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転魔教師~異世界転移した魔王、元の世界に戻るため召喚者の家庭教師になる~  作者: d-side
第1章 アルべリオン大陸編

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65限目「エルガデルの秘密、シェステの秘密」

「お初にお目にかかる方々もいらっしゃることですし、せっかくですので自己紹介を。

 私は現在、惰天四公《惰眠》のレプト様の下で雑務を仰せつかっている《辺境伯》エルガデルと申します。何卒お見知りおきを」足を交差させ右腕を大きく開き芝居がかったような一礼をすると、こちら側に挑戦的な笑みを向ける。


「貴様は❝悪魔❞であろう。なぜこの結界の中でそのような表情をしていられる?」ロベルトがエルガデルに問う。すると、エルガデルは素直に答える。

「ハハハ、タネは簡単です。❝やせ我慢❞ですよ。

 まぁ確かに。この究極退魔結界《聖域サンクチュアリ》ならば、❝普通❞の悪魔如きそれこそ秒で死ねますね。瞬殺です」そう言いながら、エルガデルは少しずつ歩み寄ってくる。


「私も悪魔の端くれですので、非常に辛い所です。が。

 フフフ、❝悪魔❞というのは私の❝第2❞属性でしかございませんので、少々我慢していれば、何とか持ち応えることもできるのですよ?」


「おのれ!化け物め!」パトリックがエルガデル目掛け刺突を繰り出す。が、全て避けられてしまう。パトリックが弱いわけではない。一国の将軍であるパトリック。彼よりもはるかにエルガデルが強いのだ。

「おやおや、短気はよくありません。私は只一点、上司からの仕事を終えさえすればすぐに失礼いたします。皆様に危害なぞ加える気は毛ほどにもございません」


「その仕事とはなんだ!」パトリックの問いに、またもやエルガデルは素直に答える。

「アンバール公国公王、ライゼル=ド=アンバール。その身柄を安全に持ち帰ることですよ」楽しげに語るその言葉の内容に部屋の中は一気に緊迫の度合いが増す。


「さぁ、ご質問の方はもうよろしいですか?流石に結界の浄化力が地味にキツくなってきましたので、そろそろ公王様と一緒に帰ろうかと思うのですが」エルガデルがベッドの方向に手をかざすと、公王が光に包まれふわりと浮かび上がる。

「「父上!」」「陛下!」


 慌てる3人に対して、シェステは冷静に対処する。公王の方へと指輪を掲げ己の護り手を呼び出す。

「させないよ!アルス、皆を護って!」瞬時に指輪から実体化したアルスは、身体を震わせ力を込め一声鳴く。すると、公王を中心として守護結界を展開させていく。


「お嬢さん無駄ですよ?私にはその程度の結界は通用しません」緑の球体が大きくなっていくが、エルガデルは一切動揺する様子はない。一人また一人と結界に飲み込まれていく中、エルガデルもそのまま飲み込まれようとしたその時。


「えっ!?」エルガデルの右腕が結界の中に飲み込まれた瞬間、伸ばしていた右手が消失した。右手が消失したため浮力を失った公王はベッドに落下する。が、両サイドにいた王子達により見事キャッチされた。


