48限目「王立図書館」
「おはよう!」シェステの元気な挨拶で一日が始まる。昨日は早目に休んだせいでメチャクチャ早起きだったようだ。俺が起こされるなんて、うん?初めてじゃないか?
「おはよう、シェステ。食いしん坊さんはしっかり眠れたようだな。ははは、何より何より」すると、例のようにほっぺを膨らませて抗議をする。
「僕はね~、グルメなだけです!」おっと、グルメという言葉を使うようになったか!成長を感じるな!
「そうだったそうだった、グルメさんでした。昨日の料理は大体作り方が分かったから、いずれまた作ってやるよ。楽しみにしておけ!」自慢ではないが、俺もまたグルメさんなのだよ。
「やった~!もっといっぱい覚えてね!」あぁ~シェステさん、チョロ過ぎます。
「カーラもおはよう」カーラはシェステが起きた段階で目が覚めたとのことだった。
「グレン、おはようございます。今日は先に図書館ですか?」
「ここからだと図書館の方が近いんだろ?なら、孤児院は図書館の後にするよ」カーラの説明だと、王立図書館は南西の行政区画にあるそうだ。王立というだけあって、数々の非公開とされている文書や資料も保管されているため、閲覧許可が必要な重要施設の部類に入るらしい。ゼトが勤めていたというが、もしかしてすごい人物なのだろうか。
一般公開されているのは❝公立❞図書館の方で、こちらは居住区にある。カーラが興味を示しているのは、勿論なかなか入る機会のない❝王立❞図書館の方である。通常は入れない場所に行くとなればワクワクが止まらないのはよく分かる。
「今日は挨拶回りみたいなもんだし、あまり肩肘張らず行こう」
「でも、王家もしくは一部の高位貴族しか入館できない施設なので、緊張するなと言われても無理ですよ!」昨日までは興味の方が勝っていたようだが、いざ訪問となると若干不安が前に出てきたようだ。
「今日はとっておきのネタを用意してるから、きっとカーラも楽しめると思うぞ?」本当かどうか疑わしいって顔してるな。腰抜かしても知らないぜ?
朝食後、早速王立図書館までやってきた。途中何度かチェックを受けたが、ゼトの推薦状を見せると、一様に笑顔で迎え入れてくれた。ほんと、何者なんだ?
「これは確かにゼト様の推薦状。館長のジアスに報告して参ります。少しお待ちを」ゼト❝様❞?いよいよもって偉い人疑惑が確信に変わりつつある。
「お待たせしました。すぐにお会いになるそうです。ではご案内いたします」王立図書館ということでド派手な感じを想像していたが、一般公開するというわけでもないせいか、そこまで華美な装飾はない。極めて実務的な内装だ。だが、気品というか高貴な感触は受ける。
働いている文官も職務に誇りをもっているタイプに見える。俺達を見かけると笑顔で会釈をしてくれる。ゴルドーみたいなやつは一人も見かけない。
「こちらが館長室になります。
ジアス様!グレン様以下3名お見えになりました」
「入っていいよ」館長室に入ると、高齢の女性が座っていた。
「よく来たね。待ってたよ。グレンにシェステ。そしてカーラだったね」立ち上がり、机を回り込みながら3人の方へやってきた。
「私が王立図書館の館長をしているジアス=アグレトだ。よろしく頼む」3人と握手をするとソファに腰掛ける。
「君等も座り給え。3人にお茶を頼むよ」案内した文官が退室する。
「足が悪いだ何だと言って引き籠った割には、ゼトのじじいは元気そうじゃないか」何か尊大な感じがするなと思っていると、それを感じ取ったのか、ジアスが訂正を入れる。
「あぁ、済まない。私とゼトはいわゆる❝幼馴染❞でね。あいつはあいつで私のことを『ばばあ』呼ばわりするんでね。決して仲が悪いわけではないよ。
その分だと、私のことはおろか自分のことだって話しちゃいないんだろう?」一回頷くとやれやれ顔をする。
「あいつときたら、全く。まぁいい。あいつ、ゼトは以前この王立図書館先代館長の下で私と共に特級司書として働いていてね。館長は次期館長にゼトを推薦していたんだが、足を悪くしたとか何とか言って私に館長の座を押し付けやがったのさ。
何が『足が悪くなった』だ。ただ娘に早く会いたかっただけだろうが、全くあの親バカめ」用意されたお茶を一口飲んだ後、大きく溜息を吐くジアスだった。
特級司書。司書の中でもかなりの知識量と能力を要する、司書の最高位である。その後に1級司書、2級司書、司書補と続く。王立図書館には特級並びに1級司書しか勤務できず、図書館長は特級司書であることが条件である。
今思えば、本当に今思えばだが、確かに気品溢れるゼトの佇まい……納得できる。
「それで、ゼトから聞いたが本当に持ってるのかい?」早速来たな。
「ああ、持ってますよ。見たいですか?」カーラが不思議そうにしている。当然だ、❝アレ❞のことはまだ話していないからな。
「勿体ぶるじゃないか。ゼトに似てるな、お前さんは」ジアスは舌打ちをする。が笑顔である。
俺はアイテムボックスからそれを取り出すと、ジアスに見せるために机の上に置く。
深い緑色を湛えた物質。その美しさは未だ衰えることがない。そう《竜鱗鉱》だった。




