43限目「宵闇の襲撃」
主都への旅は数日が経った。内容としては順調そのものである。今日も陽光の暖かさが身に染みます。ここのところ午前中はシェステとカーラの修練をしつつ、割とのんびりした道行きであった。
2人の修練だが、シェステはなかなか進みが悪い。苛立ちが前に出て的にさえ当たらない日々が続いている。が、昨日からは集中して一発を放つようになった。彼女なりに前へ進もうと頑張っているようである。これなら課題クリアも近いだろう。
カーラは水玉を早々に斬れるようになっていた。流石としかいうしかない。集中力が格段に上がり、刀を振り抜く速度が上がったように感じる。
水玉の真芯とは中心。つまり重心である。水玉の全体像とその❝核❞を見切るのが課題だったのだが、的確に斬れるようになったので、次は対応スピードを上げることへ目標を移したようだ。今は3個連続で斬れるようになっている。
シェステの成果如何によっては、次の段階に行ってもいいだろう。
「あの……こんなのんびりしてて大丈夫なんでしょうか?」歩きながらカーラがぼそっと呟く。確かに薄々は感じていたが、改めて言われると少し不安になるな。
「この旅は❝囮作戦❞も兼ねている。だからお客さんに早目に来てもらえれば万々歳なんだがな。こうも穏やかだと逆に不安になるというのは分かるよ。だが、こちらとしては待つしかない。結果として何もなかったとしても仕方ない話だ。
ま、じっくりと修練ができるんだ。悪いことばかりではないと割り切ろうじゃないか」我々としては待ちに徹する。相手が誰であってもやることをやるだけさ。
「分かりました。修練ができるのは私としてもありがたい限りです。この旅を存分に活用させて頂きます!」元気が出てきたようで何よりである。使えるものは何でも使った方がいい。皆がどこまで成長できるか楽しみだ。
「今日はこの辺でキャンプしよう」日没が近くなり、森の中も夕暮れのオレンジ色の光で満たされる。カーラとシェステは、薪になりそうなものを探しながら今日の晩飯が何かを話し合っているようだ。
今日の晩飯は、スライスした猪肉を野菜と一緒に濃いタレで一緒に炒めた❝肉野菜炒め❞だ。ライスと一緒に食べるととても食が進む。メイゼルで猪肉を分けてもらって正解だった。
ふふふ、後で残ったタレを使って焼きオニギリを作るのもいいかもな。いかん、腹が鳴りそうだ。
3人で食事を終えると、後片付けをしながら焼きオニギリがとても高評価だったらしく、また食べたいとリクエストをされてしまった。タレを使ったのが良かったようだ。
聞いたところでは、同じような料理を海洋国家オルヴァートでも食べるらしい。ライスが食べられる地域なら、食事の幅も広がりそうだ。ただ、海に面した国ということは魚料理が多いのでは……。肉の備蓄は十分にしておかないと。
その日の夜。皆が寝静まった頃。俺とカーラは静かに目を開ける。
「カーラ、気付いているか」そう小声で囁くと、すぐに答えが返ってきた。
「はい。10人以上はいますね」少し離れてはいるものの、多数の気配がテントへ近付いていた。
「大漁だな。さて、どんな話が聞けるか楽しみだ」俺とカーラは身体を起こし、急ぎ身支度をする。
「ということはやはり」外の気配を探りながらもきちんと目的は分かっているようだ。
「可能な限り生け捕りにする」
「承知!」
「アルス、シェステの事は頼んだぞ」スヤスヤと寝息を立てて眠る彼女を護るため、アルスが姿を現す。いやはやこの状況でこんなに熟睡できるとは、大物の気配がプンプンするな!
アルスが軽く羽根を動かすと俺とカーラにバフがかかる。
「《身体強化》《状態異常無効》か。助かる。カーラ、侍としての初陣期待してるぞ」
「お任せを」カーラの顔に緊張の色は一切なく、初陣という言葉を受けてむしろ笑顔だ。
何事も無いように普通にテントから出ると、外に集まっていた者達はその歩みを止め驚きを以て警戒態勢に入る。
「殺気を放たないのは褒めてやる。だが、それはお前達が盗賊だからか?それとも盗賊に偽装しているからか?」鎌をかけてみるものの一切反応しない。だが、さっきよりも只ならぬ気迫は強くなっている。
「カーラ、どうやらプロの皆さんがお越しのようだ。手加減はなしでもいいからな」
「大丈夫です。心配ご無用!」カーラが気合一閃、先制攻撃を仕掛けた。要らぬ心配だったようだ。
カーラが敵陣に突っ込むのを合図に戦闘が始まった。
カーラは注意深く周囲を窺いつつ、集中力を高めると積極的に敵に斬りかかる。立ち回りが素早いため、魔法使いや投擲武器使用者の攪乱が効いて、隙をついて武器破壊をして無力化をしている。上手いな。いい働きだ!
俺の方は無力化した敵に《雷針》を打ち込み麻痺させていく。20人弱いた敵部隊はすでに半分近くまで勢力を減らしていた。すると、カーラ対策に2人を残し、残りの部隊が俺にターゲットを移す。
魔法使いが詠唱し《身体強化》の魔法を全員にかけるのと同時に、弓使いと短剣使いが攻撃を繰り出す。
弓使いの連続射撃で移動を牽制し、短剣使いが接近戦とナイフの投擲を駆使してくる。相手さんも良くやる。なかなか連携がとれているじゃないか。
しかし。少し飛び道具が多すぎだ!
「《重力反転》《加速》」
ほぼ同時に詠唱された魔法によって、俺に向かってきた矢とナイフが放った者へと襲い掛かる。面食らった者達の一瞬の隙を突き、ライトニードルで制圧していく。
魔法使いが炎系魔法を放つが俺の敵ではない。氷結魔法で相殺し、間髪入れずライトニードルを打ち込む。はい、こちらは任務完了である。