13限目「ラザックの村へ」
「そうか。上には上がいるってことなんだな。いつか会えることを祈ろう。
とにかく開拓者というのは、俺達が話で聞いていた《冒険者》にあたる存在のようなものかもしれないな」
「そうじゃな。採集や討伐を主目的とする❝狩猟者ギルド❞や迷宮探索が主目的の❝探索者ギルド❞に属する場合が多いからのう。地域ごとに《冒険者》や《探索者》、《挑戦者》と様々な言い方があるそうだ。だが、ほとんどが開拓者という名前に憧れて目指すものが多い。もし今後出会った時は開拓者と呼んでやるといいだろう」
「ああ、よくわかった。とても分かりやすい説明で感謝する」
「これくらい構わんよ。今後の旅のことを考えると、ここから一番近い町メイゼルにちょうどギルド支部があるから開拓者登録をしておくといい。登録自体はさほど面倒ではないからな。
さて、前置きが長くなってしまったがここからが本題じゃ。」若干の躊躇いがあるようだが、ゼトはしっかりと俺の目を見て話す。
「わしからの依頼は2つ。『村の者達を救い出して欲しい』そして『可能であれば村にいる悪魔達を討伐してほしい』」言いにくいことを言ったのか、ゼトはふぅと息を吐く。にしても、ジャン達への依頼とは違うな。
「主都の王立図書館で司書を長いことしておったんじゃが、元はラザックの出身でな。足を悪くしたんで、退官してからはここでのんびり過ごしておる。
ただ、半月ほど前に村近くの鉱山で新しい坑道が見つかった、という知らせを受けてから連絡が途絶えての。最初は通りかかる開拓者達に様子を見てきてくれと依頼を出したんじゃが、例の悪魔たちがいて中の様子が伺えないばかりか、中には帰ってこない者達もいて……。もはやなりふり構っておられん状況なんじゃ」
「それでその依頼か。でもいいのか?俺達で。他に、そうギルドに助けを求めてもいいんじゃないか?」
「そうしようと思ったんじゃが、今世界各地で悪魔達の活動が激しくなっておる。その対策で人員不足が深刻でな。メイゼルでも何か事件が発生しておってこちらまで手が回らん。
無理を承知で改めて頼みたい。わしの全てを捧げよう。奴隷になれと言われればなってもよい。ただもうこれ以上は待てんのだ」微かだが声が震えている。老紳士は必死さを押し殺し、頭を下げる。
「ゼト、頭を上げて欲しい。元より力になる気ではいたんだ。他でもない故郷の一大事だ。気が気でなかっただろう。
この依頼、喜んで引き受けさせてもらう。それに、奴隷なんていらんから別の報酬を頼むよ」笑顔で声をかけると、安心したのか先程よりも大きな息を吐く。
「本当に無理を言ってすまない。じゃが、見たところ武器を持っておらんから、❝格闘家❞か❝魔法使い❞なんじゃろう?子連れ旅でその落ち着きよう。わしはお前さんならやってくれると信じることにしたんじゃ、どうか村のことを頼む」目聡いな。確かにそうだ。あまり目立つのも良くない。今後の課題にしておこう。
「ああ、魔法使いだ。姪っ子も一応魔法使いで俺の弟子として修行中だよ」
「ほう、それはすごいな。しっかり学んで立派な魔法使いにおなりなさい」ゼトはシェステに優しく微笑みかける。
「うん、頑張るよ!ぼくグレンみたいな魔法使いになるんだ」嬉しいことを言ってくれる。
「ということはシェステも一緒に村へ向かうのかね?」心配するのは無理もない。
「座学は一通りやったんだが、まだまだ実戦経験が少ない。現物の悪魔と対処の仕方を見せておきたいんだ。それに頼もしい相棒もいることだしな」シェステは左手中指にはめた指輪からアルスを呼び出す。
「アルス、おいで!ゼトさんにご挨拶しよう」アルスは姿を現すとシェステの肩に留まり一声鳴いて挨拶する。
「ほう、これはドールかね?」興味津々な感じでアルスを見る。
「ああ、シェステはアルスが守るから全く問題ないよ」
「ははは、まるで遠足に行くみたいに言うんじゃな。良い結果を楽しみに待っとるよ。それでは村付近の地図がある。位置関係を説明しておく」村周辺の地理や住宅の配置、住人の情報などを地図を見ながら確認していく。
村の中央に村民と鉱山採掘への出稼ぎ労働者が暮らす10世帯ほどの居住地区があり、その周囲を畑が囲むように存在している。害獣対策の柵がさらに外側へ2重に設置されており、村全体としては森に囲まれている。出入口は村南方に一つのみ。北側には村長の家があり、さらにその裏側にある細い道を進んだところに中規模の鉱山がある。
魔力を含む石―魔石が豊富らしく、品質はそこまで高くはないものの庶民には使い勝手の良いものとしてかなり重宝されているようだ。村長の方針で採掘量に制限をかけ一定量に止めることで枯渇を避け、安定収入を得ているそうだ。
「ありがとう、とても参考になったよ。よし、作戦は決まったな」村自体はそこまで大きいということはない。居住地区が中央に固まっているのは助かる。村民達の安否が気になるが、それは後でシェステに頼むことにしよう。
「それじゃ、行ってくる。報酬のほう、よろしく頼む」
「❝地図❞と❝情報❞じゃったな。お安い御用じゃ。準備しておこう」ゼトに笑顔で送り出され、俺達は一路ラザックへ向かう。
半日もかからずに村の外れまで近付くことができた。途中悪魔を数匹確認したがどれも下級悪魔だった。日中だったので日陰を選び、森の中を少し眠そうに徘徊していた。このまま下級悪魔達だけが相手なら楽なんだが、話はそう簡単にはいかない。
村外れの森の中から気配を隠しつつ村を伺う。
「《騎士級》がいるな」悪魔はプライド意識が非常に強い。もちろん魔族・人族も含め他種族もそれなりに強いプライドを持っているが、悪魔は輪をかけて強い。固執していると言い換えてもいいな。
そのため、中級・上級悪魔ほど階級という❝肩書❞に拘っている。肩書は貴族階級のそれであり、主なもので下から《騎士級》《男爵級》《子爵級》《伯爵級》《侯爵級》《公爵級》と続く。階級持ちとなるとプライド―自信が精神力、つまり魔力に比例していく。単純に戦闘力が強くなるということである。そして固有スキルを持っていたり、各種耐性も上がるので厄介だ。
「騎士級以上だとお日様出てても普通に動けるんだっけ」気取られないように小声でシェステがつぶやく。
「よく覚えてたな、その通りだ。そして騎士を巡回に出しているということは……。
ここのボスは少なくとも《男爵》以上ってことだ」