79限目「竜魔大戦の真実と身バレ」
「どうして力を失っているんだ?」
「そなたら《竜魔大戦》を知っておるか?」そういえばシェステの家にあった古書に表記があったな。
「遥か昔に起きた、人族を食糧とする悪魔族と、人族を守護する竜族との全面戦争という認識です」ロベルトが答える。
「うむ、人族の伝承ではその認識であろう。だがもう2000年以上前の話だ。それ故に正確ではない」神話・伝承という類の話は、時間が経つにつれ、尾鰭がついたりして変わってしまうことはよくある。
竜魔大戦も例外ではなかったということだろう。
「当初の流れはそれで間違ってはいない。魔王率いる悪魔軍と我ら六竜率いる竜族軍の全面戦争であったはずなのだが、その過程で悪魔族の方で大きな変化があってな。
当時の魔王が戦場で膨れ上がった魔力を糧にして、突如大魔王へと進化した。
だが、大魔王になったあ奴は魔力制御に失敗し、ただただ暴れ狂う凶悪な災害へと転じてしまったのだ」まさかこの世界にも大魔王がいたとはな。大魔王に進化したとすれば、それなりに❝器❞としては大量の魔力を内包できたはずだろう。
しかし、魔力暴走を起こした。進化したことによる高揚感で目測を誤ったか。魔力を扱えること自体、万能感を感じやすい。だから調子に乗って失敗する者も少なくない。
ただでさえ魔力を扱うのは細心の注意が必要なのに、魔王がそれに飲み込まれてしまうともはや手に負えない。
「このままでは世界が滅ぶ。悪魔もそうなってはさすがに困るということだろう。我々は一時停戦し、共に大魔王と相対したというわけだ」共闘したんだな。正しい判断だ。
「だが大魔王は強すぎた。討伐どころか封印するのがやっとだった。
結果、我々六竜は全ての力を使い果たし魂だけの存在に。
そして先代悪魔公《堕転四公》3人が命を落とし、新しい魔王も眠りにつくことになった。」先に戦った《惰眠》のレプトは確か《惰天四公》だったか。ややこしい、全くややこしすぎるぞ!
「《堕転四公》3人?数が合わないんじゃないか?」
「そうだ、1人生き残っておる。それが《堕楽》のエルガデル。
あまり話したくはないのだが、私の不肖の息子なのだ。ふん、魔竜落ちなどしおってからに」ということは、ラザックの言い伝えの❝竜の親子喧嘩❞というのは、ラフィルネとエルガデルのことだったということか。
「なるほど……。退魔結界《聖域》が効き辛かったのは、生粋の悪魔ではなかったからだな。
そしてあいつが逆にダメージを受けたのは、竜の加護の影響か」
「グレンの申す通り。やつは竜族から❝魔竜族❞へと堕転した。なので我々を強力に守護する❝竜の加護❞は、今や奴にとって忌むべき力となってしまったのだ」
「新しい魔王と言ったな。そいつはどうなってるんだ」
「魔王も魔力をほぼ使い果たしてしまったようでな。魔力増強のために眠りについたらしい」やはり現在の魔王軍は魔王不在の状態だったというわけか。
「魔王は何を目指して眠りについたか分かるかい?」
「実は魔王は眠りのつく前に予言を残している。
『大魔王はいずれ目覚める。❝最強の異邦者❞の手によって』とな。
その意味は分からぬ。だが、その❝異邦者❞とはお前のことなのだろう。私はそう思うのだ。異世界最強の称号《魔王》の名を冠するそなたであれば」
「「「!!!」」」
「おいおい、今それを言うかね……。デリカシーって言葉を知らんのか?」やはりこの竜、俺の過去を視たな。
「だが、その話をせねば今後の話ができんから仕方あるまい」
「『異世界』?『魔王』?どういうことですか?」カーラが激しく反応する。
「こんな早い段階で話すつもりはなかったんだがな……。だが、話さねばこれ以上会話が弾みそうにないから、事情を話しておく。
これから話すことは絶対に他言無用で頼むよ」王子達とカーラが首肯する。
「まず、俺はこの世界の人間ではない。まぁ、魔王なんで人族でもないんだけども。
ひとまずそれはさて置き、ここにいるシェステにこの世界へと召喚された。その目的は約定により明かせないが、世界を滅ぼす系の物騒な理由ではないので安心してほしい」竜が頷くのを見て、一同話の続きを聴く。
「俺の目的は、シェステの願いを叶えた後に元いた世界へと戻ること。元の世界に妻子を残してきている。今もどう過ごしているのかと心配しているんだが」
「妻子……。既婚者でしたか……」カーラがひどく落ち込んでいる様子だ。
「召喚前は執務中でね。山ほど仕事が残っていた。その山が今もなお大きくなっているかと考えると、恐ろしくてかなわん!
というわけで、できるだけ早く元の世界に戻るべくシェステと旅をしているわけさ」
「《魔王》と言うのは本当かい?」アルバートが疑問を口にする。
「本当です。ただ私の世界でいうところの魔王は❝魔族❞の王と言う意味で、魔族も魔力操作に長けた者の総称です。《悪魔族》とは区別して頂きたい。
それにもう永きに渡り大きい戦争は起こっていないので各種族と平和条約を結び、互いを尊重し平和を享受する世界において、私は一国王に過ぎません」
「そうかグレンの世界は、平和になって久しいのだな。羨ましい限りだ」
「そうでもありませんよ」
「?」
「平和である時間が長くなれば長くなるほど、❝平和❞であることが当たり前になり、平和という状態が得難いことであるという認識が薄れてしまいます。
小競り合いが紛争になり戦争になり、長期間民が苦しむ。そのことへの理解を継続して働きかけることは、非常に難しいんです。
残念ながら、平和の必要性が実感として湧く時、それは身近な場所で紛争が起きた時なんですよ」
「確かにそうかもしれませんね。平和に対する意識は平時から強く持たなくては」ロベルトがその意味を噛み締めるように頷いている。
「話が逸れてしまいましたね。私は国王、ただそれだけの存在です」




