80限目「副支部長の告白②」
うん、皆黙ってしまったな。まぁ、❝魔王❞とバラされてしまっては混乱するのも無理はない。だいたい、この世界で魔王と言えば、畏怖の対象であり敵対勢力の親玉だ。気持ちの整理に時間が……
「道理で強いわけだな」
「そうですね。同感です」
両王子が私の独り言を遮って話を進める。
「なんか腑に落ちたよ。グレンの能力は規格外だと思っていたんだが、人の身でそこまでの力を身につけるのは、尋常じゃない感じはしていたんだ。
グレンは気にするかもしれんが、我らは気にしない。味方でいてくれて心底ありがたいと思ってるよ」アルバートがそう微笑みながら語る。俺の心配はどうやら杞憂だったようだ。
ただ……。カーラがさっきから何やら考え込んでいるように見えるのは、気のせいだろうか。
「カーラ、何か質問があれば遠慮なく言ってくれていいんだぞ?」
「……き……です」
「ん?もう一度言ってくれるか?
「好きです!」何だよ、突然!
「何が好きなんだ?」
「グレンのことが!その……好きなんです……」
「「「「!!!」」」」しばし無言の時間が続きまして……。
「さっきも言ったが、俺には家族が」
「それでもです!」食い気味に言われてしまった。
「俺はお前の気持ちには応えられんぞ?」
「それは十分わかっています。ただ、自分の気持ちは大事にしたい。なので、このまま好きでいさせてください。それと……」ここまで言われてはな。それに❝そうありたい❞と願う気持ちまでは俺に止める権利はない。
「それと?」何!まだあるのか?
「どうか私を今後の旅に同行させてください!」まっすぐに俺を見る目は真剣そのものである。はて、どうしたものか。
「なら2つ確認させてほしい。
まず一つ目。カーラはメイゼルの副支部長だろう?その役目はどうするつもりだい?
そして、二つ目。もし同行したいのなら、スタンレー支部長にきちんと許可をもらいなさい」
一つ目に関してだが、メイゼルは魔獣被害からの復興真っ最中だ。今後さらに人手が必要になるだろう。フリーの開拓者ならともかく、役職を持ってる彼女が簡単にそれを放り出すことは許されないとは思うのだが。
二つ目に関しては当たり前の話なのだが、上司であるスタンレーに無断で連れていくことはできない。もはや駆け落ちになってしまう。
「それは……支部長のスタンレーさんに……ゴニョゴニョ……」
「ゴニョゴニョってなんだよ。全く……。別に怒ってるわけではないんだ。
ただ、これは大事なことだからはっきり喋ってほしい」カーラ、シャッキリしなさい!
「はい。その件については、支部長に相談しました。結果から話すと、しばらくフリーの開拓者として、グレンと同行することを許可してもらいました。
『広く世界を見て、たくさんのことを経験するんだ。そして必ずここに戻ってこい。待ってるぞ』と」あいつ、あっさりと許可出しやがって!
「はぁ、スタンレーもよく許可を出したな。にしてもカーラの行動力もすごいもんだ。
分かった、今後は私の弟子ということで旅の同行を許可する」そこまで根回しされたら、流石にお断りはできませんよね?カーラはガッツポーズをして心から喜んでいる。
本来の愛情とは行かないが、子弟の絆という意味で愛情を注いでやろうじゃないか!
「ふふん、なら僕は正式に❝姉弟子❞というわけですね。先輩だから今後は僕を❝シェステ姉さん❞と呼ぶことを許可します」鼻息荒く急に何を言い出すかと思えば。殿下たちが笑うのを必死に堪えている。
だが、おかげで変な空気になりかけたのをリセットできた。グッジョブだ、シェステ!
「さて、寄り道をしてしまったが話を本筋に戻そう。
竜の巫女を狙う悪魔の目的を知りたい」この点も是非知っておきたい。竜にとっては必要不可欠と言える存在なのは分かった。だが、悪魔にとっての価値というのは?
敵対勢力の弱体化?いや、レプトは❝確保❞という言葉を使っていた。
「我々を弱体化させようという意思はない。あくまでも魔王復活のためなのだ」またコイツ俺の心を……。もう諦めよう。
「我々竜を目覚めさせる。それは我々に竜の巫女が持つ大量の魔力を注ぐことを意味する。そして、これは魔力が枯渇している魔王にとっても同じなのだ。
大量の魔力を保有し、他者へ純度の高い魔力を注ぐ能力を持つ竜の巫女を使えば、魔王復活の最短手段となりうるというわけだ」悪魔達にとっては喉から手が出るほど竜の巫女を欲しがっているということか。
「すると、悪魔達がライゼル陛下いやここは契約者と言うべきか。確保しようとしたのは?」レプトによれば、優先度は竜の巫女が上ということだった。
「それは竜の魂である《竜核》を狙ったのだろう。魂だけの存在ではあるが、相応の魔力に変換可能だからな。いつ現れるかわからぬ巫女を探すよりも手間はかかるが確実だと奴らは踏んだ。
だが我らは各自固有結界《竜宮》へ引き籠っている。だからこそ、門の鍵である《竜鱗鉱》と門の召喚能力を持つ契約者を手に入れる必要があったというわけだ」かなりの事情通が悪魔側についてる。そう、それが……。
「その情報を悪魔にもたらした者が、エルガデルというわけだ。
魔に魅入られてしまった大馬鹿者だ。次に出会った時は遠慮は要らぬ。冥界へ送ってやってほしい」とはいうものの、一応あいつなりの言い分も聞いておきたい気もする。それは今後いくらでも機会があるだろう。
「ではこれで最後にしよう。シェステがお前さんを目覚めさせるにはどれくらいかかりそうなんだ?」
「グレン、それは……。竜を今目覚めさせることはできないということか?」アルバートが驚きの目でこちらを見ている。
「あぁ、そうだ。確かにシェステには膨大な魔力が❝あった❞。だが、俺を召喚したことで魔力がかなり消耗してしまったんだ。だから今のシェステには竜を起こすだけの魔力はない。そうだろう?」竜にそう言葉を投げると、そうだと言わんばかりに頭を縦に振る。




