81限目「異変の予感」
悪魔達はそこの辺りの事情は知らない。だからバレない限りはシェステの確保に集中するだろう。契約者の危険はあまり気にする必要はないと願いたい。
「今の巫女殿との魔力量では、確かに目覚めはまだ無理だ。だが、グレンの指導のおかげだろう。順調に魔力は育っている。
私のことは後回しで構わない。旅を続ける途中で目覚めを行える段階に至れば、その時に近場の竜に対して目覚めの儀式を行ってくれれば問題ないよ」順番は関係なしか。ノルマが厳しくなくてありがたいね。
「となると、シェステの修練が大事だな。シェステ、頑張れよ!」彼女は特に気負う様子もなく、力強くサムアップして見せる。心強いぜ!
「念のため聞いておくが、俺の魔力を渡すことはできないのか?」
「ふふふ、グレンよ。その申し出は我らにとってとても嬉しいところなのだが、それはできぬ。
お主が一番分かっておるのではないか?それをしてしまうと、お主が元の世界に戻れなくなってしまうことを」
皆覚えているだろうか。次元を渡るという大魔法を行うための条件、❝召喚時の状態再現❞。魔法の成功率を上げるためには、❝魔法陣❞、❝意思の強さ❞、❝魔力❞の3つを再現しなくてはいけない。
❝魔力❞以外の2つは問題ない。だが、魔力に関しては時間がかかる。俺の魔力は俺の情報を引き継いだ似て非なるものであり、それをシェステに渡すと異物が混入するのと同じなのだ。
だからこそシェステには自前の魔力を育んでもらう必要がある、という理屈である。
「できるかできないかと言われればできる。だが、そのためには一度巫女に魔力を渡し、魔力の精製をしてもらう必要がある。
だが、その時点で元の世界への帰還可能性が低下する。それは避けた方がいいと気を遣ってくれているのか」
「そういうことだな」なかなか憎いことを言ってくれる。だが、大魔王復活の件もある。俺は保険でもあるのだろう。最強戦力を温存するのは致し方ない。
「分かった。その件は忘れることにしよう。
よし!今の時点で情報は十分だ。緑翠竜よ、感謝する。シェステのことは俺が全力で守ろう。あと、目覚めの儀式を行えるように頑張ってこいつを鍛えよう」まぁ、結局やることは今までと変わらないのだ。切り替えていこう!
「次はどこへ向かうのだ?やはりオルヴァートか?」敵はどこにいてもやってくる。ならば近い所から順に回るのが一番だろう。
「そうだな。オルヴァートに行くことにするよ。リヴァルダスだったか。連絡は取れないのか?」
「うむ、しばらく連絡は取っておらぬ。魔力が必要でな。なので、巫女よ。少し魔力を分けてもらってもよいか?」
「いいよ!」もう少し丁寧な言葉でもと思いはしたものの、竜が嬉しそうにしているので、黙っておくことにした。
竜が翼を広げると、シェステからキラキラと光の粒子が移動していく。竜の身体に光の粒が吸収されるとぼんやりと光を帯びていった。
「確かに受け取った。これで各竜に状況を伝えることができよう。
各契約者とは竜を通じてメッセージが届く。なので、各契約者と会うことを最優先にするとよいだろう。私とはその竜鱗鉱を所持していれば会話ができる。いちいち掲げなくともよくなるぞ」正直それはありがたい。めちゃくちゃ光るからな!眩しくてかなわん。
「では、早速リヴァルダスと連絡を取る。待っておれ。
リヴァルダスか。久しいな。今巫女一行が我が元へきておってな。次はお主のところへ行くと……。何?それはどういうことだ!リヴァルダス!」なんかヤバい雰囲気だ。
「どうしたんだ?」
「伝言がある。
『王と会ってはならぬ!鍵は王女に……』
それを最後に連絡が途絶えた」状況は分からんが、何かあったな。旅の開始を急ぐ必要がある。
「分かった。急いで旅の準備を始めよう。何か情報をつかんだら連絡してくれ!」
「うむ、リヴァルダスと契約者のことを頼む!」別れの挨拶をそこそこに、俺達は竜宮を後にする。ラフィルネが少し寂しげに見えたが、今しばらくの辛抱だ。仲間たちとの再会を楽しみに待つといい!
竜宮への門をくぐり、ライゼル王の寝室へと戻ると、王は深刻そうな顔をしていた。
「会話は全て聴いていた。オルヴァートが何やら不穏なことになっているようだな」
「何か関係が?」
「実はアンバールとオルヴァートは血筋を辿ると同じ祖へと行きつくのだ。ある意味兄弟国と言っていい。そのオルヴァートに異変が起きたとならば、心配せずにはいられない」位置関係からしても隣国と言ってもいいようだしな。そうか。遠縁とは言え親戚が困っているとならば、心配するのも当たり前か。
「本来ならば、もっとそなたと話してみたかったのだが。そうも言っておられん。私からの話は手短にしておこう。
褒賞だが、まずグレン殿、お主には各方面との相談の結果爵位《開拓伯》を授与することとした。そして報奨金も出る。旅をする上で都合がいいだろう。
今は時間がないからな。拒否することはできぬ。ありがたくもらっておいてくれ」くっ、無理やりだが仕方ない。爵位か……。使うことがあるのか疑わしい所ではあるが。
「それと何か要望があれば聞くが、あるかね?」
「それでは、船を一隻そして船旅に必要な物資と食料をお願いしたい」
「分かった、至急用意させよう。それだけでよいのか?」
「ええ、十分でございます」王の呼びかけに笑顔で答える。これなら船の準備ができればすぐにでも出立できそうだ。




