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63限目「聖域」

――城内、公王寝室。

「パトリックです」

「いいぞ、入れ」扉を開けると、まばゆいばかりの光に包まれる。しかし不思議と温かく優しい光だ。入室直後は一瞬眩しいと感じたのだが、すぐにこの光の中でも目を開けていられるようになった。


「色々とお伺いしたきことがございますが、今はまずご報告を」主都内外で起こっている事態とグレンの要請についての説明を一通りすると、王子達と《聖なる風》の面々は顔を見合わせ、頷く。


「うむ、先日の❝悪巧み❞の範疇だ。ならば、シェステ。ここはお前に任せて良いのだな?」

「うん、いや……はい。さっきも言ったけど、皆のことは僕が守る……ます。任せといて!下さい」

「ははは、いつも通りの話し方で構わん。よし!グレンの愛弟子とやらの実力、この目で確かめようではないか」


「それでは、我々はご指名なので、これにて」《聖なる風》の3名が席を立つ。「よろしく頼むぞ」

「「「はっ!」」」《聖なる風》の紅一点、魔導師ノエルが転移呪文を詠唱する。

「時統べし黒き神エブロゼータよ、我々にその瞬きをもって彼の地へ至る道を開かん!《転移テレポーテーション》!!」詠唱が終わると同時に3人の姿が消失する。


「彼らには父上の警護でずっとここに籠らせっきりだったからな。悪魔相手に思う存分暴れられるというのは僥倖だろう。無事に戻れよ」アルバートは彼らを気遣う。


「殿下、この光のことをお聴きしても?」

「あぁ、この光はグレン考案の結界によるものだ」


***********

――昨日、公王寝室にて。

「ベッドの下に展開しているこの魔法陣は《聖域サンクチュアリ》ですね?」

「あぁ、そうだよ。パーティの魔導師ノエルが張ってくれたものだ」《聖なるセイクリッドウィンド》のリーダー、ルノーが答える。


聖域サンクチュアリ》。光属性の結界魔法では最高位の、究極退魔結界である。よもや人間の手でこの結界を創り出すとは。流石、革新者である。

 これならば、悪魔はこの結界に触れることすら叶わない。触れようとした瞬間消し飛んでしまう。


「ですが、この強度を保つには尋常じゃない魔力を必要とするんじゃないですか?」

「流石だね。その通りだ。だから彼女でも1日に1回が限度だし、魔力がごっそり持ってかれるもんだから、ノエルはずっと横になってる」究極魔法である故に効果は高いが、燃費もべらぼうに悪い。これでは革新者とはいえ、パーティーのパフォーマンスに影響出まくりである。


「ならば、少しアドバイスをさせて頂ければと」


***********

――城内、公王寝室。

「それで、結界の効率化をしてくれたのさ。光を司る神の力を❝魔石❞に込めベッドの周囲に配置することで、従来の3分の1の魔力で発動できるようにしたらしい。魔法のことはよく分からんが、そういうことだそうだ。ノエルが目を丸くしていたよ」


 高純度の魔石には大量の魔力が内蔵されている。その魔石に《刻印魔法》を使い神の名や特殊な図形を刻むことで、呪文増幅器として活用ができる。そう、神の名を用いることで神の力を借りるのだ。


 この手法はとある地域で《呪符》という魔法媒体を使うのを見て、グレンが応用したらしい。あまりピンとは来ないが、目の当たりにするとやはりあのグレンという者は只者では無いことだけは直感で分かる。


「では、1日はこれで凌げると」

「それがな。魔石を4個配置したので3日は持つんだそうだ」ロベルトが苦笑いしながら驚くべき効能を語る。

「な!では実質9分の1の魔力で済むということですか!」アルバートが呆れたように2回頷き、呟く。

「こうなると、悪魔達が可哀そうに思えてくるな」



――都内某所。

「こいつ本当に人間なのか?」町中で暴れる男を、先程から主都警備隊が複数で制圧にかかるが、なかなか抑え込むことができず苦慮していた。

「警備隊ご苦労!俺達が変わろう」そこへ駆けつけたのは公国軍第3部隊の小班だった。


「申し訳ありません、対象をここに止めるしかできなくて」力不足を口々に唱える警備隊員に対し、労いの言葉をかける。

「いや、被害が拡大しないだけでもお手柄だぞ!こいつは悪魔に魅入られている。通常武器では歯が立たない可能性があってな。後は俺達に任せて、住民の避難誘導を頼む!」


「はっ!心得ました!」警備隊員は逃げ遅れた住民達を連れ退避していった。

「こいつはどうだ?」

「はいっ!《バルーカファミリー》と接触していた者です!」後方に控えていたのはツェンだった。ルドルフが連行された後、ギルマスのアインから協力要請を受けていた。

 内容は❝バルーカファミリーとその関係者の監視❞である。日頃から彼らの動向が気になっていた孤児院スタッフを総動員して、ギルドと軍へ協力していたのだ。


「よし!全員聖武器は装備しているな?牽制しつつ、合図を待て!合図が出たら、制圧開始だ!」

「「「「おう!」」」」



――王城、謁見の間。

 先程からカーラと魔人エルダンがしのぎを削っている。

 あの魔人、なかなかに強い。

「ブハハハハ、貴様やるではないか!喰らうのが楽しみだぞ!」両手の斧をただただ振り回すようでいて、微妙に軌道もタイミングを変えている。器用なやつだ。


 カーラの刀の軌道を推し量り、じっとその時を待っているようでもある。だが、そう簡単にいくかな?

 先日やった、自分を相手にしたイメージ模擬戦闘。己の癖を知り、相手の行動を読み、敵に一撃を加える修練。ここで役に立つはずだ、行け!カーラ。


 魔人エルダンの動きを読み、あえて自分の癖を残した上で左手の斧の軌道を逸らし、バランスを崩すことで弱まった右手の攻撃を弾き、すぐさま胴から胸にかけて切り上げるように斬撃を浴びせる。血しぶきを避けるように、後方へ下がると《真空飛斬エアスラッシュ》を3回叩き込む。

 だが、器用に避けると息を大きく吸い込み吐く。すると、さっき受けた傷が塞がれていく。自己再生能力を持っているのか。


「すまんなカーラ。自力で倒させてやりたいが、町中の暴動のこともある。少し梃入れさせてもらう」

「グレン、心遣い感謝いたします。今後の修練を頑張りますので、御随意に!」

 ではカーラの許可も貰ったことだし、今回は範囲が主都全域とかなり広い。久々に❝詠唱❞するか!


「心正しき者に神の祝福を。邪なる者に神の慈悲を。来たれ清浄の極致!究極退魔結界《聖域サンクチュアリ》!!」主都全体に聖なる神の光が満ちていく。

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