 それよりも、その場にいる誰よりも驚いていたのがエルガデル本人であった。一瞬何が起きたのか分からなかったのか、右腕の肘部分までが飲み込まれ消失してしまっていた。

 慌てて腕を引っ込め、後ずさりしていく。その表情からは先程までの余裕は消え去っていた。親の仇を見るような険しい目つきをして、目の前の球体上の結界を睨みつける。


「馬鹿な!これは……ただの結界、❝退魔❞結界ではない?いや、そんなはずは……。

 貴様、何をした!」憎悪の対象を変え、恐ろしい表情でシェステを睨む。

「僕は、悪い奴に出てって欲しいって思っただけだよ!」

「そうだそうだ!悪い奴は出てけ!」後ろの方でアルバートが煽っている。


「この緑色……。まさか!緑翠竜の加護なのか!ということは……、貴様は!」するとエルガデルの表情が今までと打って変わって、少年のような表情を見せる。


「ハハハハハッ!見つけた!とうとう見つけましたよ!魔王様!!!」身体を折り曲げ、片腕ではあるが渾身のガッツポーズをしている。

「いやはや、取り乱してしまいました。あまりの喜びで我を忘れてしまいました。申し訳ございません」再び芝居がかった一礼をするエルガデル。


「そうですか。そうでしたか!あなたが……。今更ではございますが、お名前をお聴きしても?」

「僕の名前?う~ん……。ま、いっか。僕の名前はシェステだよ」あまりの変貌ぶりに呆気に取られて自分の名を口にしてしまった。


「シェステ。うむ、良い名前です。今回はあなたの結界と相性が最悪ですので、ここで引かせて頂きます。が、あなたのことは覚えておきます。またいずれお会いすることになるでしょう。

 その時まで御機嫌よう《竜の巫女》様」

 最後の言葉に思いっきり動揺するシェステをよそに、右腕の仕返しとばかり大声で笑うとエルガデルは姿を消して退却していった。


「退いてくれたか……。シェステ、ありがとう」アルバートが感謝の意を述べる。

「う、うん」エルガデルが最後に残した言葉に未だ動揺しているシェステ。


「シェステにも事情があるのだろう。今回のことは我らの胸に留め置く。心配はいらん。今は目の前の危機が去ったことを喜ぼうではないか。

 それに、事が終わるまではまだ気は抜けぬ。警護を引き続きよろしく頼む」微笑みかけるアルバートにシェステは元気を取り戻し、笑顔で頷くのであった。



――王城、謁見の間。

 主都全域が《聖域サンクチュアリ》の効果範囲に包まれた頃、魔人エルダンにも変化が現れてきた。純粋な悪魔とは違うため消失は避けられたものの、明らかに動きが鈍くなっている。そして最大の変化は自己再生能力が失われたことだ。これはこちらにとってかなり有利だ。


 ❝退魔❞結界という性質上仕方のないことなのだが、効果対象は❝悪魔❞のみである。

 魔人と化したエルダンは、人と融合しているために十全な効果を得るのが難しいのである。究極退魔結界とはいえ上位の悪魔となると、時間の問題ではあるもののすぐに効果が出ないこともある。


 異なる結界の重ね掛けも試したものの、ケースバイケースだが違う種類の結界だと効果が干渉し合い効果が減衰してしまうことがあるので注意が必要なのだ。

 だが、じわりじわりとカーラは確実に魔人エルダンを追い詰めていた。これは確実にカーラ自身の実力によるものである。

「おのれ!忌々しい結界だ。これさえなければ!」


「悪く思わんでくれ。打てる手を打つのは戦術の基本だ。悪いがそろそろこの舞台から降りてくれないかな」俺の言葉を聞いたカーラが刀の束を力強く握りしめる。

 深い呼吸を一つ。ただならぬ雰囲気に魔人エルダンも両手の斧に力を込める。


 次の瞬間2人が激しく刃を交える。2分程打ち合うとカーラは裂帛の気合いで速度を上げ、魔人エルダンを押していく。そして。

 彼の左腕が斬り飛ばされ、大きく身体が仰け反った時にカーラは力強く刀を振り抜く。


「グハッ!」血液を撒き散らしながら、前方へと倒れ込むと身体が黒い靄と共に崩壊していき、中からエルダンの姿が現れる。


「迷惑をかけた。ありがとう……」

「どうぞ安らかにお眠りください。良い夢を」カーラが優しく呼びかけると、エルダンは安らかな顔で目を閉じた。

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― 新着の感想 ―
エルガデルは退いてくれましたが、シェステさんの正体がバレてしまったようですね……。 うーん。ちょっと心配ですね。 d-sideさん、しばし間が空いてしまっててすみませんでした。 別のWe小説サイトで…
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