53限目「不安と希望」
「それは確かなのか?」
「バルーカの手下達がここ最近町の至る所で目撃されている。それにだ。普段見かけないやつが増えてて、ツェン達に調べさせたが、それぞれがバルーカの手引きによるものらしい」
「そいつらの動きは?」
「今のところは何の動きもない。だが、不気味で仕方ない。百歩譲ってだ。あいつらがファミリーをでかくしようってスカウトしてるってんならまだわかる。
だが、そいつらはただただ町をうろついてるだけだ。拠点にも一切行く気配がない。な、不気味だろ?」
確かに不気味だ。何を考えてるんだ?と思うのも仕方がない。しかし主催者が❝ファミリー❞である以上、何らかの目的があるはずだ。問題は個人的なものかファミリーとしての目的かだが、どちらにしても、少し手が込み過ぎている。
主都を巻き込んでやりたいことか……。いや、彼らもまた❝歯車❞の一つに過ぎないのかもしれない。
「今は動きが無くてもそのうち動く。その時は必ず来る。奴らにとって何かの、それこそ❝祭り❞を始めるつもりだと。そう言いたいんだろう?」
「そうだ。グレン、この主都を丸ごと会場にする❝祭り❞って何だと思う?俺はな。嫌な予感しかない」抗争の時のことが甦っているのかもな。相当な不安を感じているようだ。
「ルドルフの意見はもっともだ。だがな、こうも考えられる。まだ止められる祭りかもしれないと。焦るな。焦っては相手の思う壺だぞ?
それにだ。お前には守るべき家族がいるだろう?まずはそれを優先していい。いいんだ。
全てを背負おうとしてはいけない」そうだ。不安で目が曇った時は、目の前にあることだけ、できることだけを考えればいいのだ。
「若輩の身で恐縮ですが、全貌が見えない今から悲観的になるのはよくありません。やれることは必ずあります。それを確実にやりましょう。ギルドとしても尽力いたしますので。一緒に頑張りましょう!子供達のためにも」カーラの言葉には、メイゼルの事件を通して得た経験による重みがある。ナイスだ!
ルドルフも2人の言葉を聞き、少しずつ冷静さが戻っていく。
「重ねて済まない。弱気なところを見せてしまったな。
やれることか。そうだな。今はやれることをやろうじゃないか。
俺達は奴らを可能な限り見張る。そして守りの準備もすることにしよう」彼の目に輝きが戻る。言葉に前向きな力を感じるようになった。
「それでいい。十分だ。明日俺達はギルドに行く。そこでさっきの話をしておく。対策もそこで考えてルドルフ達にも共有できるようにしよう。
心配するな。俺がいる。カーラも、ギルドも、ツェン達もいる。きっと上手くいくさ」俺のその言葉に深く頭を下げるルドルフであった。
とは言ったものの、さて、これからどう動くべきか……。いやいやまだカーラの言う通り全貌が見えぬ内からあれこれ考えるのは良くない。明日情報が出揃ってからが勝負だ。今日はしっかり寝て明日に備えるのだ。カーラにもそう伝え、同意を取り付けるとシェステを迎えに行く。ちょうど後片付けが終わった頃だった。
ジャン達に挨拶をし、宿へと戻ることにした。その途中、カーラとシェステは手をつなぎ一緒にスキップをしていました。今日はとても楽しかったようだ。
次もまたシェステが楽しくスキップできるように頑張らなくては。そう密かに誓う俺だった。
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「どうだ?順調に進んでるんだろうな。雇い主たってのオーダーだ。俺達のためにも絶対に失敗できん」大柄な男が大きな葉巻を吸いながら目の前の男に威圧の言葉を投げる。
「順調です。後3日で完了の予定ですんで、もう少しお待ち頂ければ」
「そうか。後3日で……。フフフ、これで俺達がこの国の裏世界を一手に取り仕切ることになる。俺が裏世界の帝王となるわけだ。
これでもう《ルビオ》の出る幕は完全になくなる。お前らはこれで終わりだ」
男は灰皿に葉巻を押し付けながら不敵に嗤うのであった。
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――翌日。
俺達は呼び出しを受けてギルドへ来ていた。アインの言っていたように2日で根回しとやらができたんだろうか。
「グレン様お待ちしていました。会議室を用意しておりますので、そちらへご案内いたします」受付のレクターに案内され、2階にある部屋に入る。少し大きめの部屋だ。
「グレン様以下3名お連れしました」
「お入りください」すでにギルマスのアインは中にいるようである。
「ご足労ありがとうございます。早速ですが、今後のことについてお話を」
「こちらこそ、よろしく頼むよ。だだその前に昨日王立図書館と孤児院に行ったんだが、そこで色々と話が聴けたんで、それについて報告させてくれ」昨日の経緯について先に話す。勿論❝竜や巫女❞関連の話題は伏せつつである。
「ふむ、レクチャーの必要はなさそうですね。こちらこそ助かります。
それはともかく、まず《竜鱗鉱》の件については使えますね。別の話題にはなりそうですが、王家との接触がより自然な流れで行えそうですね。横槍も入りにくいでしょう。
それと《バルーカファミリー》については、対処が必要ですね。それは今日の会合で対策ができるかもしれません」会合?あぁ、これから移動するのか。ここは行っても街の中。ここへの出入りとなると多くの目にさらされるわけで、メンバーによっては内緒話がしにくい場所ではある。
「分かりました。ジアス様にご連絡をお願いします。先に謁見を済ませてしまいましょう。その後会合で具体的な話をいたします。その方が今後の計画も立てやすいのではないかと」そうだな。王の容態の見極め次第では計画の立て方ががらりと変わる可能性がある。
「了解した。いよいよって感じだな。気合い入れて臨もう」4人で手を合わせ、今日の成功を祈る。




