34限目「副支部長の告白」
一夜明け、魔獣の襲撃が嘘のように町は平常通りの朝を迎えていた。キャンプの片付けも始まり、避難者達も元の場所での活動を始めた。しかし、口々に昨夜の襲撃対応に感心を示し、さらなる被害を防ぎ切ったことに人々は勇気付けられたようである。
今回の襲撃は一応の決着を見た。しかし、謎は多い。そもそも本当にこれで終結と言っていいものであろうか。その真偽のほどはおそらくこの話で明らかになるかもしれない。
そう、副支部長カーラと同行していたハンターのジェイド両名が先程目覚めた。2人が見聞きしたことについて話を聴くことになったのである。私もスタンレーから誘われ、同席することになったが、どこでどう聞きつけたのか巡検使様も同席することになった。何とも賑やかな会合になりそうで。
「では始めよう。当然ながらここで見聞きしたことは内密で頼む。それと非常に重要な内容だということで、今回は巡検使のゴルドー様と俺の一存でグレンにも立ち会ってもらうことにした」
「待て。私は当然としてなぜ一介のしかも成りたての開拓者を同席させるのだ!」
ほら来た。だが残念ながらゴルドーの言い分は当たり前の話ではある。
「確かに。ゴルドー様の言い分は至極もっともな話ではございますが、グレンは成りたてだがその経験値は目を見張るものがある。それに彼は魔法使いで今回の事件解決の立役者でもある。彼の知見に基づいたアドバイスを私は聞いておきたいと思ったわけです。
ここは支部長である私の判断と言うことでどうかご理解下さい」真摯に頭を下げるスタンレーに、さすがに言い返すことはできないゴルドーであった。
「そこまで言われてはな。いいだろう。だが、くれぐれも他所への口外はしてはならぬぞ」えぇ、十分に分かっておりますとも。ゴルドーの言に頷きで返すと、いよいよ本題に入る。
「ではカーラ、ジェイド。改めて始めてほしい」
「はい、その前に。まずグレン殿、この度は私とジェイドを救ってくれたこと、心より感謝を」2人とも深々と頭を下げる。
「俺はたまたま救える機会に恵まれただけさ。気にしなくていいよ」2人は笑顔で返す。
「それとラザック村と同様町を救ってくれたことにも感謝します」
あぁ、このジェイドという男性。普段はハンターギルドの受付をしているそうなのだが、今回は非常事態ということでカーラに同行したらしい。一応Bランクのハンターだ。
しかも後で改めて挨拶されたのだが、ラザックの村長リーナの婚約者とはこの若者のことであった。メイゼルの復興の目途がついたらラザックで式を挙げるそうだ。良かったな。
「お主、魔族いや報告では悪魔だったか。すでに交戦経験があったのだな」報告書を呼んだのか。巡検使というだけあって、仕事はちゃんとしているらしい。
「えぇ、子爵級悪魔以下数名と交戦。結果《辺境伯》と名乗る者と話がついたため、幸いにも村への被害はほぼなし、ということでしたな」スタンレーが軽く補足をする。
「ええい!ちゃんと報告書は読んでおるわ!いいから話を進めんか!」
「申し訳ありません、ではお話を」カーラが説明をするようだ。
「一度目の魔獣襲撃が起こり、魔獣は何とか掃討できましたが、その原因やどこからやってきたのかが不明でした。復興が急務でしたのでひとまず私とジェイドのみで周囲の調査に当たることになりました。
まずは魔獣の足跡を辿り、離れた山の麓にある小さなダンジョンへと行き当たりました。ですが……」カーラはジェイドと目を見合わせると、こう我々に告げる。
「ダンジョン内部に召喚陣が設置され、どうやらそこから魔獣が湧き出たと思われます」
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――ダンジョン入口付近の茂み。
「魔獣の足跡、ここに集まってる。ってことは……、発生源はどうやらあそこみたい。
でもそんな大きなダンジョンではないはず」カーラは違和感を口に出す。
「あのダンジョンは地下3階構成のまだ若いダンジョンです。あんな大量の魔獣が湧き出るのはどう考えてもおかしいです」ジェイドもこのダンジョンには訪れたことがある。すでにダンジョンボスも倒され、平穏そのものであるはずなのだ。
「となれば、❝人為的❞な理由かもしれないわね。少し中を調べてみよう」と言って中へと向かおうとした矢先、ジェイドから制止される。唇の前に人差し指。誰かが近付いてきていた。黙って身を潜める2人。
「……襲撃は成功だったな。さすがだ」落ち着いた感じではあるが、かなり身なりが良い。身分が高い……もしかして貴族?
「私に限って失敗はあり得ないわ」こちらは深々とフードを被っているので顔が見えないが女性のようである。
「それは重々承知している。だが、こちらの事情が変わってね。君には再度の仕掛けをお願いしたい」仕掛け……、まさか再襲撃!
「あら、いいの?それではあの町終わることになるけど」
「それは困る。困るが結果として終わってしまうのは仕方ないね。だが、君がそんな失敗をするなんてことはないはず。そうだろう?」密やかに笑い合う2人に背筋が寒くなる思いだった。
「ひとまず戻って支部長に報告を」
「分かりました」
「その報告、させるわけにはいかないわね」フードの女性が手を挙げるとダンジョン内部が怪しく輝き、ヘルハウンドの唸り声が聞こえる。
「グルルル……」
中から多数のヘルハウンドが姿を現し、こちらの様子を窺っている。
「いけない、このままでは囲まれるわね。町まで一気に駆け抜けるわよ!」
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「というわけです」
「あれは召喚による人為的な《暴走》だったということか」スタンレーが項垂れる。
あのように町が破壊され、町民達の心に傷を負わせた魔獣の襲撃が、自然災害ではなく同じ人による犯罪によるものである可能性が出てきたことに愕然としたのだ。




