23限目「開拓者登録実技試験①」
「さて、引き続き実技試験は俺が担当する。無理に頑張ろうとせず、普段の力を見せて欲しい」これはシェステに向けての説明だろう。支部長は優しいな。
「では、まずは基本の能力を見たい。君等は魔法使いのクラスだったね。なら基本属性の魔法をあの的に向けて撃ってくれるかい?グレン、シェステの順に行う」
「了解した。ではまず俺から」《火球》《水球》《小石撃》《風撃》の4つの魔法を発動させると右手の4本の指に纏わせ、的へ向けて撃った。
「お、おい!《四重無詠唱》だと?」スタンレーが目を丸くしている。別に大した魔法は撃ってないぞ?
彼は徐に的へと近づくと、さらに顔が青ざめる。
「おいおい、中心から等間隔に当たってる。まさか狙ったのか?それに的を破壊せずどうやったらこんなに綺麗な穴が開くんだよ……」いやいや、そんなに驚くことなのか?確かに俺は魔王だし、魔法には自信があるから、これくらいは全く苦でもないわけだが、腕に自信がある魔法使いならできて当然のレベルのはずだ……はずですよね?
「分かった。次、シェステ!魔法を撃ってみてくれ」スタンレーは的から離れながら指示を出す。
「はい!」シェステはやる気十分なようだ。いつも通りでいいんだ。頑張れ。
「《火球》!」右手を前へ突き出して呪文を詠唱すると果物1個分の大きさの火の玉が出現する。そしてゆっくりとだが大きさをコントロールして自分の身の丈ほどの大きな火球へと膨張させた。そして的へと放つと的は業火と共に消滅した。スタンレーさん口あんぐりですよ。
――数日前。実践修練にて。
水玉を凍結させ大きくするというオーダーに、時間はかかったが見事成功したシェステ。かなり疲れたのか地面に大の字で横たわっている。
「成功おめでとう!お茶を淹れるからそのまま休憩してなさい」
「は~い」苦笑いしながら返事する彼女であった。
「いや、ほんとに思ったよりも早かった。これならいけるかもな」
「何が?」
「メイゼルで開拓者登録するだろう?おそらく試験があるだろうから、シェステも受けてみたらひょっとすると一緒に開拓者になれるかもしれないぞ、と思ってな」シェステはニヤつく俺に急に飛び起きて近寄ってきた。
「えぇ~!ほんと?なれるの?僕も開拓者!」
「シェステは8歳だから、ひょっとしたら年齢制限に引っ掛かる可能性もあるが、ひとつ試験官をびっくりさせてやろうじゃないか。実力さえ認められれば、勢いで突破できる可能性もある。絶対じゃないが、まずはベストを尽くそう。
というわけで、メイゼルに到着するまで特訓だ」拳を胸に当てシェステを見つめると。
「うん、僕頑張るよ。開拓者かぁ~。なれるといいなぁ~」肉を食べる時のような顔で瞳がキラキラしている。
「よし、では今後は少し時間を増やして瞑想と実践修練を両方やってくぞ。で、当面の目標はこれを目指してもらう。《火球》」そう言うと、上空に隕石かと思うくらいの巨大な火球が出現する。
「で、でか~い!」空に向かって両手を上げ、大声を出しながら目を輝かせている。
「視覚から得る情報はイメージに直結しやすい。この感動と光景をしっかり覚えておくんだ。シェステもいずれこれくらいの大きさの魔法ができるようにな」
「僕にもできる?」
「ああ、シェステなら絶対できるぞ!だから一緒に練習頑張ろうな」
「そっかぁ!頑張るぞ~!」
指をパチンと鳴らすと、巨大な火球は一瞬にして消え失せた。残念そうな顔をしているが、次はこいつだ。
「《水球》」そうやって、大声ではしゃぐ彼女の前で四属性魔法(基礎魔法だが)を披露し、翌日からの修練に向けて色々と話をしたのであった。
――そして現在。実技試験。
「普通に詠唱してくれたんで少し安心したんだが……。お前さん達、つくづく規格外だな。まぁいい。すまん、続けてくれ」その後もシェステは詠唱を続け、無事四属性魔法の披露は終わった。
うん、短い間だったが成果は十分出ている。よく頑張ったな。
「わかった。次は俺と模擬戦闘をしてもらいたい。シェステは見学しておいてくれ」スタンレーと模擬戦闘か。どれくらいの実力か見せてもらおう。ってそれじゃ立場が逆だな。
「俺のジョブは《武僧》、Aランク開拓者だ。思いっきり行かせてもらうぞ?」
「胸を借りさせてもらうぞ」お互い握手をすると、俺は魔法杖を、スタンレーは金属製のグローブを拳に装着して構えを取る。




