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転魔教師~異世界転移した魔王、元の世界に戻るため召喚者の家庭教師になる~  作者: d-side
第1章 アルべリオン大陸編

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67限目「クヴァルの足掻き」

「一応聞くが、一人で行くのか?」そこは流して欲しかったのだが……。一応説明しておくか。


「本当は付き添いが欲しいところなんですよ?

 ただ《惰眠》のレプトは、禁呪である《魂睡ソウルスリープ》を使うところを見るに、精神干渉系の上級スキルを多数持っている可能性があります。これがかなり厄介でしてね。


 味方を眠らされたりして無力化されるならまだしも、混乱や精神操作状態になってしまうと同士討ちに発展する可能性が極めて高くなります。

 ならば耐性のある私一人で行くのが一番なんです。


 それに先方たってのご指名なので一人で行かないと機嫌を損ねちゃいますよねー。仕方ありません。いやぁ参っちゃうなー」一同苦笑いである。


「はぁ~、とりあえず心配する必要がないのは分かったよ。よいか、無事に戻って来いよ!」

「はっ!」上手く誤魔化せたようである。もちろん先述の理由は間違ってはいないので、どちらにしても一人で行くしかないのだけれども。


 誤魔化せたというのは、俺にとって譲れない理由があるからだ。おそらく可能性は低いが、万が一俺が全力で戦うといった場合、その様子は他人に見られたくはない。これは絶対に譲れない一番の理由である。


 俺が《魔王》である事実は何としても秘匿しなくてはならない。悪魔が人に仇名す存在としてこれだけの騒ぎを起こしている以上、違う種族とはいえ魔族への風当たりは一層強くなるだろう。俺の素性が知れてしまうと、八方塞がりになってしまう。


 はてさて、いつまでこの秘密を守り通せるのやら。


「ではパトリック殿、カーラ。城門まで送ろう。両殿下、シェステ行ってきます」俺は2人を連れて城門まで転移した。


「おい、あいつ何も詠唱しないで行ってしまったぞ」アルバートが少し自嘲気味に呟く。

「確かに無詠唱でしたね」ロベルトがそう相槌を打つものの、今更驚くことではないかと思ってしまった自分に思わず溜め息をついてしまう2人の王子であった。



 城門前。転移が終了し、ふわりと姿を現す3人に門番は一瞬驚くが、将軍であるパトリックがいたため、すぐに身なりを整え敬礼をする。

「ではパトリック殿、カーラ。打合せ通りに」

「了解した。武運を祈っているよ」「グレン、ご武運を」

「ありがとうございます。ではお先に」《飛行フライ》で幻影城のある西部平原へ急ぐ。


「よし!カーラ君、私達も急ごう」

「はい!」カーラ達が向かうのは主都警備隊の本部庁舎。そこでルドルフとカインがすでに待機している。今から《バルーカファミリー》の本拠地ホームへ向かう。何事もなければよいのだが。



――都内某所。《バルーカファミリー》の本拠地ホーム

「どういうことだ!約束と違うではないか!なぜ警備隊と軍が出張るんだ!」慌てる《バルーカファミリー》のトップ、クヴァルが己の不満を机にぶつける。

「次々とこちらが手配した者達が拘束されていて……。しかも監視役の若い衆も連行されています」


「馬鹿な!ウルベス卿は!そうだ、エルダン卿でもいい!すぐに連絡を取れ!」

「それが、こちらからの連絡に一切応答がなく……」

「くそっ!あの金満貴族にどんだけ金を費やしたと思ってるんだ!」クヴァルはさっきから舌打ちが止まらない。


「頭……。ここはいったん身を隠した方が」後ろ手を組む若頭が意見を述べるのだが。

「なぜ俺が、こそこそ逃げなきゃならんのだ?おい言ってみろ!その訳を!」

「い、いや、それは……」

「どいつもこいつも!」咥えていた葉巻を灰皿にグリグリと押しつける様子からして、物事が思うようにいかないイラつきに加え、怒りの行き場がないといった状況である。その時であった。


 ドンドンドン、ドタドタとドアを叩く音や外で大声と足音がけたたましく入り乱れている。

「今度はなんだ!」

「頭、逃げてくだせぇ!軍の奴らがカチコミかけてきやがった!」どうやら軍が突入を開始したらしい。一際大きな舌打ちをするクヴァルだが、一向に逃げ出す様子はない。


「クヴァル、年貢の納め時だ。諦めろ」ルドルフがドアの傍にいた男を締め上げながら、クヴァルに最後通牒を突きつける。

「ルドルフ、お前捕まったって聞いてたぞ。まさか軍とつるんでたとはな」強がりなのか、豪胆なのか笑みを浮かべ挑発的な言葉を放つ。


「つるんでなんかいねぇ。俺は一生懸命生きてるだけだ。お前も足を洗って真っ当に働いてみろ!俺が手を貸してやる!」ルドルフは自分の身の上と重ね合わせる。 ある意味商売敵であり、ある意味もう一人の自分である。そう、一つ間違えていればクヴァルと同じ道を歩んでいたかもしれない。その差は何か……。


 自分に温かく手を差し伸べてくれる者がいたかどうか。こいつだって、やり直せるはずだ。そう信じて疑わないルドルフは手を差し伸べたのだが。


 少しだけ目を閉じていたクヴァルは、ゆっくりと目を開け自嘲気味に静かに笑う。そして舌打ちに続き溜め息を一つ。

「正直なところ、お前みたいな生き方が羨ましいと感じなくはない」

「なら!」


「お前は運が良かった。それも飛びきりの運だ。言っとくが、それは皆がみんな掴めるもんじゃねぇ。俺が掴むことは一生できねぇ運だ。

 俺等みたいなゴミ屑はな、人様が生きてる限りずっと増え続けるんだ。だからと言って偉い奴は本気で減らそうとはしねぇ。全くっ、バカばっかりだぜ。

 だから血反吐はいて裏社会で生きてくしかない。俺が足洗ったくれぇじゃ、世の中そうそう綺麗になっちゃくれねぇのさ」


「頭……」クヴァルの傍にいる若頭は言葉を失う。

「行け!」

「!!」

「もういい、バルーカはもう終わりだ。抵抗はやめろと野郎どもに言ってこい」納得はしていないようだが、❝ファミリー❞の幕引きの判断は潔く自分でといったところだろうか。だが。


「ルドルフ、あいつらのことはお前に預ける。全員俺の指図で動いたことだ。あいつらの今後のためにも上手くやってくれ。

 だが、お前のさっきの申し出は却下だ。俺は最後まで諦めねぇからな。冥途の土産にお前らを道連れだ。嫌なら止めて見せやがれ!!」ポケットから出した小瓶の封を開け一気に飲み干す。


 するとエルダンの時同様、クヴァルの身体から黒い靄が吹き出し飲み込んでいく。自分自身の幕引きとしては最悪な方を選んでしまった。

「ルドルフ、下がれ!奴が魔人化する!カーラ君あいつを止めるぞ!」パトリックとカーラが剣を抜いて構える。


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