57限目「カーライル邸にて①」
「おっと、では早目にこれを渡しておこう」俺はアイテムボックスから加工した魔石のネックレスを出す。
「これは?」
「この魔石には、《透明化》《気配遮断》《認識阻害》この3つの魔法を刻印している。身につけて移動すれば足跡を辿ることはできない。もしも監視を受けていたとしても、部屋に入った後に身につけてから部屋を出ればそこから出ていないと偽装できるだろう。
出席者は俺達以外で何人いるんだい?」
「3人です」
「では3つ渡しておく。俺達の分は後で渡すから、アイテムボックス経由で先方に渡してほしい」
「分かりました。使う上で注意点はありますか?」
「身につけて魔法を発動させると存在自体が掴めなくなってしまうが、声は通るから不用意にしゃべらないこと。それくらいかな」
「では早速送ってきます」アインは自分の執務室へと急いで向かった。
「俺はいらないから、シェステとカーラには先に渡しておきますね~。はいどうぞ」3個取り出すとそのうち2個を2人に渡す。
「今つけるとお互いの存在が分からなくなるから、後でな」2人が頷く。
「すごいですね。でもこれを付ける必要があるということは、もう監視が?」
「カーラが気付いていないんだ。大丈夫だよ。だがそれは今の時点ではという話なだけさ。ここを出れば監視がついているかもしれない。
まぁ、俺がいるから基本的には普通に過ごしてくれて構わないよ?ちょっと俺カッコいいこと言ったな」はははと笑うと皆も一緒に笑う。うん、それほど緊張感はない。
すると、アインが戻ってきた。
「譲渡と説明終わりました」仕事を増やしてしまって申し訳ない気持ちになってきた。
「これがギルマスの分だよ」残りの1個を渡す。
「ありがとうございます。ではそろそろ移動しましょう」と言うと、お互いをキョロキョロしながら手をつなぐのか、魔石に触るのかを探り探り手を動かしている。見ててすごく面白い。
「ははは、済まないな。複数で移動することを想定してなかったもんだから。そうだな、まずこの窓から直接皆を《浮遊》をかけてコントロールしながら《飛行》で運んで行くよ。皆は何もせず身を任せてほしい。
上空で声をかけるから、アインは道案内を頼むよ」全員が頷く。
「では3人に《浮遊》をかける」指をパチンと鳴らすと3人の身体がふわりと浮く。窓を開けると指示を出す。
「3人とも魔石に触れてくれ」3人の姿が順次消えていく。
「俺は3人を知覚できるから安心してほしい」
「では、最後に俺の姿を消して《飛行》で外に出る」再び指をパチンと鳴らすと俺の姿も消え、見かけ上部屋には誰もいなくなった。皆が窓から外へ出ると風を送り優しく窓を閉める。
「アイン、道案内頼む」そう言うと、俺達はしばしの空中散歩を楽しむ?のであった。
アインの的確な道案内でそれほど時間もかからずカーライル侯の私邸へ到着した。邸宅の玄関前で掃除をする使用人がおり、姿を消したままのアインが声をかける。
「ギルドマスターのアイン以下4名、参上いたしました。入館よろしいでしょうか」そう言うと使用人は黙って玄関のドアを開け、中へ入る。その後に続き4人が入館すると俺がアインの肩に触る。それが合図となりアインが改めて声をかける。
「ありがとうございます。部屋までご案内頂けますか?」すると使用人が玄関のドアを閉める。
「皆さん《透明化》解除してもOKです」全員解除すると、使用人が礼をして挨拶をする。
「皆様ようこそお越し下さいました。主と他2名様もすでにいらっしゃっております。まずはこちらへ」そのまま奥の部屋へと案内される。廊下も一切窓がなく、外からの目は気にする必要はないようだ。ここなら秘密は守られるだろう。
「カーライル様、アイン様以下4名の皆々様ご到着されました。入室よろしいでしょうか?」最奥の部屋のようだ。
「ありがとう。入って頂きなさい」主の許可をもらいドアを開ける。
「ステルスの魔石提供感謝するよ。非常に秘匿性の高い会合だ。用心に用心を重ねねばならんからな。さぁ座りなさい」表情は意外に穏やかだ。貴族だからとふんぞり返るタイプではなさそうだ。他の2名は雰囲気からするとどうやら軍関係の人物らしい。さて、この2人はどんな人物だろうか。
細長いテーブルに左側と右側に分かれて座るようだ。全員が座り終わったと思うともう一人意外な人物が入室した。カーライル邸ということなので可能性はあるとは思っていたのだが……。
そう、メイゼルではお世話になりました。巡検使ゴルドーである。彼が着席すると、カーライルが発言する。
「これで皆揃ったな。初顔合わせの者もいるだろう。まずは紹介が必要かと思う。アイン頼めるか」
「はい閣下。本日は情報の共有と今後の対策を話し合うべく関係各所より集まって頂きました。では私の方から紹介をいたします。
行政部門よりカーライル=デルズシュタット侯。後で着席された巡検使ゴルドー=ファウゼン伯の上司にあたります」ゴルドーは伯爵だったのか!いや、そこは驚くところではなかった。直属の上司ということは政治の中枢にいる方なのだろう。にしても、何となく名前にマイルズ感があるな。
「グレン君達には、素性を明かさなかったことここで謝罪させてほしい。通常身分は明かさずに行動しているのでな」
「苦労人とは思っていましたが、まさか国を主に執事をされているとは思いませんでしたよ。今日はご馳走して頂けるということなので、喜んで水に流します」涼しい顔をして俺がそう言うと、表現がとても気に入った様子である。
「『国を主に執事をする』か。なかなか面映ゆい物言いをする。だが、気に入ったぞ。その言葉、肝に銘じよう。それと……」彼はシェステの方に視線を送る。
「お嬢さん。ゴルドーの件については不快な思いをさせたな。だが、ゴルドーは敢えてああいう物言いをするよう私から命じているのだ。だから悪く思わんでほしい」優しくそういうカーライルに特に反論することもなく、シェステは普通にただ一言。分かったよ、と言うのであった。どこかばつの悪そうなゴルドーの様子は何ともおかしかった。
「続きましてその左にいらっしゃるのが軍政のトップ、パトリック将軍」おっと、いきなりトップか。こんな大物が来るということ事態、この会合の意味は大きい。トップ自ら動いて大丈夫か?という俺の心配も、当人は我関せずでどこ吹く風ってなもんである。
「まぁ、こんな風体だが一本筋の通った男だ。心配は無用に願いたい」カーライルが補足する。
「こんな風体とはなんだ。だが国を想う点では我らは仲間。心配もだが気兼ねも無用だ。必要とあらば存分に意見を言ってくれ」2人は仲が良いのかもしれない。
「ありがとうございます」
「そしてさらにその左がジーランド警備隊長。主都の警備責任者です」なるほど。それは作戦立案上頼もしい存在だ。うん、これなら十分いい、いや最高の悪巧みができそうだ。




