106限目「前哨戦」
「わ~~!!肉だ!!」
「お~~!!肉じゃ!!」
「まぁ~!これは豪華な!」シェステとアスラ、クシナが大きな声を上げる。
大事な一戦を前に大盤振る舞いするべく、今夜は肉祭りを開催する運びになった。島国であるオルヴァートは、自然と魚料理が多くなる。ここまで肉に特化した食卓は非常に珍しいだろう。
まずは豚肉のバターソテー。ショウユをかけて食べるとライスが進む進む。
次に牛肉のタンシチュー。ホロホロになるまで煮込んだタンが食欲をそそる。
そして鶏肉のカツレツ。ミソを塗り東洋風の味付けにした。これもライスが進むのだ。
付け合わせの野菜やサラダ、ミソスープもつけて振舞う。皆口いっぱいに頬張って美味しそうに料理を楽しんでいる。
「お主、やはり料理の腕も大したものじゃな!全く恐ろしいやつじゃ!」口からカツが飛び出してますよ、アスラさん?ハヤトも激しく頷きながら黙々と食べている。
姫もシェステと一緒に頬を押さえて恍惚の表情を浮かべていた。お肉は正義だな!
大盛況のお肉祭りから一夜明け、朝食後船でセイカ島に向かう。
「さて、到着する前に《多足水精》について復習しておこう」皆が首肯する。
緑翠竜からもらった情報によると、ダゴンは四聖獣の中でも特殊な位置づけである。種族が始祖精霊(エレメント=オリジン)、つまり水属性の精霊の中でも最上位なのである。当然水属性での攻撃を得意とするのだが、❝眷属召喚❞で強力な配下も呼び出す可能性もあるそうだ。
水属性という性質上物理攻撃は効果が薄いということで、基本的には魔法使いである俺とシェステが担当するが、霊刀《氷龍》を持つカーラも加わってもらう。アスラとハヤトは姫周辺で眷属対策だ。
姫にはアルスの結界で待機してもらう。
アルスはシェステが《魔導師》へのジョブアップを果たしたのを受け、《上位守護者》から《最上位守護者》へジョブアップしている。結界が突破されることはないだろう。
「あとは計画通りということで。皆頼むぞ!」全員が確認の首肯をした後、しばらくして俺達は島に到着した。
今は森に覆われているセイカ島だが、元は海底が隆起してできた島である。サンゴが点在する様子を見ても、所々にその名残がある。
島の中央には巨大な海食洞があり、❝水霊窟❞と呼ばれている。そこがダゴンの拠点である。俺達は島の南端にある入口に船を寄せそこから上陸すると奥へと進む。
「ガルルルル……」
「お出迎えだ。時間が惜しい。手早く処理するぞ!」現れたのは《氷虎》が7体ほど。俺は《風裂斬》、シェステが《炎槍》で前方にいた4体を仕留めると、カーラが素早く立ち回りあっという間に後方の3体を瞬殺する。
しばらくはこういった小競り合いが続くも、危なげなく最奥まで到達した。
かなり広い空間だ。戦う分にはやりにくさを感じさせない広さである。これなら、皆も本来の力を発揮できるだろう。
さぁ、ここからが本番だ。全員が気を集中させる。
すると奥の泉から異様な気を撒き散らし、水が上へと膨れ上がると徐々に本来の姿へと形状を変化させていく。
上半身は髪の長い女性、下半身はその名が示すようにタコのような触手が蛇のようにうねっている。間違いない。あれが《多足水精》である。
目が赤く血走っている。陽精樹の時と同じだ。最上位精霊をあのような姿に変じてしまう、アルバレイが《魔獣王》であることは間違いないようだ。
「グワアアア!!!」ダゴンが凄まじい雄叫びを上げる。すると、周囲に無数の魔法陣が出現し、中から眷属達が姿を現す。《氷虎》、《氷鷲》、《浮暴魚》か。
「いつも通りだ。まずは眷属の数を減らす!シェステ頼む!」
「うん、みんないくよ!」ワンドを片手に持ち、全員に各種強化魔法をかける。
「アルス、お姉ちゃんのこと頼んだよ!」指輪から姿を現した《使役人形》のアルスがクシナの肩に留まり一声鳴くと、青緑色のカーテンがクシナとハヤトを包み込んでいく。緑翠竜に加え、紺碧竜からも加護をもらったため、結界の色が少し変化している。
防御結界の展開を確認すると、俺以外各自四方へ散開していく。
俺は後方で全体の指揮をとる。❝その時❞が来るのを姫共々見逃さないためだ。
「《火炎連弾》!!」シェステは《火球》を細長くしたものを連射して攻撃している。弾幕で圧倒している。さぞ気持ちいいことだろう。
カーラはというと、フロストファングを中心に地上部隊を叩いている。フロストファングの素早い動き、牙と爪による攻撃をものともせず、刀で上手く往なして1体ずつ確実に仕留めていく。
アスラとハヤトはクシナの結界付近に陣取り、空中からブレス攻撃を仕掛けるフロストイーグル、そして鋭い牙をむき出して飛び掛かってくるバラクーダを相手にする。
アスラは手数が多いという二刀流の優位性を存分に発揮して、剣の結界を張りつつ斬撃を飛ばし次々と敵を倒していく。
年齢を感じさせない力技だが、一切の無駄がない。まるで舞を舞うがごとく美しい。
ハヤトは荒削りの感があるが、突撃してくるバラクーダを片っ端から斬り伏せていく。なかなかやるな。
途中2回ほど眷属召喚が追加されるが、4人に対しては全く意味をなさない。次々と倒される眷属達に、どうやらさらなる追加召喚を諦めたようだ。
「眷属掃討後ダゴンへの攻撃を始めてくれ!」
「「「「おう!!」」」」4人の掛け声と共に、本命のダゴンへの攻撃へと移行した。




