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59限目「ルドルフの連行」

「冷えてきましたね。今日あたり雪になるかもしれません」アインが窓の外に広がる雲を見ながらそう呟く。


「あぁ、そういうことなら《透明化》の注意点をもう一つ伝えておく。お歴々の皆さんにも伝えておいてくれないか?」俺以外が大笑いする。

「それはそれは。これは盲点でした」アインは笑顔である。


「さて、時間的にそろそろいいでしょう。我々❝だけ❞の会議は十分尽くしました。ですよね?」俺達3人が頷く。

「では皆さん、お互い頑張りましょう!乾杯!」すっかり冷え切ったお茶を飲み干し、意気揚々とギルドを後にする俺達3人であった。



「しかし本当に冷えてきたね~。その服にしておいて正解だったよな?シェステさん」メイゼルで揃えた服はとても暖かそうだ。

「うん。とっても暖かいから、全然寒くない。大正解!」作戦に直接関係はないだろうが、大正解なんだ。買った甲斐があったというものだ、良かった!


「カーラは寒さに強い方かい?」

「冬漁の手伝いもしてたので全然大丈夫ですよ!」漁師町で育ったって言ってたな。冬の漁は厳しい寒さの中で行われるし、問題はなさそうだ。

「よし、このまま一度孤児院に顔を出すぞ。これから忙しくなるからな」



 1時間ほど話をした後、俺達は宿に戻ることにした。外まで見送りに出たルドルフ達が硬い表情だったのが、とても面白かった。いや悪かった、ごめんなさい。


「さぁ、やれることは全部やった。後は各自ベストを尽くすだけだな!」手をつなぎ、大きく手を振りながら宿へ向かう俺達3人であった。


 宿に戻ると夕食まで瞑想の修練をする。シェステには今回火属性のイメージ修練を命じた。火属性魔法に関しては元々適性があったのか、早い段階で習得できていた。見た目からして❝THE魔法❞って感じで本人もお気に入りだ。

 一般的な話としても割と習得しやすい属性であるのだが、シェステの場合は少し事情が異なる。


 魔法には様々な分類法がある。属性魔法が代表格だろう。それとは違い自然魔法と概念魔法という2種類に分類する方法もある。

 自然魔法はその名の通り、自然現象の❝再現❞を行うもので、魔法と言えど現実に即した物理的・化学的な性質を持つ。

 火魔法を例にあげれば、魔法であっても水をかけるか酸素の供給を断てば火が消える。生活魔法には打って付けだ。


 ところが概念魔法というのはイメージそのものを魔法として具現化する。同じく火魔法を例にすれば、「燃える」というイメージを具現化させているため、常識外の性質を持つ。

 この分類で言う所の火魔法だと水の中でも消えずに燃え続ける。酸素が無くても燃え続けるのだ。


 シェステさんは今現在イメージが先行してしまい、火魔法は概念魔法になってしまっている。それはそれでいいのではという話がなくもないが、実は理屈をすっ飛ばしてイメージ先行になってしまうと、自然魔法の習得が難しくなってしまうのだ。


 メイゼルでは上手く行ってたんだけれども困ったものである。何が困るかって?

 例えばメイゼルでは薪に火をつける手伝いをしていたのだが、概念魔法で火をつけてしまうと、いつまでも火が消えない、もしくは消したい時に消せないという事態になりかねない。地味に嫌でしょ?


 最初の講義の時に自然魔法と概念魔法の違いと習得順、注意点はちゃんと説明したはずなんですけど……。魔法が使えるとなったらあれやこれやと欲が出ちゃいますよね。仕方ないことではあるけども。


 戦闘では概念魔法での戦いになることが多いので、最終的にはそれで構いませんよ?

 しかし、自然魔法も使えてこその概念魔法だということは、俺の弟子だからこそ知っておいて欲しいところだ。


 ということで、今日はその点をしっかり復習中です。火とはどういうものかをちゃんと復習しといてください!


 カーラの方は、少し難しいお題を出した。❝自分❞との模擬戦闘である。

 先日の夜襲の記憶を水晶球に転写した。彼女が自分の初陣を改めて目にした時は、嬉しいやら恥ずかしいやらで落ち着きがなかったのだが、そこはやはり❝戦士❞だ。自分の動きを見ながら指を動かして、問題点・改善点を検討していた。


 そこで、自分を仮想敵として模擬戦闘を行うように勧めると、感心した様子で素直に応じた。簡単に言ってしまったがこれが難しい内容であることは皆さんも容易に想像できるだろう。

 しかし、向上心が強い彼女のことだ。自分のものにしてくれるだろう。


 修練は順調に進み、時は夕刻。そろそろ夕食の時間が近付いてきたその時。

 コンコンコン、とノックの音がする。

「申し訳ございません、アイン様から至急のメッセージでございます」

「鍵は開いてる。中へ入ってくれ」宿屋の主人が慌てた様子で入ってくる。


「エバーグレイス孤児院に主都警備隊が向かっているそうです」そうか、確認が必要だな。

「分かった。シェステ、カーラ。俺は孤児院に向かう。2人は先に夕食を食べていいぞ。御主人もそういうことで頼むよ」

「はい、分かりました。お気をつけて」俺は軽く身支度をして出かけた。外は雪が舞い出している。とうとう降り出したな。


 さて、主都警備隊か……。問題は何のために向かったかと言う所だが、少し心配だ。今後のことをあれこれ考える。やれることはやったつもりだが、相手がいる以上歯車のかみ合わせが悪ければ、最悪の結果になるとも限らない。その辺りは慎重に行動しなくては。


 孤児院はもうすぐだ。ここからでも少し騒ぎになっているのが分かる。

「随分騒がしいな、何かあったのかい?」

「いやね、さっき警備隊が大勢やってきてね。ルドルフさんと口論してるんだよ」


 孤児院にさらに近付くと口論が聞こえてきた。

「そんな余裕は全くない!嘘だと思うならきちんと調べてくれ」

「あぁ、きちんと調べるさ。だからお前にも来てもらう。話をたっぷり聞かせてもらうからな。おい、こいつを連行しろ」ルドルフは手錠をかけられる。


「グレンさん」肩を叩かれ振り向くとアインだった。

「これはどういう状態なんだ?」

「はい、孤児院が❝不正蓄財❞を行っているという情報が入ったため、これからルドルフさんを連行して、孤児院の調査も行うそうです」そういうことだったか。どこの差し金だ?


「皆落ち着くように。それと調査には口を出さず、全面的に協力するんだ、いいな」ルドルフは心配そうに背中を見送るツェン達に向けて言い放つ。

「グレン!」俺の姿を見つけてルドルフが声をかけてきた。

「俺は大丈夫だ。俺が戻るまで孤児院のことを頼む」

「心配するな。骨は拾ってやる」俺がそう言うと、鼻で笑ってそのまま連行されていった。


「子供達はどうする?」

「はい、一旦ギルドで保護しようと思います。もう手続きも済ませてあります」アイン君流石だ。流石すぎる手並みだ!子供達はこれでひとまず大丈夫だな。


「なら、今日はこのままでもいいってことかな?」

「えぇ、警備隊が調査で2日程出入りするでしょう。その間ここにちょっかいを出すやつはいないでしょう。全くもって❝想定外❞ではありますが」笑いをこらえるのが大変な2人であった。

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