36限目「証拠押収」
「だろうな。だから、信用のおける人達の協力を募って早急に動いた方がいい。つまらないオチがついてもそれはそれで笑い話になる。問題は国家レベルの危機だった場合だ。メイゼルどころか国が消し飛ぶことにもなりかねない」
ふぅ~と一つ大きく息を吐くとスタンレーも腹を括った様子だ。
「分かった。相手は笑って町を潰そうって奴らだ。笑い話にはならないだろう。何か大きい仕掛けを狙ってると想定して動くことにしよう。
俺は主都の本部ギルドと連絡を取って今後の話をする。すまんが、ダンジョンの仕掛けとやらを確認してきてくれないか」
「そうだな。何か残ってるものがあれば証拠として提出も可能だろう。今後の計画の役に立つかもしれん」
「グレン、お前には頼りっきりだな。この礼はいずれ必ずさせてもらう」
「それなら何か美味しい料理のレシピとか教えてもらえればそれでいい。シェステがすごく喜ぶだろう」俺がそう言うと皆の顔が明るくなる。
「あぁ、それに関しては必ず教える。町の料理自慢から聞いておくよ」
「では各自よろしく頼む!」一旦会議は終了し、それぞれが各持ち場へと移動する。俺はシェステに町でのお手伝いを頼むと、ジェイドが同行してくれるということになった。ラザックの一件やゼトの話をしながら楽しい道行きとなるだろう。
肝心の俺だが、カーラと共にダンジョンへ向かうことにする。距離があるということだったので、《飛行》を使って高速移動で現地へと飛んだ。
落とされないように俺の背中に必死にしがみついているカーラが少し面白かったが、結果昼前に到着できた。はは、帰りはもっと速度を出すか悩ましいな。
「長距離移動ご苦労様。大丈夫か?」
「お、お疲れ様です。な、何とか……」一生懸命にしがみついていたせいか、腕が疲れているようだ。腕を組むような形で両腕を念入りに揉んでマッサージをしている。
「よし、疲れてるところ済まないがさっさと調査を済ませてしまおう。道案内を頼むよ。道中のモンスターは私が対処しよう」
「はい、よろしくお願いします」私は《炎帝蜂》を再度召喚し、周囲を警護させる。
「ビー達、周囲の警戒と護衛を頼むぞ」高めの羽音を出し合図をする蜂達。それを見ながら、報告書の内容を思い出すカーラだった。
「これがエンプーサを倒した蜂さん達なんですね。綺麗な紅色」
「だろう?」褒められたためか、2人の周囲を嬉しそうに飛び回る。
まだ若いダンジョンと聞いているが、確かに新人訓練に良さそうだ。ダンジョンボスがいない今では、魔力がまだ少ないままなのでモンスターの再発生も非常に緩やかだろう。
凶暴なモンスターなど1匹もいない。非常に快適なダンジョン散歩である。飛び掛かってきたモンスターもいたものの、そこは蜂の一撃で瞬殺である。
難なく最奥、地下3階のボス部屋前まで到達した。
「確かに穏やかなダンジョンだ。スタンピードに偽装するには無理があると思うんだがな」
「そうですね。こんなことを言ってはなんですがそもそも偽装しなくても、それに❝適した❞ダンジョンはあるんです」相手は何を考えてるんだ?と言いたげなカーラだった。
「念のためボス部屋も確認するぞ?」少し嫌な感じがする。
「はい」
扉を開けると、暗闇で何も見えないが広い空間だとは分かる。すると。
「ボッ!」ボス部屋に設置された松明に次々と火が灯っていく。
「そんなまさか!ボスの再発生は少なくとも1か月は先のはずです!」
「「「「ギャオ~!!」」」」明るくなったボス部屋にいたのは4体のポイズンリザードだった。カーラは戸惑いを隠せない。しかし、剣士のジョブを持つ彼女は落ち着いて抜刀する。
「数も3体多くなっています。それに」
「あぁ、あの奥に見えるのはどう見ても地下への扉だな」魔力を帯びた巨大な扉が部屋の最奥にドンと構えていた。
「敵さん味なことをしてくれるじゃないか。ダンジョンを無理やり成長させてやがる。知らないやつが無防備なまま入ったら全滅だ。罠であり、スタンピードの理由付けを無理やり作りやがったんだ」カーラは信じられないという顔をしている。
「まぁ、そんな顔になるよな。あのエンプーサという悪魔、伯爵級は確定だったのかもしれない。こんな芸当下っ端では無理だ。
とりあえずだ、こいつは蜂達が倒す。後ろに控えて奇襲に備えていてくれ」
「了解しました!」
俺はその場に座ると静かに魔力の流れを探る。4体のボス達はというと、蜂達の攻撃に押され、奥の扉前に誘導されると早々に止めを刺された。
「よし!よくやったお前達。こっちも完了だ!」立ち上がると、部屋の中央に立ち呪文を唱える。
「座標指定。空間固定《時間遡行》!」黒い雷が地面を覆うと巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「グレン殿、これは一体!」
「これがな、奴らが使った召喚魔法陣だよ」
「えっ、えっ⁉これが、ですか?さっきまで何もなかったはずなのに、どうして」
「危なかったな。おそらく最初に来た者達がここで一戦交えて場を荒らしてしまったら、二度と《復元》できなかっただろう」
「ということは、これは……」
「魔力の残滓を探って、時空間魔法を使って魔法陣を復活させたんだ。場所が分からないとこの魔法は使い物にならないからな」
「だからボスを奥へ誘導したんですね。蜂さん達は空を飛べるから場も荒れない」
「その通りだ。さて、何が出るかな~っと」俺がニヤついてるとカーラが怪訝そうな表情をする。
「ちょっと、何をするつもりですか?」
「もちろん、この魔法陣を動かしてみるのさ。これから❝動かぬ証拠❞を確認するって寸法だ」
思わず仰け反るカーラであった。
「ちょっ」すると魔法陣から先日現れたのと同種の魔獣達が姿を見せる。
「確認終了!」パチッと指を鳴らすと蜂達が一斉に毒針を打ち込む。またもや瞬殺である。
「済まなかったな、びっくりさせて」尻もちをついた彼女に手を差し出して立ち上がらせる。
「はぁ、もうムチャクチャ過ぎですよ……」あまりのことで重力に逆らうのがやっとといった感じだ。
「ははは、まだまだ鍛錬が必要なんじゃないか?あらゆる危険と未知を想定し、精神を保つ。切り開く者、開拓者には必要な心構えだろう?」
「すいません、その通りです。開拓者成りたての方の言葉とは思えませんね。しかと肝に銘じます」身体についた土を払いながら、気合を入れるカーラであった。