証だ。小さくジャンプしながら本人もとてもうれしそうにしている。今後は本格的に鍛えてやらないとな。


 最後にDランクだったシェステは、Cランクへ昇格。プレートの色が赤から銅へ。この間まで駆け出し開拓者だったんだが、もう中堅の域に達したか。一番の成長株かもしれない。『次はBランク目指して頑張る!』と力こぶ?を作って早くもやる気満々のシェステ嬢だ。


 三者三様の様子を見て優しく微笑むアインは、レクターにお茶を頼み我々としばし歓談をする。バルーカファミリー出身者の更生の件なども意見を交わし、出立の際は見送りに行くと約束し、送り出してくれた。

 残念ながら《聖なるセイクリッドウィンド》の面々は、任務で不在だったので、再び酒を飲める日を楽しみにしているとの伝言を頼んでおいた。


 宿に戻ると、急ぎ出立の準備をすることになったことを主人に伝えた。こちらも残念そうな顔をしていたが、なお一層のおもてなし(特に料理の方で)を提供すると意気込んでいた。

 その言葉に違わず、以降の料理はとても素晴らしいものだった。シェステの味覚レベルが上昇したらおっかないな、そう思いました。


 翌日は孤児院へ向かい、ルドルフに別れの挨拶をする。本格的に雪が降り始めているため、皆で雪下ろし作業をしていたので、俺が魔法で処理をすると子供達がキャッキャッと騒いで楽しんでいた。


 シェステとジャンは子供達と雪遊びに夢中だったので、ルドルフとは俺とカーラにツェンを加え4人で今後のことなどを話し合うことにする。バレンは子供たちに交じって小さな雪像を作っている。本当に器用だ。


 やはりルドルフはバルーカの更生を一番気にしていたようだが、ギルドやパトリック将軍達の考えや想いを伝えると、心に刺さっていた最後の棘が抜けたように安心した顔つきになった。


❝やりがいを与える❞と言う俺の言葉に共感したルドルフは数々のアイデアを俺に話し意見を求めてきた。辛辣な回答もしたのだが、どこか楽しそうに今後を語るルドルフと、それを心から嬉しそうに見つめるツェンが今後の個人の未来を温かく包んでいるように見えた。


 孤児院を後にして次に向かうのは……。アルべリオン大陸にはしばらく戻れないだろうから、この際全部行っておくか!

 一度行った場所には転移呪文で行けるので、問題はない。というわけで、まずは……。


 ふわりと3人で赴いたのは、裏手には菜園もある懐かしい小屋。ドアをコンコンと2度ノックする。

「誰だ?」扉の外の人物を疑う素振り。変わらないな。


「相変わらず警戒心が強いな、だがその声をまた聴けて嬉しいぞ。ゼト」

「おっ!その声はまさか!」ガチャリと鍵を開ける音。ゼトは慌てたように飛び出してきた。


「おぉ~!!グレン、それにシェステか!一人増えておるようじゃがそうか、お前さんがカーラか」

「ゼト~!」シェステがゼトに抱き着くと、抱きかかえて笑顔を見せる。

「ご存じでしたか。初めまして!カーラです。よろしくお願いします」


「おお、とにかく入りなさい。お茶を用意するから待っとれ!」こちらからはジアスとの仲介の件、ゼトからは娘であるラザック村長リーナの婚約者ジェイドの命を救った件、加えて国難も救ってくれた件についてお互いに礼と労いの言葉を伝え合った。


 その際聞いたのだが、リーナとジェイドの結婚も正式に決まったそうで、式はラザック村で10日後に挙げるそうだ。参加はできないが俺から業物の短剣と弓を、直接渡すと恐縮して受け取ってくれないかもしれないと、ゼトに渡してもらうように頼んだ。


 売るなり使うなり飾るなり好きにしてもらってよいと伝えると、とても喜んでくれた。

 短剣には❝護り刀❞として安全と幸福を、弓には狩猟つまり❝経済❞の象徴として金運と豊作を祈願する風習がある。それをちゃんと受け取ってくれたようだ。


 ひとしきり話をすると、また会いに来ることを約束してゼトの小屋を後にした。

 次に向かったのはラザック村。村長のリーナをはじめ歓待してくれた。リーナには結婚に対する祝福の言葉とともに、祝いの品をゼトに渡してあるので楽しみにするように伝えた。


『次訪れた時には是非肉料理を!』という言葉を覚えていたシェステは、現物を食べたそうにしていたのだが、今回は挨拶回りなのでお流れになってしまった。

 その代わりと言っては何だが、腕自慢のおばあさんからレシピを教えてもらったので、いずれ作ることを約束して機嫌を直してもらった。


『次こそはここで食べる!』という約束をして、ラザック村を後にした。


 そして、挨拶回りもここで最後となる。メイゼルの町だ。

 俺達に気付いた町民が歓声を上げ周囲を取り囲む。口々に俺達の名前を呼び、『お帰り』と喜んでいる。俺達も人気者になったもんだ。


 そして騒ぎを聞きつけてギルド支部長スタンレーがやってきた。何事かとびっくりしていたようだが、大陸を離れオルヴァートへ行くことになったという報告に、そうかと一言。

 ギルドへ場所を移して、話を続ける。受付のモネが淹れてくれたハーブティーが美味い。


 しばらくは顔を出せないこと、主都での一件でランクが上がったことを報告した。そして、最後にカーラの件。簡単に年頃の娘を他人に預けるものではないと説教してやった。反論してきたが、俺が妻帯者だと告げると平謝りしていたのが面白かったな。


 だが、今後は弟子として同行を許したことを伝えると、真面目な顔でよろしく頼むと言われた。根はいい奴なんだよな。


 思った以上に復興は進んでいるようだった。俺が置いていったゴーレムのおかげで作業が進んだらしい。設計図を渡した商工ギルドが建てた大衆浴場も、今や憩いの場となっているとのことだ。本当に良かった。


 国からの人的・物的援助も効率化され、一気に復興へと向かいそうだ。これで心配事はオールクリアだ。

 スタンレーをはじめとするギルド職員に見送られ、主都サフィールに帰還する。



 挨拶回りは完了した。後は船出の日を待つだけだ。



――第1章 アルべリオン大陸編 完――

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