56限目「悪巧み」
「悪巧みなのか?」アルバートが思わず吹き出してしまう。
「まぁ普通ならば❝作戦会議❞というべきでしょうが、相手が考えているのは絶対❝悪巧み❞ですから、こっちは相手以上の悪巧みで対抗しないと先んじることはできません。それにワクワクしませんか?」と俺はニヤついてしまう。後ろで座っているルノーがクスッと笑う。
「失礼。なかなか斬新な考えだと思ってな。君と会うのは初めてだが、俺にもやれることがあるなら喜んで請け負おうじゃないか」とても好意的な笑顔でそう話すルノーであった。
そんなことを言ってもらえるとは予想外だ。機会があればじっくり話をしてみたいな。勝手ながら、ひょっとしたらプライドガッチガチな人かもと思ってましたが、全然違ってました、ごめんなさい!
「ありがとうございます。先輩のご助力は非常にありがたい。よろしくお願いいたします」と頭を下げる。
「ルノーにも気に入られるとは、とんだ人たらしだよ。これは気を付けないと」アルバートもにやけ顔だ。
「誉め言葉として受け取っておきますよ。さぁ、それは始めましょう。最高の悪巧みを」
小1時間の悪巧みを経て、王の寝室より退室すると、謁見の間に戻る。
「陛下の容態について何か進展はありましたでしょうか?」ウルベスが訝しげな顔をしながら早速意見を求める。
「皆に伝える!陛下の容態については現状維持だ。だが、グレンによって原因について特定ができた。グレンには本当に感謝する」頭を下げるアルバートに部屋にいるものは動揺を隠せない。
「いえ、私はやるべきことをやっただけでございます。どうか陛下の一日も早いご快復を祈っております」俺はそう言って礼を尽くす。
「陛下の病状の原因とは?」
「呪いだ。悪魔による呪法だよ。禁呪指定の《魂睡》というものだそうだ。魔法をかけた術師による解呪あるいは討伐が必要だ」ロベルトが代わりに答える。
「なんと!病気によるものではなかったのですか?なんということだ……」肩を落とすのはウルベスだけではなかった。
「そう気落ちするもんじゃない。親父の身に何が起きているのか、何が原因で、何をすればよいのか分かったんだ。これは大きいぞ。今後の方針も立てられる。それについては❝これから❞だがな。明日から本格的な対策を検討したい。皆よろしく頼むぞ!」アルバートの宣言。この瞬間から俺達の❝悪巧み❞が発動した。
まずは《認識時間のずれを演出する》ことだ。つまり相手の油断をできるだけ誘いたい。王子の言葉なら説得力は十分である。
嘘はつくが全部ではない。真実の中に小さい嘘を練りこむことで話全部を真実と誤認させる。詐欺師の常とう手段である。良い子はマネしては絶対にダメですよ?
今回は防衛手段としての作戦である。相手が悪ならば、こちらとしても相応の手段をとる必要がある。
次は《作戦実行のスピード》だ。先手が有利なのは言うまでもない。
実際はすでに王家の方の根回しは完了した。実際はこの後密かに戦略を練り、今日のうちに作戦にとりかかるつもりだ。先の先を取り、相手の陰謀をすべて潰してこそこの作戦は成功するのだ。ここからは先の読み合いになるだろう。
「はっ、この場にいる全員で王家への忠誠を捧げ、難局の打開をお約束いたします!」ウルベスの言葉で一同が礼を捧げる。
謁見が恙なく終わり、アインが耳打ちをする。
「別の場所で話し合うことになりました」
「分かった。俺達はひとまずギルドへ行った方がいいと思う」監視を受ける身分になってしまった可能性が高いからな。今後の移動も含め行動には十分注意すべきだろう。全くもってさっさと終わらせたいもんだ。
「そうですね。了解しました。では出席者の方々に挨拶してきますので、先に戻ってお待ちください」にこやかに言うアイン。戦闘だけではなく、政治的にも歴戦の強者という印象を改めて持った。流石はギルマスである。
「それでは首を長くしてお待ちしようか」俺も笑いながら応える。
「「ではギルドで」」2人はそう言うと、俺とシェステ、カーラは先にギルドへ。アインは挨拶回りへと向かった。
「ふぅ~。緊張しました……」カーラはかなり疲れている様子だ。仕方ないけど。
「カーラは言うべき時に言うべきことを言ってくれた。感謝しているよ。ありがとう」
「そうですか?お役に立てたのなら私も嬉しいです」表情が明るくなり、元気が出てきた。
「シェステは大丈夫だったかい?」
「うん、カーラとアインさんがいたから大丈夫だったよ?」緊張は無しですか、そうですか。ほんと大物だよな、オイ!
「それなら良かった。今日も美味しい晩御飯を用意してもらってるから、お腹いっぱい食べなさい」チョロいシェステさんは大喜びです。かわいいよね?
「俺とカーラはこの後話し合いがあるから、シェステはギルドでお留守番だ。晩飯までは戻るから、修練含め時間を有効に使って待っててくれるかい?」
「はい!修練今日はまだだから、やって待ってます!」敬礼をするシェステだった。俺とカーラでシェステと手をつなぐと、ギルドへ向かった。
「お帰りなさい。お疲れ様でした」受付のレクターが出迎える。
「部屋をご用意しておりますので、そちらでお待ちください」別室に移動すると、レクターが用意したお茶を飲みながら待つことにする。
30分ほど待つとアインは戻ってきた。
「皆さんお待たせしました。この後別の場所へ移動して、会談を行うことになっています。すぐに移動できますか?」
「あぁ、大丈夫だ。シェステはここで留守番してるから、俺とカーラで同行するよ」アインは少し考え込むような仕草をする。
「実はこれから移動するのはカーライル候の私邸でして。会談出席の有無に関係なく御三方には来てもらいたいとおっしゃられています。皆さん昼ご飯まだですよね?よければ一緒に食事をしながらお話しできればと」アインが笑顔でシェステを見る。ギルドで待つ方が安全だとは思ったんだが……。アルスもいるし大丈夫か。
それにシェステの視線が痛い!
「そういうことなら、お言葉に甘えるとしますか。シェステだけ仲間外れじゃ後が怖い」膨れるシェステを他所に3人は笑いながら優しい眼差しを送るのであった。




