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転魔教師~異世界転移した魔王、元の世界に戻るため召喚者の家庭教師になる~  作者: d-side
第2章 海洋国家オルヴァート編

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100限目「海底神殿のクシナ姫」

「貴様、アルバレイの手の者か!」随分と若く見える男性だったが、親のかたきと言わんばかりの形相でこちらを睨みつける。が、傍にいるシェステに気付くと俺の顔とシェステの顔を何回も見直している。どうやら混乱しているようだ。


「いや、俺はグレン。開拓者だ。こいつは姪のシェステ。こんななりだが立派な開拓者だぞ?」そう言いながら彼女の頭を撫でると、嬉しいのかほんのりにやけている。


「どうやら私の勘違いのようだ。失礼の段お許し頂きたい」男は刀から手を離し、頭を下げ謝意を表す。

「姫の護衛であれば当然のことだ。気にしてないよ」男は朱色の胸当てが目立つ。これまた朱色のバンダナを巻いた頭を上げると緊張を解き、初めて笑顔を見せる。


「ありがとうございます。して、洞窟のことはどなたから?」

「クラハの町の外れでアスラ殿と会ってな。アスラ殿から姫が避難しているならここだろうと聞いた。そして保護を頼まれたのさ」アスラの名を聞いた途端、驚きと共に彼の顔が明るくなる。


「アスラ様!お元気でいらっしゃったのですね!そうですか……、アスラ様が……。

 では皆様はラミナ島から来られたのでしょう?陽精樹様とお会いになられたはず。その……ご様子はいかがでしたか?」オルヴァートを守護する四聖獣が一つ、陽精樹。国民の一人として心配だろう。


「すまん、その前に確認しておきたい。クシナ姫は壮健でいらっしゃるのだな?」

「そうですね。それをお伝えしなければいけませんね。

 健康面では問題ない状況ですが……。ご両親を失い、一人この洞窟へ避難されどんなにお寂しい気持ちでいらっしゃることか……。私の前では気丈に振舞われてはおります。毎日国民のために祈りを捧げて」


「色々なことが一度に押し寄せた。心の整理がついていないのでしょう。だからこそ、見守ることより対話を。未来のオルヴァートのためにも己との対話が必要かと。姫への謁見、承諾してくれないだろうか」心が落ち着くまで見守るというのも分かる。


 だが、決断が強いられる時に己を排除して庇護する者の命運を決める。それが為政者としての責務であろう。厳しいことを言うようだが、その覚悟を今俺は問わなければならない。


『為政者に対しては過保護であってはならない』その想いが通じたのだろうか。しばし考えていた彼は、意を決して俺達に返答する。

「分かりました。姫への謁見、是非お願いいたします」



 俺達3人は海底神殿の最深部へと進んでいく。目的地は、姫が日々祈りを捧げているという❝奥の院❞だ。

 複数立ち並ぶ朱色の門、鳥居は強力な破魔の結界装置でもあるようだ。鳥居をくぐっていく度に空気の清浄さが際立っていく。直に深い青色を基調とした神秘的な社が視界に入ってきた。


「こちらが奥の院です。少しお待ちください」社の手前まで進みゆくと静かに跪く。

「姫、アスラ様ゆかりの開拓者の方々が謁見を願い出ております。どうかお会い頂けませんでしょうか」少し間をおいて、静かな空間に穏やかな声が聞こえてくる。



「アスラの?分かりました。お会いしましょう」観音開きの戸が開き、一人の女性が現れる。

 簡易的な祭礼服、いや巫女服だろうか。上衣が白、袴が濃紺のものだ。長い髪を後ろにまとめ、物腰の柔らかさといい、気品と清澄さを感じる女性である。


「私が前国王夫妻が一子。クシナと申します」

「お初にお目にかかります。私の名はグレン。こちらが姪のシェステです。

 アンバール国王ライゼル様の命を受けて、オルヴァートの内情を探っておりました。アスラ殿からも過分なる期待を頂いておりますが、この度の国難、可能ならば解決したいと思っております」


「そう!アスラとお会いになられたのですね?アスラは元気なのかしら……」王宮を去った事情は知っているようだ。両手を合わせ、祈るような仕草でこちらを見ている。


「負傷した右腕が完治し、非常に元気になられたご様子。今は私の連れの一人に意気揚々と稽古をつけているところですよ」

「まぁ、そうなのですね!それは本当によかった……」少し涙を浮かべ自分のことのように喜びの表情を浮かべる。


 港町クラハ、フェイの村の解放。そして四聖獣の現状を伝える。

「今、オルヴァートを取り巻く状況は芳しくなく、至急対策を立てなくてはなりません」俺の言葉を聞いた姫は目を瞑り、逡巡を見せる。

「やはりこれが必要な事態なのですね」そう言って懐から取り出したのは、俺達にとってはすでに馴染みのあるものである。


「やはりこれを見ても驚かないということは、❝これ❞が何かご存じなのですね」

「はい、私も持っております」俺も懐から取り出す。緑翠竜の鱗、❝風の《竜鱗鉱》❞である。そう、姫が手にしているのは、透き通るような青い海の煌めきを宿す、いわば❝水の《竜鱗鉱》❞だった。


「竜鱗鉱を持つ者はすべからく統治者であると父から聞き及んでおります。ですがあなたは違いますよね?」

「はい、くれぐれもこのことは内密にして頂きたいのですが。シェステは《竜の巫女》なのです。私はこの娘の護り手として同行しています」


「あなた方から風の加護を感じるのはそういうことでしたか。ではやはりあなた方がいらした理由は……」

「はい、我々があなたと会う理由は一つ。紺碧竜リヴァルダスとの契約をして頂くためです」俺は真っ直ぐ姫の目を見つめ、率直に誠実に目的を伝える。が、姫は下を向いてしまう。


「でも……、それは私が統治者、国王になるということ。私にはその覚悟がありません。父上母上が亡くなったと受け入れることがどうしてもできないのです」急な別れであったに違いない。その心持ちになるのは理解はできる。できるのだが、王女という立場がそれを許さない。さてどうしたものか。


 その時、シェステが優しくクシナ姫に問うのであった。

「お姉ちゃんが王様にならないんなら、他に王様になる人っているの?」

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