24限目「開拓者登録実技試験②」
「ではこちらから行くぞ!」仕掛けたのはスタンレーだった。俺へと一直線に向かってくるとラッシュをかけてくる。うむ、かなりのスピードだ。さすがAランクのモンクだけはある。以前戦ったゴルゾームよりも実力があるかもしれない。
「報告にあった魔族もこうやっていなしたのかな?」おっと見抜かれていたか。油断ならないな。
「では少しスピードを上げるぞ?」ラッシュの速度がさらに上がる。
「先日の魔族以上のスピードだ。だが」俺は回避を止める。するとスタンレーは驚きの表情を見せる。
「俺のラッシュを全て受け止めただと?いや、その手。防御術式を掌に展開しているのか。すごいな」だが、彼の一発一発の威力は重い。術式を三重にしないと駄目なようだ。
「それは俺のセリフだよ。この凄まじいラッシュを仕掛けておいて、息一つ乱れないとは。かなりの練度だ。賞賛に値する」スタンレーは一度距離を取ると、集中するように構えを取る。
「はぁ~!!《闘気乱打》!」オーラを纏わせた拳打を俺めがけてものすごい勢いで飛ばしてきた。これは普通の防御術式では間に合わないな。
「《岩礁壁》!」
「そんな基礎魔法では防ぐだけでは話にならないぞ!」確かにそうだが、❝防ぐ❞ことが目的ではないからな。《岩礁壁》を常に五重展開させる。
次第に土煙に覆われる修練場。視界を奪われることを危惧したスタンレーは周囲を警戒しながら一旦攻撃を止め土煙が治まるのを待つ。しかし、土煙が治まった時には決着がついていた。
「こ、これは!」ロックウォールはすべて破壊されていた。が、破壊で飛び散った破片が地に落ちることなく全て槍へと姿を変え、その矛先をスタンレーへと向けていた。その数は100を超える。
「これは全部打ち返すのは無理だな。わかった。ここまでにしよう」やれやれと言った感じで終わりの合図をすると土の槍は全て地に還るのであった。
「全く。何が『胸を借りる』だよ。恥ずかしくなるじゃないか」頭を掻きながら笑うスタンレーだが、まだまだ実力を隠しているようであった。
「いや、たまたまだ。胸を借りたのは間違っていないと俺は確信しているぞ?」俺も笑いつつ握手をする。
「では査定をする。認定証を持ってくるから受付近くで待っててくれないか」
「了解した。シェステも一緒に待ってて構わないか」
「あぁ、いいぞ。楽しみに待っているといい」含み笑いをするとスタンレーは執務室の方へ向かって行った。
15分くらい待っただろうか。受付のモネに呼ばれて、別室へと通された。
「すまん、少し待たせたな。結論から言うと少し異例続きでな。調整に手間取った」
「何か問題でも?」
「別に悪い意味じゃなくってだな。お前さんたちが優秀過ぎるんだよ。俺だけの判断ができないから、主都のギルド本部まで資料送って意見を求めてたんだ」少し疲れている様子だ。
「とりあえず、2人とも冒険者登録の認可は下りた。問題はランクなんだが、色々説明が必要なんで一人ずついく。
まずはシェステ。開拓者ランクはSからFまであるんだが、Fランクに認定された。筆記は問題ない。やはり実技の評価が高かった。四属性魔法が扱えるのもそうだが、魔法性能も良かったってことで俺が判断した。
普通は得意魔法も含めて、優秀な者が扱えたとしても3つくらいだ。4つ、しかも全てそれなりの性能があるとなるとかなりすごいんだぞ?
一番下のランクではあるが、その年齢で開拓者登録すること自体まずありえない。それを踏まえておいてほしい。今後の努力次第ではもっと上のランクに行けるんだ。地道に頑張るといい」
「ほんと?やったぁ~!!ありがとう、僕いっぱい頑張ります!」シェステと俺は顔を見合わせ喜び合う。
「とは言ってもやはり8歳だ。実戦経験も少ないだろう。なので、実戦の可能性のある単独任務は厳禁だ。支援業務ならまぁ、大丈夫だろう。ただし、必ずグレンに指示を仰ぐこと。守れるかい?」
「はい、わかりました!」その条件は俺にとってもありがたい。過保護になるかもしれないが、重要人物だからな。アルスもいるから大丈夫だろう、あ。
「すまん、一つ伝えるのを忘れていた。こいつ《使役人形》と契約しているから、それも登録しておいてほしいんだ」
「この歳でか(もう驚かないぞ)。分かった。別に問題ない。後で登録しておこう。
では、これが登録証になるプレートだ。身分証にもなるから必ず身につけておくように」そう言うと青色のプレートをシェステに渡す。首にかけると、とても大事そうに押さえている。
「さて、次にグレンだが。お前の方がすごく厄介でな……」はぁ、と深い溜息を吐くスタンレーさん。
「もちろんお前さんも開拓者登録自体には何も問題ない。認可は下りた。が、ランクがな。未だに判定がついてないんだ」なんだそれ。
「俺としてはAは確実だと踏んだんだが、いきなりAランク判定ってのが前例がない。加えてあんたの筆記試験。あれは正直俺では採点ができなかった。まるで学術論文なんだよ。あんた学者かなんかやってたのか?本部の担当が血相変えて連絡してきたぞ?
学術ギルドが是非研究したいって色めき立つわ。ひょっとしてあんたが《高位魔導師》なんじゃないかとか大騒ぎでな。場合によってはS判定でもって、収拾つかなくなってな」そんな大事になってたのか。一応教授職でもあるから、ついつい筆が走ってしまった。それはホントにごめんなさい。
心の中で静かに手を合わせた。
「で、本当はAランク認定したかったんだが、ひとまずBランク(仮)ってことで認定させてくれ。グレンならある程度ミッションをこなせば、すぐにAランクに上がれるだろう。そういうことで頼む」スタンレーはそう話しながら銀製のプレートを差し出す。
初めにしては破格の待遇であることは間違いないだろう。ここは素直に感謝しよう。
「苦労を掛けさせて逆に済まなかったな。いや、今の俺には十分すぎるくらいだ。ありがたくもらっておくよ」俺も大事に首にかける。
「そう言ってもらえると助かるよ」スタンレーは人が良さそうだからきっと色々と苦労してそうだ。




