54限目「王族への謁見」
「すみません。昨日の今日で」城の廊下を歩きながら、俺はジアスに言葉をかける。
「昨日も言ったが、気にする必要はない。こういうことは早いに越したことはないだろう。上手くいくことを願ってるよ」足取りも表情も穏やかそのものである。だが俺が思うに、『上手くいく』という言葉の中には当然❝王の目覚め❞も含まれるのは想像に難くない。何だかんだで結構期待されてるかもしれない。
「ありがとうございます。ご期待に沿えるかどうかはアレですが」
「君の経歴を知ってしまった今では、期待するなという方が無理があるよ?
フフフ、それに関しても心配はいらん。君がベストを尽くしてくれさえすれば、結果に関しては受け入れるさ」笑顔だ。予防線を張ったのが無駄になってしまった。
俺とシェステにカーラ、それにアインとジアスを加えた5人で、2階にあるという謁見の間へと到着した。
すでに人が集まっている。その数11名。
「ジアス様以下5名到着されました!」謁見の間が俄かにざわつく。お互いに小声で何かを囁き合っている者が多い。
「アルバート様、ロベルト様。ジアス=アグレト以下5名、ここに参上いたしました」恭しく礼をするジアスに倣い、俺達も一礼をして挨拶の口上を述べる。
「拝謁の栄誉を頂きありがとうございます。私はAランク開拓者グレン、こちらは私の姪のEランク開拓者シェステ。隣にいるのは、メイゼルギルド副支部長のカーラでございます」ギルマスは何度か謁見をしているので自己紹介しないらしい。
「うむ、待っておった!此度は世にも稀なる《竜鱗鉱》、紛い物ではなく本物のだ。それを目にできるとあらば、多少の時間は我慢できよう。
さぁ、早く御二方にお見せするのだ」王子の取り巻きか?貴族らしきその者が催促をする。
竜鱗鉱をジアスに渡すと、ジアスがアルバートの前まで進み出て跪く。そして竜鱗鉱を手に取り、珍しそうに観察する。
「ジアス、これは本当に本物なのか?」疑ってる様子はないが、念のため確認したいようだ。
「はい、殿下。紛うことなき本物でございます。私も生きている間に再び出会うことができて幸運でございました」
「俺も実物を見るのは初めてだ。確かに親父が言ってたようにとても美しい」❝俺❞に❝親父❞か。これまた親近感のある呼び方だ。だが、貴族の中には顔をしかめる者もいる。❝疑義❞とはそういうことか。
一通り見終わったのか、ロベルト王子へと竜鱗鉱を手渡す。ロベルトはアルバート以上に丹念に観察している。
「で、グレンだったな。お前本当に王家に献上する意思はないんだな?結構な報奨金が出るぞ?」路銀に関しては心配もしてないし、何分これは俺達の旅にとって最重要アイテムだ。さすがに渡せない。
「はい、殿下。これでも学者の端くれですので、竜鱗鉱は研究対象としては手放せませぬ」俺はこの時点を以て、急遽学者になってしまいました。間違ってはいないから、いいだろう。あんまり突っ込まないでくれよ?
「そうか。確かにこれに関しては謎が多いらしい。何か分かったら教えてくれ。研究の成果を楽しみにしているぞ」含みのある笑い方だな。
「承知いたしました。必ず」と当たり障りのない、予定は未定な感じの返答をしておく。
「滅多にない機会だ。見たい者がいるなら見せてもらえ」アルバートがその場にいる者に呼びかける。皆笑顔で竜鱗鉱の周りに集まる。
「で、今日はこれで終いか?」アルバートの問いに、ジアスが応える。
「いえ殿下。恐れながらライゼル陛下のことで、一つ進言したきことがございます」竜鱗鉱の件で歓談をしていた貴族達の口がぴたりと止まる。
「許す。言って見ろ」アルバートが発言を許可する。
「ありがとうございます。実はこのグレン。治癒魔法に長けております。
もしもお許しを頂けるならば、陛下のご病状を診せてやりたいのです。治療が叶わぬとしても対処法くらいは分かるかもしれぬと。どうかご一考頂けませぬでしょうか?」
「ええい、一介の開拓者如きにそのようなことをさせるわけにはいかぬ!此度は竜鱗鉱を御高覧頂くのがこの集まりの目的であろうが!調子に乗るでない!」取り巻きの貴族が声を上げる。
「待て、ウルベス。親父の快復は皆が望んでることだ。竜鱗鉱に出会う今回のような幸運にあやかるのも悪くない」ほう、この王子ノリがいいな。そしてこの取り巻き、ウルベスっていう名か。覚えておこう。
「いや兄上。流石に見ず知らずの者に診断させるのはいかがなものでしょうか」ロベルトが訝しむ。く~。そうなんだよな。普通はそうです。その通りです。
「恐れながらロベルト殿下。私は先日のメイゼル事件で、悪魔から呪いを受け生死を彷徨いましたが、このグレン殿に解呪を施して頂き命を拾うことができました。
公王陛下のご病状に対しても何らかのお役に立てると私は考えております」カーラが王子に具申する。
「私も同意見でございます。是非ともこの者の知見をお役立て頂きたいと存じます」間髪入れずアインが意見を付け足す。ギルマスの意見はかなりの力があるとはいえ、不足か?ロベルトの表情は暗いままだ。
「恐れながら、この老骨からも良いでしょうか?」一人の男が前へ進み出る。
「私もこのグレンの行動は間近で見させてもらいました。そこなカーラという者の言う通り、悪魔の呪いを見事退けたのは間違いございませぬ。試すだけ試しても罰は当たりますまい」どこか見覚えのある顔だな……。と思ったら、ゴルドーの執事のマイルズ!様?
「はっはっはっ!お前相当慕われているじゃないか!まさかあのカーライル侯から推薦をもらうとはな!」アルバートが腹を抱えて笑い出す。カーライル侯?なるほど、それが❝本名❞か。しかも侯爵だったとは。
「すまんすまん、全くもって羨ましい限りだな弟よ」どこか自虐的な兄の言葉にロベルトは苦笑いする。
「いいだろう。親父の診察を許そう!」
「兄上!」
「俺はこいつのことを気に入ったぞ!進展が無くても気にするな。今まで散々力を尽くした上でこの様だ。何か分かるだけでも勲章ものだぞ?
それにロベルト、お前とて親父の元気な姿を一日でも早く見たいだろう?」
「それは……、そうです」そう言われてしまっては何も言い返せないよな。
「そういうことだ。よろしく頼む」この王子……。いや、今は何も言うまい。
「では、早速だが今から頼めるか?」トントン拍子に話が決まっていく。これで第一関門クリアだな。さて次はと……。どうなることか。




