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5限目「実は62限目なんだがな」

「うんうん!すごい!すごいよ!すごくかっこいい!」シェステが机に手を載せ跳びはねながら興奮している。俺の気付きが天才的だったってことだな!

「なら呼び名はこれで決定だ。では器を片付けて、早速授業開始だ」


***********

「先生の授業もう100回目ぐらい?」特に疲れたり飽きたりはしていない。シェステは実に好奇心にあふれており、ものすごい速度で俺が教える知識を吸収している。授業の回数としては、実は62限目なんだがな。確かに項目内容的には100回くらいだ。間違ってはいない。


 すでに約2週間経っている状態だが、基礎は大体教えたつもりだ。あとは実戦的なスキルを習得できれば、一人前と言っていいレベルの魔法使いになれる。できればこのままあらゆる技術を叩きこんで最強の大魔導師に……。おっと、いやいや目的が変わってしまうじゃないか。危ない、この子の才能が怖い。


「ああ、それくらいだな。つまり凡そ100項目の内容を習得したことになる。よく頑張った、これで基礎授業は終了だぞ」笑顔でシェステの頑張りを称える。


 最初の3日間は言語習得期間だったので、実質10日間といったところなのだが。俺は《万能言語ことだま》というスキルを習得している。以前も少し触れたが、元の世界では学者として全世界を周り魔法収集の旅をしていた。その中で遥か東方の地域で、❝言葉そのものに魂が宿る❞という信仰と言ってもいい文化的思考に触れた。


 その地『ヤマト』に住む民はそもそも森羅万象、物質や概念に至るあらゆるものに魂、果ては神が宿るという考え方を持っていて、物や言葉をとても大切に扱う。これは魔法行使に一番必要な❝イメージ❞の構築に対して大いに役立ったし、今でも敬意を以てその出会いはまさに天恵というべきものだったと信じて疑わない。

 この考えの下、しばらく過ごした(100年ほど暮らした)この地で俺は言葉の持つ魂つまり力とも言っていいものを本能的に知覚し理解する能力を得た。

 これが後々自分で名付けた《万能言語ことだま》というスキルである。


 言葉に想いを乗せることで相手にも自分の意思を伝えることができる素晴らしいものだ。実は当初のシェステとの会話はこのスキルによるものだった。

 素晴らしいスキルなのだが、欠点が全くないわけではない。違和感だけは払拭できないのである。意思疎通は問題ないが、口(唇)の動きと相手言語の発声が違うためだ。


 シェステのように『理解できるから気にしない』という者もいるだろうが、気持ち悪いと感じるものもいるだろう。シェステ以外のものと話すという、旅に出た今後のコミュニケーションを考えると言語の習得は重要だ。少しの違和感も相手に感じさせないに越したことはないのだ。不要なトラブルに巻き込まれぬように。


 幸い俺が召喚された部屋は書庫で、言語学関連の書物や辞典もあった。スキルを使って複数の言語体系を学習し、書庫の蔵書をシェステへの講義指導と同時並行で可能な限り読み進めた。古書でもない限りこの世界の基本的な知識は得たかと思う。後は書物にない部分や肌感覚での❝巷の事情❞というものを今後の旅で吸収することにしよう。


 シェステもまだ学校へ通う前だったのか、世情や言語の知識が乏しかったため、情報整理を理由にまずは言語学の授業をさせてもらったというわけだ。結果2人の思考レベルは一段階上がった気がする。魔法使いとしても非常に有益な時間となった。


「ありがとう!先生の教え方が上手だったからだよ。とても分かりやすくて楽しかったよ!」ふっ、俺以上の褒め言葉を返すとは小憎らしい小娘だな!

 必死ににやけそうになる表情を抑えるのに苦労しました。平常心、平常心。


「うむ、聴講の姿勢が素晴らしかったからな。❝好奇心❞を強く持つのは魔法使いとしてとても大事な才能だ。俺の授業を楽しいと感じるならそれだけでも優秀な魔法使いになれるぞ」まぁ、このままだと2人で永遠に褒め合うことになってしまいそうだ。話を切り替えようか。


「さて、当初の計画通りこれから旅に出る。当初目指すべき目標は3つ。

 まずはシェステの実戦修行。2つ目は現在の❝外の❞状況把握。3つ目はシェステの親の行方を探ることだ。いいな?」シェステは真剣な顔で小さくも力強く頷く。


「よし、では準備をして明日まずは❝家を出る❞ことにしよう。シェステは『使役人形ドール』の作成方法を確認しておくように」

「はい、先生!」はきはきと答えながらシェステは手を挙げた。



――そして翌日。最初にして高難度のミッションに挑むことになる、長い一日が始まった。


「よし、ちゃんと作成術は確認したな?」ミッション達成の重要な一つ目の鍵について再度確認をする。

「ちゃんとした……、いや、しました、先生!」今日もシェステは元気だな。

「では今日の流れを確認しておく。まず『使役人形ドール』の作成をシェステにしてもらう。そして次にそのドールに❝出口❞を教えてもらう。無事に見つかれば❝この家を出ること❞ができるはずだ」何を言ってるのか疑問に思う者もいるだろう。


 現在我々2人がいるこの屋敷には❝出口がない❞のだ。シェステにも困ったものだ。とんだ引き籠りだぞ?家を出ずとも何不自由ないとはいえ、1年近く疑問も持たずこの屋敷に閉じ込められていたというのは、豪胆と言ってしまえばそれまでだが心配になってしまうな。


 窓はある。外の景色も見えるし、昼夜に季節の変化も認識できる。ただし、この窓は開けることはできない。

 玄関もある。鍵付きだが鍵はかかっておらず、取っ手や呼び鈴もついているし機能もする。ただしこの玄関の扉を開くことはできない。


 どうやら魔法による封印がなされているようだ。親がやったことであろう。シェステを守るための結界という認識が正しいかもしれない。やってることは軟禁ですけどね。もちろん魔法の知識がない彼女にはそもそも解呪できないため、本能的に理解していた可能性がある。


 結界というからにはその強度も気になるところだ。実際かなり高位の守護結界である気がしている。結界には強度により2つのタイプがあり、一つは《シールドタイプ》。ごくごく一般的な、物理あるいは魔法障壁を発生させて攻撃効果を❝妨害❞するタイプである。


 そして2つ目のこれが今の我々には厄介な《アイソレーション(隔離)タイプ》である。空間を歪ませて完全に空間ごと隔離することで攻撃効果を❝遮断あるいは無効化❞するタイプだ。これは空に向かって石を投げることに等しいので、攻撃行為そのものが無駄になる。

 要はここから出ないと旅のことなど簡単に口にできない、いきなりの高難度脱出ミッションというおかしな状況になっている。


 持ち主である親に事情を聞ければいいのだがそれは無理であるし、ならば別の❝当事者❞に訊くより仕方がないという結論に至った。その当事者とはズバリ❝この家、この屋敷そのもの❞である。

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