44限目「修練の成果」
カーラの方を見ると、相手はどうやら槍兵と剣士のコンビである。初陣には良い相手かもしれない。
槍兵と剣士は彼女の正面左右に分かれ、剣戟と刺突を繰り返す。こちらも相手さんの連携は相当なレベルでできている。だが。うむ、カーラは落ち着いて捌いている。
次の瞬間、剣と槍が重なったのを見計らってカーラが刀で受け流し、そのまま打ち上げる。
槍兵は打ち上げられた槍を素早く持ち替えようとするが、リーチの差で態勢を整えるのに僅かな時間が生じる。彼女はその隙を見逃さなかった。
剣士が打ち上げられた剣に力を込め直し、今度は力いっぱいに振り下ろす。無駄のない動きではあったが、力を込め直した分こちらも僅かな隙が生まれてしまった。
カーラは打ち上げた剣の勢いを殺さずそのままひらりと回転させ、剣士の胴へ強力な一撃を与える。
「ぐはっ!!」あれは《峰打ち》ってやつだな。実際かなりの激痛らしい。吹き飛ばされることは免れたが、それだけに身体への衝撃は計り知れない。その場にうずくまる剣士をよそに、槍兵は必殺の突きを繰り出す。だが相棒が倒れた今、彼女の敵ではなかった。
「ぐっ!!」剣士への一撃の後、身体を僅かに逸らして槍兵の一撃を躱す。そして槍を一瞬で真っ二つに切断すると、首筋に切っ先を向ける。
「勝負あり!カーラ、見事な初陣だ」
「いいえ、まだまだです」俺がライトニードルを剣士の方だけに打ち込むのを確認すると、刀を納める。謙遜するところがいやはやなかなかカッコいいな。
「いや、プロの傭兵相手に大したもんだ。惚れ惚れするほど様になってたぞ?」
「え……そんなことは……」耳を真っ赤にしながらもじもじしている。褒めすぎたかな?
「え、プロの傭兵?」はっと素に戻るカーラさん。
「動きからしてももちろん盗賊じゃない。が、連携が素人じゃなかった。おそらくそれなりに名の通った玄人の方々だろうよ。そうだろう?」槍使いに目を遣ると、にやりと笑うと歯を食いしばる。血を口から吐き出す。毒を仕込んでいたな。
「《状態異常治癒》《上位治癒》」すると、槍使いは再び息を吹き返す。何が起きたのか分からないようだ。
「俺がいる限りあんたは死ねないよ?完全死する前にすぐ治療してしまうからな。今仮にあんたが舌を嚙み千切ったとしても、だ」想定していたのだろう。びくりと身体が一瞬動く。
「それでいい。あんたが死にたがりでないことを祈るところだが、どうだい?激痛と臨死体験を繰り返す気はあるかい?」顔は汗ばみ、頭を振る槍使い。
「命は大事にしなくちゃいけない。法で裁かれることになるだろうが、命の保証はする。これから君はお仲間と一緒にしばし眠ってもらう。詳細は主都で聴くから、協力の方を頼むよ」一度だけ頷くのを確認すると俺は魔法を唱える。
「《昏睡》」他の者達も同様に眠らせ、亜空間に格納する。
「この中って大丈夫なんですか?」カーラが心配そうに質問を投げかける。
「時間が止まった世界だから、仮死状態になるだけだよ。問題はない。何なら試しに入ってみるかい?」笑顔で聞いてみると、いやいやと何度も頭を横に振る彼女でした。
中途半端な時間になった。おそらく寝るには時間が微妙なので、2人ともこのまま朝まで焚火に当たりながら過ごすことにした。
プロの傭兵。ということは金で雇われたということだ。となると大した情報は得られないだろう。しかし、雇用主の情報が少しでも得られれば御の字だ。
襲ってきたのが悪魔や魔獣だった場合は話し合いにならないからな。今回は人間だったということで良しとしておこう。
「さてカーラさんや、シェステはどういう反応しますかね?」
「きっと悔しがるんじゃないでしょうか」
「えぇ~~!!ひ~ど~い~!私も戦いたかった~~!!」カーラが言った通り、朝から全力で地面を転がるシェステさんでした。
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――グレンのキャンプより離れた某所。
「戻ってきませんな」
「どうやら失敗したようだ。ここから離れるぞ」
2つの影が馬車に乗りその場を離脱する。
「高い金を払ったというのに無駄になってしまいました。申し訳ありませぬ」
「魔獣だけではなく悪魔も倒している情報は確かなようだ。所詮人間だと思ったが我々の考えが甘かった、ということだ。今後の計画の修正を急がねばならん」
「はい」
「我々はすでに動き始めた。決して後には退けぬ、退けぬのだ」2人を乗せた馬車は一路主都を目指すのであった。
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何とか機嫌を取ってシェステが落ち着いたところで、改めて今回の襲撃と今後について3人で話をした。
「というわけで、今後も囮作戦は続行だ。ただ、おそらく相手も馬鹿じゃない。これに懲りて手を出してこないということも十分ありうる。注意はするが、そこまで気を張り詰める必要はないと考えておいてくれ。
残りの道中は今まで通り修練をしながら主都を目指す。いいか?」シェステとカーラが頷く。
「さて、修練の予定だが。やる気を出すために今の俺の考えを話しておこう」2人が前のめりになって話を聴く。
「もちろん資格ありと俺が認めた上での話にはなるが、2人には模擬戦をしてもらう。もちろん全力でな。これが今回の旅における最終目標だ」
「「おお~!」」2人が声を揃えてリアクションする。目の輝きが今まで以上である。




