4限目「どうだ、いい呼び名だろ?」
「「ごちそうさま!」」
俺達は十分な満足を以て食事を終えた。シェステの料理、ミソ=スープとライスだが、どうやら親の単なる世辞と言うわけではないようだ。
スープの塩味は少し控え気味だったが、その加減が絶妙で具材の旨味も十分感じられたし、ふっくらつやつやに炊きあがっていたライスの甘みが引き立つ結果にもなっている。もはや達人クラスと言ってよいだろう。
素晴らしいな。これは魔法以外にも教えなければならぬものが増えたぞ、ははは困ったやつだ。
「シェステ、得意というだけあってスープの味、絶品だったぞ。ライスの仕上がりも最高だった。お前にはシェフの才能がある。
お前がよければ、次以降も料理を手伝ってたくさん作れるようになってくれ」最大限の賛辞を贈るとシェステは恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
「でも先生の『ハンバーグ』もすごくおいしかったよ!1個チーズが入ってたのにびっくりしたけど、ライスと合うんだね。また作ってよ!」とても恥ずかしかったのか慌てて俺の料理に話を切り替えるシェステ。
3個作ったハンバーグは、全てブラウンのソースをかけたものだったが、1個の中にチーズを入れておいた。ちょっとしたサプライズだな。お気に召したようで良かった。
「おいおい、食事の時まで『先生』呼びはしなくていいぞ?それは授業の時だけでいいんだ」
「でもおじさん、先生なんでしょう?」
「その『おじさん』というのもな…。俺はもう7000年以上を生きている。だから正しさを求めるならもう『ご先祖様』とかになっちまう」と言うと思わず笑ってしまった。
「じゃあ何て読んだらいいの?《魔王》さん?『ラングレン』さん?それとも何だったっけ…。《てんびん》さん?」そうだな、今後のこと(旅に出た後のこと)もあるし、きちんと呼び名を考えた方がよさそうだ。
「正直どれでも構わないんだが、こっちの世界がどういう状況なのかまだわからんから《魔王》というのはやめておこう。場所によっては❝悪い奴の代表❞みたいな使われ方をするからな」
「そうなの?」不安そうに聞いてくるな…。
「俺がいた世界ではもう戦争とかでバッチバチに争うことはないし、むしろ仲良しだから問題ないんだが、大昔は憎しみ合っていたらしい。見た目も能力も人族からしたら怖そうに見えなくもないからな。争ってた頃だったら、間違いなくトラブルというか大喧嘩になる」
「そっか、ならそれは使わない方がいいね」シェステは外の世界の知識が少ないからかどうかは不明だが、魔王ということも俺の見た目も全く気にしないらしい。
ああ、この手記を読んでいる者が誰かは分からないが、念のために伝えておくと、❝俺❞もそうだが言葉遣いが若干チャラい。どうやら見た目も含めて身体が若返っているようなのだ。
シェステが行った召喚の副作用というところか。おそらく❝願い❞を達成させるためなのだろう。保険として俺の身体を全盛期の状態にするため魔力を相当注ぎ込んだらしい。単純計算でも全盛期の俺が2人いるような魔力量だ。正直言ってやり過ぎですよ?冗談ではなく確実に世界を滅ぼせるレベルです。
ただし、これには難があって身体の若さに引き摺られて、思考も指向も青臭さを感じる。恥ずかしい…。これが若気の至りってやつか。だが、おそらくこの経験は二度とできまい。なら楽しまないと損というものだ。もしこのまま元の世界に戻れたなら皆に自慢してやろう。帰る楽しみが一つ増えたな。
「まぁ《魔王》といっても魔族の王様ってだけで、悪者の王様ってわけじゃない。見た目だけで判断するのはよくないってことさ。とりあえず《魔王》の呼び名を使うのは無しだ」2人で頷く。
「あと《天秤》というのは俺の二つ名だが、これは俺の世界でのあだ名でな。❝平等に扱う者❞という意味が込められている。つまり全ての魔法に知識があり、行使できるっていう魔法使いにとっては憧れの名前の一つなんだぞ、一応」
とドヤ顔をして見せる俺だが、実際に憧れの名ではあるこの大層な《天秤》という二つ名。
魔法と言っても一般市民にとって価値は様々なわけで、中には日常生活レベルや何に使うんだこれレベルのものもある。正直知らなくてもいいものまで知っている。かつあまりにもたくさんの魔法を収集・習得したため極めた魔法がない。
つまり個々の魔法レベルは達人には及ばない。別名で《器用貧乏》と呼ばれても仕方のない(実際に呼ばれることもある)二つ名である。
だが、俺は魔法もそうだがこの二つ名が好きである。呪文を唱えイメージすれば様々な現象を引き起こすことができる。本当に無駄ならばその存在どころか噂話ですら無くなるはずだ。しかし存在を確認しているということは何らかの意義があるはずだ。
その意義を探す、あるいは想像することだけでも、俺にとっては人生を捧げるだけの十分な理由なのだ。まさに『魔法は人生の核心足り得る』…。何も言わなくていいです。
まぁ《天秤》の名の持つ恐ろしさを真に知っている者はほぼいないけども。だからドヤ顔は間違っていないはずだ、たぶん。
「そうなんだ!ぼくもなれるかな?」お~そうくるのかシェステ君。そうか、それもいいかもな。心の奥底に経験したことのない何かが湧き上がる。
「なら授業は少し本気を出すからな?覚悟するといい」
「え~、でも頑張るよ!あ、結局なんて呼んだらいいの?」そうでした。忘れてました、ごめんなさい。
「なら『グレン』でどうだ?旅に出た時はシェステの護衛兼家庭教師ということで考えている。普段は『グレン』、授業の時は『先生』これでどうだ?」
「うん、わかった。よろしくね!グレン先生」
「ああシェステ、改めてよろしく頼む。にしてもこれは面白いことになったな」
「どういうこと?」
「『グレン』というのは、俺がいた世界のとある地域の言葉で『紅蓮』つまり❝燃え盛る炎の色❞を意味する。そしてお前の名シェステ=フランベル。『フラン』というのも故郷の言葉で元は『フラム』つまり❝炎❞を意味する。
シェステの強い❝願い❞という炎、そしてそれを叶える俺を表現する❝色❞はグレン。仲間になった俺達にぴったりだ。どうだ、いい呼び名だろ?」