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60限目「雪」

「では、私は子供達の引率がありますのでこの辺で」

「よろしく頼む」孤児院のことはアインに任せ、俺は宿に戻ることにした。

 日は落ち、雪も降ってきて人通りもなくなってきた。ここなら多少騒がしくしても大丈夫だろう。


「グレン様ですね?」どこからともなく声が聞こえてくる。

「ふむ、これは奇っ怪な。声はすれども姿は見えず。もしかして幽霊の類かな?」俺は目を細め、大げさに周りを見渡す。


「我々の姿は《透明化ステルス》で視認できない状態なのです。事情があって姿を見られるわけにはいかぬので、失礼とは思いますがご容赦ください」俺の大根芝居に付き合ってはくれないのか、残念だ。まぁ、言葉遣いは丁寧だ。話位は聞いてみよう。


「で、どのような用向きかな?」聞こえ方からして、前方にいるであろう声の主に対して質問する。

「ありがとうございます。先程❝孤児院に❞いらっしゃってましたね?院長とは懇意にされてるご様子。

 さて、あなた様のご活躍は随分と耳にしております。率直に申します。いかがでしょう。我々の陣営ベスタに加わっては頂けませんか?」ほう、わざわざ勧誘しに来たか。


「ということは、君は❝第2王子派❞ということか。申し訳ないが、俺はただの開拓者だ。政治に踊らされる気持ちは毛頭ない。この国にいるのも一時的なものだし。謹んでお断りさせてもらうよ」俺は淡々と辞退の言葉を口にする。


「我々のことをご存じなのですね。その上で辞退されるのならば、今後起きる騒ぎには一切関わらないと御約束頂きたい」声音が少し威圧の色を帯びてきた。

「無理だと言ったら?」

「ここで人生の幕を下ろして頂く」周囲に殺気が満ちていく。

「そうか。ならば返事はこうだな。おととい来やがれ!」瞬時にナイフが数本飛んでくるのをかわし、右手にロッドを取り出す。


「主都への道中で襲撃してきたのもお前達だろう。ここで俺を倒せると思っているのか?」

「やってみなくては分からないでしょう?私は試せるものは全部試す性分なのでね」いるのは……交渉役含め8人か。全く懲りないね~。


 彼らは自分たちが《透明化》しているから有利だと思っているが、それは大間違いである。

「ぐふっ」ロッドで一人みぞおちを痛打した。

「なぜ場所が分かる!」

「気付いてないのかい?❝雪❞だよ」透明化と言っても、自然現象まではごまかせない。人の身体が雪を遮ってしまい、そこだけ空間ができているように見えるからだ。暗いと見えにくいけど。いや、その前に靴跡が見えてるけどね。


 それこそ《現象偽装》が必要になるが、そうなってしまうと今度はお互いの存在が知覚できないので連携をとるのがほぼ不可能になってしまう。そもそも工程が複雑すぎて《現象偽装》なんてするのは馬鹿らしいんだけども。


「ネタを明かした以上、隠れても無意味だ。恥ずかしがるのもここで終わりにしようじゃないか。《解呪デモリッション》」パチンと指を鳴らすと、光の波動が周囲に広がる。すると次々に《透明化》の魔法が剝がれていく。黒いローブに身を包む男達が8人現れた。

 交渉役だろうか。顔が見えないように手で覆い隠している。


「くっ!ここは退かせてもらいますが、あなた方のことは《ベスタ》の明確な敵として認識させて頂きます。この国からは決して生きて出られませんよ」恐ろしい捨て台詞を残して、四方へと去っていった。


 捕虜はいらないのかって?相手の作戦を❝変更させない❞ってのが俺達の作戦なんでな。フフフ、ここは敢えて捕まえなかったのだよ。

 ん?作戦を吐かせて可能性を潰しておく?あ……、う~ん……、そうですね。それについてはノーコメントということで。


 さて、カロリー消費にはならなかったがいい感じに腹が減ってきた。宿に戻って遅い晩御飯といたしますか。


「ただいまー」宿の部屋に戻った。

「「お帰りなさい」」2人は先に夕食を済ませてくつろいでいた。シェステさん、ゴロゴロしすぎです。

「どうでした?」カーラが心配そうにしている。一応今回の流れは頭に入っているはずだが、それでも想定外のことが起きないという保証はないからな。心配するなというのも酷なことかもしれない。


「雪がいい感じに降ってるぞ?」

「わ~い!いや、そうじゃなくて!」ナイス、ノリツッコミ!今後に期待、いやそうじゃなくて。

「あ~。ルドルフが不正蓄財の嫌疑で連行された。2日間ほど主都警備隊が孤児院に調査が入る。ということは、裏返せば孤児院は警備隊が護衛してくれるってことだ。ありがたいね~。

 それと《ベスタ》から勧誘された。で断って、少しやり合って、敵認定されたぞ!」サムアップでとびっきりの笑顔を作る。


「なんで笑顔なんですか……。敵について何か情報は?」

「《ベスタ》が第2王子派だということが改めて分かったのと、孤児院の存在がどうも気に入らないらしいということだな」


「孤児院ですか?どういう関係が?」カーラが訝しむ。

「裏の世界出身の者が、表の世界で大手を振って歩くのが面白くないってことさ。おそらく《バルーカファミリー》とつながりのある貴族が手配したんだろう。

 だが問題はない。そこの辺りは警備隊長が上手くやってくれるはずだよ」


 そう。❝悪巧み❞の過程で相手の出方もある程度は予想している。バルーカファミリーの動きと直接関係があるかどうかは不明ではある。

 しかし、利の無い動きはしないという大前提がある。搦め手を使うにしても、裏には必ず利につながる線がある。いかにその線を読みきるかで勝敗が決まると言ってよい。


 今回は孤児院を潰すことでバルーカファミリーにとっては積年の抗争に決着をつけ、後ろ盾と思われているパトリック将軍のダメージも狙えるという貴族とファミリー両方に利がある作戦ではないかと考える。

 さらに言えば、目立つ事件を起こして本線の動きを見えにくくする陽動の可能性もある。そこは注意しなければ。どちらにしても今後の動きが本番かもしれない。

 

「敵さんがいよいよ動き出した。皆、打合せ通りにいくぞ」3人に不安な素振りは一切なかった。これなら何が起きても対応できそうだ。

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