21限目「修練」
***********
――講義7限目。
「基本属性だが、この世界には六属性あるという話はしたね」講義中はどうも口調が教師モードになってしまうな。
「正確には、火・水・土・風の主属性魔法と、光・闇の上位属性魔法です!」正確だ。しっかり覚えてるな。
「その通りだ。派生・発展した魔法は種類にすれば数えられぬほどに増える。だが、すべての源流はこの6つの魔法に分類できるという。ならばこの6つを極めれば自ずと全魔法の底上げが可能。だからこそ基礎・応用共に❝イメージ❞の修練が魔法使いには求められる」
***********
よし、回想という名の説明は終わりだ。
「今日は水(魔法)にしようか。少し難しいが、氷に熱を与え、溶かした後蒸発させることなく水の状態で維持するというイメージだ。安定したら今度はその水から熱を奪い氷塊へと育てるイメージへ。それを10セットだ。では始め!」シェステが目を瞑り瞑想修行へと入る。
主属性四魔法は自然魔法とも呼ばれ、魔法ではあるが割と物質的・物理的なイメージで構成できる魔法である。
特に火魔法と水魔法は❝熱❞という根幹イメージにおいて❝上げるか下げるか❞
の差があるだけで、本当は熱変動魔法と言ってもいいのかもしれない。
前言撤回するようでばつが悪いのだが、イメージという点では圧倒的に水魔法が難しい。水魔法は❝熱を下げるあるいは熱を奪う❞というイメージが必要なのだが、その中には❝氷❞という概念も含まれる。実はこの氷が厄介なのだ。
火と氷では、多少なりともイメージのしやすさに差があるからだ。火種さえあれば容易に火をおこすことができる。火は人にとって馴染み深くイメージもしやすい。しかし寒冷地において氷は豊富にあれど、人の手で氷を生み出すのはかなり難しい。
物理的にも火炎温度は数万度?いやいや100京度なんて温度すら存在する。逆に凍結温度にはマイナス273度という下限が存在する。がやはりイメージが難しい。
と、私でもこれだ。知識というのは邪魔になることもあるという話だな。魔法使いにとってイメージが大切ということは、❝難しい❞というイメージが固まらぬ内に修行しておいた方がよいという結論に至るわけで。まぁ、柔軟な考え方ができるなら問題はないのだがな。
まずは水の温度変化、とりわけ凍結に関するイメージを先にマスターしてもらえれば、後は問題ないだろう。理屈っぽい話が続き申し訳ないのだが、それほどまでに凍結イメージは難しいのだ。強大な火魔法に対抗するには水魔法は必須である。大魔法使いを目標とするなら是非クリアして欲しいところだ。
お、そろそろ終わりそうだ。また一段と早くなったな。
「先生終わりました」静かに目を開くと元気よく申告した。
「今日は早かったな。よし、褒美に今日は実際に水魔法の練習をしてみようか」
「ほんとに?やったぁ~!」嬉しさにピョンピョン跳びはねている。瞑想修練は基礎修練の中でも飛びぬけて地味で嫌がる者もとても多い。しかし、シェステはその重要性を理解し、積極的に行っている。その積み重ねがきっと将来華を咲かせるだろう。
よし。基礎的なイメージは十分かもしれないな。今後は並行して実践訓練も増やすことにしよう。
「では、まず《水球》を唱えてみてくれ。大きさは自由で構わない」
「《水球》!」シェステの正面にブドウ1個分くらいの小さな水玉が出現した。
「よしいいぞ。次に少しずつその水球を大きくしてみてくれ。限界まで頑張ってみなさい」う~ん少し困ってるようだな。腕に力が入っている。
「シェステ、魔力は腕に力を込めるのではなく、いつも言ってるようにイメージだ」
「むむむ!《水球》!《水球》!《水球》!」か、重ね掛け!シェステめ、知恵を絞ったな。
「ははは、頭を使ったじゃないか。でも重ね掛けじゃなくイメージで魔力を込めて大きさをコントロールするんだ。慣れない内は大変だが一度コツをつかめば全ての魔法に応用できる。頑張ってものにしなさい」
確かに重ね掛けも正解ではあるのだが、魔法の規模を緻密にコントロールしなくてはいけない状況も出てくる。そして、実はこれが後々無詠唱魔法への習得につながるので、とても大事な修練なのだ。
「シェステ、一度《水球》を解除して呼吸を整えて再度チャレンジしよう」天を仰いで彼女はふぅ~と息を吐いている。しばし休憩である。
「いいか、何度も言うがイメージだ。イメージだけでコントロールすること。そしてそのための瞑想修練であることを忘れてはいけないよ?」
「は……はい、先生!」呼吸がまだ整ってないようだ。
「大丈夫だ、シェステならきっとできる。君は俺の弟子だ。それに魔王直々に教えられて強くならないわけがない。今はただ成功を信じて集中しなさい」
「でも、難しいよ~!いや、です!」
「その通りだ。これは魔法使いにとって最初の壁と言ってもいい。これができるかどうかで魔法使いとしての❝格❞が決まると言っても過言じゃないからね。少しかっこよく言えば❝奥義へ至る道❞だ。どうだい、少しはやる気が出たかね?シェステくん」言うまでもなく張り切ってるようです。ようございました。
「よし、それではもう一度。始め!」
目の前の水球を維持しつつ、集中し心静かにイメージを構築した後さらに魔法を上書きする。かなり高等なスキルであるのは事実。理屈で考えればこれがいかに難しいことか分かるだろう。
しかし、拍子抜けしてしまうほどその壁を乗り越えてしまうことは、どんな人にも経験があることなのだ。シェステも例外ではない。ほら見たことか。
「先生!できた!した!できましたよ~!」一流魔法使いのいっちょ上がりである。もちろん壁は乗り越えたが、今後はこれを動きながら、自然に、いつでも、精密にできるようにならないといけない。まだまだ道は長い。精進が必要なのだ。
「よくできました!想像よりずっと早かったね。やはり魔法使いとしての素質がある。今後も期待してるから精進してたくさん驚かせてくれ給え」
「はい!先生。今後も精進します!」メイゼルに着く頃までに形にしたいところだな。
「ではそのまま、その水球を凍結させてさらに大きくしてみなさい」
――そして数日後。
俺達は次の目標であるメイゼルの町へ到着した。