50限目「情報と王家接触作戦」
「なるほど。ならば事態解決の方法があることをアピールして敵勢力に対して揺さぶりをかけることが有効だと。そういうことだな?」そうなんだが、果たして乗ってくれるかどうか。しかしやらない選択肢はない。今は釣れることを期待しよう。
「一つ確認させて頂きたい。館長はどっち派なんですか?」大事なことだ。アンバール公国は現在お家騒動の真っ最中。それぞれの派閥がどういう思想でどういう立ち位置なのかは少しでも情報を仕入れておきたい。
「当然の質問だ。私は第1王子派に属している」はっきりと答えるジアス。
「おそらく明日ギルドからレクチャーを受けると思いますが、できれば当事者であるあなたの考えをお聞かせ願えますか?」アイン済まない。先に情報を仕入れさせてもらうよ。
「いいだろう。我々は❝第1王子派❞と名乗ってはいるが、別に第2王子を排斥したいわけではない。どちらかというと❝公王派❞という名がふさわしいと私は思っている」となると、王の意向を慮って第1王子を押しているということか。
「陛下が俄かに病に伏せられてからというもの、原因が分からぬ事情もあり王宮内で混乱と不安が一気に広がってしまってな。まさか魔法によって眠らされていたとは……。
それで、陛下のご快復を願う者と次期継承へ関心を示す者と分かれてしまった」当然の成り行きではある。だが願うだけでは国の運営は成り立たない。現実もまた直視しなくてはいけない。
「我々が望むのはただただ公国の発展と安寧。そのためにはまず《賢王》と名高いライゼル陛下にお目覚め頂かねばならない。それが最優先だ。
しかし、国を思えばこそ万が一のことも考えねばならない。だからこその第1王子派なのだよ。その資質に関して疑義があろうとも、だ。」
「疑義があるとは、何とも穏やかではないですね。一応は自分の主として頂くことになるかもしれないのでしょう?」だが資質についての疑念があるならば、❝跡目争い❞が起こるのも納得はできる。
「第1王子のアルバート様は次期公王として、そして王族としての振る舞いが未だにできていらっしゃらないのだ。
しかし陛下がお認めになっている継承順位について、臣下である我々は従うべきだと考えている。我々が支え成長を促せばよいのだと」立場が人を作る場合は十分にある。周囲の者が責任ある行動を取れれば、きっと上手くいくだろう。
「筋は通っていますね。で、第2王子派の動向は分かりますか?」
「第1王子の継承をどうしても許容できない、という者達が集まって派閥を形成している。第2王子のロベルト様はとても聡明な御方だ。次期公王に推したくなる気持ちは分からんでもない。ただ、当の本人にその気は全くないようだ。
そういうこともあり、一枚岩というわけではなくてな。純粋に慕っているだけの者、積極的に推挙する者にさらに分かれているのさ。
ただな……。頭が痛いのは、積極派の中に自らを《ベスタ》と称する過激派がいることだ。噂はあるが、いずれもきな臭い噂ばかりで、第1王子派である私でさえ心配で仕方ないんだよ。情けない、全く何を考えてるんだ!」ジアスの組んだ足が小刻みに揺れる。かなりイラついているようだ。
「だからな。揺さぶりをかけるつもりなら、やつらには十分気を付けなよ」
「心遣いありがとうございます、十分に気を付けることにしましょう。
で、王家との接触は可能でしょうか?できれば公王にも直接お目にかかりたいんですが」
「王と直接?王子達に会うだけではだめなのか?」
「どういう魔法をかけられているかをできれば事前に知っておきたいのです。できない可能性が高いでしょうが、もし可能ならばその場で解呪するつもりです」
「そうか!いや、今は軽々しく期待はせぬ方がいいな。だが、その提案相分かった。では、こういうのはどうだ?」
ジアスが提案した作戦はこうである。
まず、本物の竜鱗鉱を持参した者がいるということで、王家の方々への目通りを願い出る。
次に両王子への謁見を通じて、俺がメイゼルで悪魔を倒し解呪した話をする。
最後に昏睡状態治療の一助となるべく、王の診察を許可頂くという流れである。
うむ、実に自然な流れである。十分試す価値はあるということで、ジアスの提案に乗ることにした。
「これで私が知りたい情報は十分頂いたし、いい作戦も立案頂いた。感謝いたします。また何かあればよろしくお願いします」
「いや、こちらこそ貴重な経験をさせてもらったよ。私としても力を借りたいことがあれば、頼らせてもらうよ。
謁見の件だが、いつでも声をかけてくれて構わない。推薦状を用意してもいいが、直接口添えした方がよかろう。お前さんの口ぶりでは明日の可能性だってあるだろう?」立ち上がり握手をすると3人は退室し、図書館を後にした。
カーラはあれだけ興味を示していたのに、どこか疲れた様子だ。やっぱり❝アレ❞が原因だろうな。
「カーラ、結局本を読まなかったが良かったのか?」
「いえ、今日は色々ありましたのでそこまでの気力が……。それに、ざっと見た感じでは私の読みたい本が無かったので、大丈夫です」なるほど、読みたい本自体が無かったのか。ならば仕方ない。確かに本というか資料の方が多かった気がするしな。
「ちなみに何が読みたかったんだ?」それは少し気になる。
「はい、❝秘伝書❞の類がないかと」そっか、それはあれば読みたいだろうな。
「それはちと難しいな。❝秘伝書❞は文字通り秘伝だからな。多くが口伝、あったとしても門外不出だし、もし図書館にあったとしてもそれは❝禁書❞扱いになっててもおかしくはない」
「そうですよねー。すいません、真面目に修行しろって話ですよね」彼女は反省しきりである。
「そうとも限らんさ」カーラは驚いて顔を上げる。
「人の身ならば一生で使える時間に制約が付く。それにな、目標無くただ修行したって強くなれない。
先人の知恵を借り、先人の辿り着いた場所を超えるのは、後に生きるものの特権だろう。使えるものは使う。道徳に、倫理に反していなければそれもまた良し!」
「そういうものなんですか?何か逆に世知辛い気がします」彼女は苦笑いする。
「何を言う!いいかい?知恵を拝借してもしなくても、いざという時に自分だけの力で問題を解決できるかというのが一番大切なんだ。とはいえ、ゼロから全部一人でやることはない。だから使わないともったいないぞ!
ただ、もうひとつ大事なことを言っておく。楽をすれば、❝楽しさ❞を失う。
もしも楽しさを得たいなら、楽ばかりすると後で苦しさばかりを得ることになる。そこは注意するといい」ほらシェステもさっきから頷いている。え?
「シェステさん、俺が言ったこと分かったのかい?」
「美味しい料理は作り方を教えてもらうと簡単に作れるし幸せでしょ?
一から作ろうとすると、考えてる最中にお腹が減って苦しいけど、頑張って作った料理はその分美味しいってことです!」こいつは驚いた、一本取られた!
「はは~!その通りでございます」シェステに深くお辞儀をする俺とカーラでした。