20限目「緊急会議」
「はぁ~。こういう場合、後でまとめようとすると忘れることも増える可能性があるからな。今のうちにまとめておく」2人とも再度頷く。
「声の主は《緑翠竜》。色を冠しているあたり、ゼトが言っていたように他にも別の色を冠する竜がいそうだな」
「うむ。爺さん達の伝承にあった❝風の加護を象徴する竜❞というのもその緑翠竜のことじゃろうな」伝承に真実味を帯びてきたことに驚きを隠せないゼトだった。
「話せる時間が短かったな。『今は眠りについておる』と言っていたことが関係しているのか?今は十全な状態ではないってことだな」
「少なくともこの大陸では姿を見たことがないのは、眠りについていたからじゃったか……。なぜ眠りについておるのかが気になるのぉ」
「それはサフィールに行って実際に会うまでは分からないだろう。しかし『そのまま旅を続けろ』か。あまり切迫感は感じなかったよな。そこまで急ぐ必要はないという事か。
そもそも主都まではメイゼルは経由するが、回り道する予定もなかったし、そこまで時間もかからないだろうから、取り立てて急ぐこともないか」頭を撫でると嬉しそうにしているシェステであった。
「あと『王城に来い』ということは、今は王城で眠りについているってことか?そこら辺は何か情報はないのか?」
「いや、おそらくそういう情報もなかったはずじゃ。噂も全くなかったし、完全に秘密にされているんじゃろう。なら王家の者が何か知っておるはずじゃ。とにかく王城へ行くまでは分からぬということだな」
「まぁこればかりは仕方ないか。行ったとしてすんなり入れるとも限らないが、今は考えないことにしておこう。『予言』も同様だ。内容を誰も知らんのにあれこれ考えてもって話だな。
ふぅ……。で、問題は」俺とゼトの視線が自ずとシェステへと向けられる。
「『巫女』ってことは、確実にシェステだよな……」俺やゼトが巫女服を着た姿が一瞬頭に浮かぼうとしたので全力でかき消した。
「ねぇ『みこ』って何?」シェステが心配そうに聞いてきた。
「『巫女』ってのはな、神様に仕えて色んな儀式や世話をする女性のことなんだ。
そうか……。ひょっとしたら、神つまり竜の目覚めは《巫女》の役割なのかもしれない。一言で言えばすごい人ってことだ。だからこれからも努力を欠かさないようにするんだぞ」
「うん、わかった!」ひとまず納得してくれたようだ。
「となると、シェステは世界的な重要人物じゃぞ」
「そういうことになるな。竜は俺のことを『里の者では無い』と言っていた。巫女の家系に連なる里がどこかにある可能性がある。それと『護り手』というのはシェステの両親なのかもしれないな」だとすればシェステの前では言えないが、シェステという警護対象を離れる必要性とはいったい……。
いくつか思い当たることはあるが今の段階では推測の域を出ない。迂闊なことは言わない方がいいな。
「今の時点で情報の整理はついた。不明な部分も多いが、それは今後竜に出会えれば色々分かるだろう。それまではできることに専念しよう」
「お前さんは豪胆じゃのう。聞く限り世界の命運がかかっておるとしか思えん話じゃったぞ。とにかくじゃ。わしができることがあれば遠慮なく言ってくれ」
「ありがとう。では、早速だが首都の王立図書館の上司を通じて、王宮への入場が可能か探ってくれないか。できれば公王とスムーズに謁見できると嬉しい」
「分かった。最大限尽力しよう」ゼトと力強く握手をする。
「俺はメイゼルで❝開拓者登録❞をして、情報収集に努めることにするよ」
「お前さんなら大丈夫じゃろう。道中の幸運を祈っておる。落ち着いたら是非また立ち寄ってくれ。肉料理をたくさん作って歓迎しよう」シェステに顔を向け話すゼトに、最大限の笑顔で返す彼女であった。
「それでは改めて。ゼト、世話になったな。またご馳走になる日を楽しみにしている」
「ああ、わしも楽しみにしているよ。元気でな」
ゼトに見送られ、短い間であったが濃密な時間を過ごさせてもらった。シェステも次に来る日を楽しみに今後の旅を続けることだろう。そんなことが日々積み重なることで、明日を夢見て心身元気に生きることができると信じている。
万難を排して事に当たる。そう決意を新たにしながら街道への小道にて歩を進める俺とシェステであった。
さて、その日の午後。ゼトにもらったひき肉を油で揚げる。サクサクに揚がった衣をさっとソースにくぐらせ、千切りした野菜と共にパンで挟んで完成!
さっきからシェステが興味津々で料理を覗き込んでいる。目が星になってるぞ。
「よし、できたぞ。お待たせしたな。今日の昼食は俺様特製メンチカツサンドだ!どうぞ召し上がれ」
「お~いし~い!」笑顔で頬張るシェステだった。もりもり食ってすくすく育てよ!
食事をしながら一通り今後の話をした俺達は、食後に瞑想修行をすることにした。
瞑想修行は可能な限りするようにしている。以前にも触れたが魔法使いにとって、あらゆる事象に対してイメージを構築できるようになることは必須スキルと言ってよい。さらに言えば、構築速度・正確さ・緻密さを上げれば上げるほど練り上げた魔力と相まって凄まじい魔法へと昇華する。
本当ならば半日を費やしたいところだが、シェステにはさして重要ではない。
竜の言うことが本当……なんだろうな。おそらく巫女の素養と言うべきなのか、彼女の成長は目覚ましい。最初の講義でも知識の吸収速度は目を見張るものだったが。せっかくだ、可能な限り最高の授業をしてやろうじゃないか。
「よし、いつもの瞑想修行だ」
「はい、先生お願いします!」うん、今日も元気だな。




