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第26話 ベルタの過去とベルタの変身

 目の前のベルタは不敵な笑みを浮かべている。


「そうだよ。俺は高校生の時に事故に遭って『マジ・マリ』だと脇役キャラのベルタに転生した。だけど自分の行動で世界が変わるのを確認して攻略を始めた。笑えるくらい儲かったしベルタとしてベアトリーチェを騙すのは簡単だったよ。そして気付いたんだ、俺が『マジ・マリS(スレイブ)』でなら主人公になれることをね! 俺はこの世界を主人公ヒロインとして生きていけるんだ! ヒロイン達を俺の好きに扱うんだ!」


 ベルタの瞳には恍惚とした輝きがあった。彼女《彼》は自分の言葉に酔っている。私は彼女《彼》の目をしっかり見ながら言う。


「転生していようがしていまいが、あなたは『この世界』の人間の一人よ」


「うるさい! この世界は『俺のもの』だ! 俺が主人公なんだ!」


 間違っている。付き合ってみれば分かるはずだ。この世界で生きている人たちはちゃんと自分の心持って感情に従って生きている。


「違うわ! 私はここに生きている! 転生していようがちゃんと私とあなたはこの世界で『この世界の人間』として生きてるのよ!」


 ベルタの叫びを否定する。


「なにを言っている! お前こそ自分自身の姿でこの世界をかきまわしているくせに! お前なんていらないんだ庭月野にわつきの美弥呼みやこ! やってしまえ竜牙兵!」


 ベルタはそう叫ぶと竜牙兵を差し向けてくる! なんで私の名前を知っているのかなんて気にする暇もない。


「プロテクション!……ダメです! 私の魔法も使えません」


 竜牙兵との私の間に防御魔法を使おうとしたアリスティアも悲痛な叫びをあげる。


「アリスティア! 自分に防御魔法をかけてみて!」


 わたしの叫び声に自分に防御魔法をかけるアリスティア。ポゥと白く光って防御魔法がアリスティアの体を包む。


 ()()()()()()()()()()が阻害される魔法禁止空間アンチマジック・シェル


 だったら自分の体に魔法をかければ……


「メルヴィン……建物の外に! 外に出ればあなたの魔法なら竜牙兵にだって負けないから」


「だが、君はどうするんだ! このままじゃ勝ち目はないぞ」


 メルヴィンは躊躇っている。


「このままじゃ勝てないなら勝てるようにするまでよ! どのみちこのままじゃ殺されちゃうから!」


 リリィを人質に取られているうえにベルタに地下通路に逃げ込まれたら終わりだし。この世界のR18ゲームとしての攻略法を知り尽くした彼の手で未来がめちゃくちゃになってしまう。


 私の掛け声にハッとした表情でアリスティアとメルヴィンが建物の外に飛び出す。


 私も飛び出してくると思っていた二人はとどまった私を見て戸惑っている。


「アリスティア、助けを呼びに走って。『メタモルフォーゼ!』」


 迫ってくる竜牙兵が両側から剣を振り下ろしてくるタイミングで私の体が光る。


 キィィィンッ!


 澄んだ音がして私の両手が左右から襲い掛かってきた竜牙兵の剣を受け止めていた。鋼鉄よりも硬く変化した私《黒猫》の爪が。


 私は右手の一振りで一体の竜牙兵を跳ね飛ばしそのまま身体を回転させ、脚を高く上げて強烈な後ろ回し蹴りでもう一体竜牙兵を吹き飛ばす。


「うそ……」


 アリスティアが驚いている。ベルタは茫然としている。


 私の体は半人半獣……物語に出てくる獣人のようになっている。私の体のサイズのままで獣人化できた。


 なんとなく恥ずかしいけど美弥呼としての黒髪に猫耳がついて両腕と両足が黒い毛で覆われている。

 なぜかお腹の部分はおへそが丸出しだけど腰と胸の部分は黒い毛で覆われているのでギリセーフ!?


「メルヴィン! お願い!」


 蹴り飛ばした竜牙兵に突き上げるように下からもう一撃加えてドアの外に弾き飛ばす。ベルタをこの部屋から出すわけにはいかない。


「わ、わかった」


 戸惑いながらもメルヴィンは呪文を唱える。外に放り出した竜牙兵とメルヴィンの戦いが始まる。


「戻ってこい! そんなやつを相手にするより俺のことを守るんだ!」


 ベルタは女の子の体だし、今の獣人ビーストモードの私と肉弾戦で敵うとは思わないだろう。

 メルヴィンなら竜牙兵に直接魔法が効きにくくても上手く足止めしてくれるはず。


 竜牙兵と一対一の戦いが二つ。ちらっと見るとアリスティアはもう路地裏から抜け出していた。


「覚悟しなさい! ヒロインの出番だから(ヒーローの出番です)!」


 私はそのままベルタに向かって突進する。ベルタは壁に立てかけられていた背丈ほどのロッドを手に取っていたけど、私の方が早い!


「ひっ」


 ベルタを壁に押し付けるように迫った私は腕を大きく振りかぶる。爪で引っ込めてグーで殴ろうとしたところに室内の竜牙兵が切りかかってくる。


「クッ!」


 慌てて出した爪で受け止めた竜牙兵の剣がガキン! と音を立てる。

 運動神経が鈍い私は半ば黒猫のミャーコに意識を渡すようにして体を動かしてもらう。


「こうにゃ!」


 切りかかってきた竜牙兵に蹴りを入れて突き放し、そのまま壁際のベルタにぶっつける。


「グハッ!」


 ベルタの悲鳴を無視して私はベルタに右の爪を振り下ろそうとするがベルタは杖で私の爪を受け止める。


「この!」


「させにゃい!」


 私はそのままベルタに左の爪を振り下ろす。


「うりゃあ!」


 ガキン! と音がしてベルタの杖が切り飛ばされる。


「ひっ、ひいっ」


 ベルタが尻もちをついて後ずさりする。


「ベルタ、諦めなさい。あなたがこの世界を好きにしようとしても私が絶対許さない。それに……グレインが、私のご主人様は絶対にあなたの野望を打ち砕くから」


 グーにした右手を突き付けるようにして宣言する。頭が痛む。ミャーコの意識と私の意識が混在しているから?


「糞っ! こんなところで諦めてたまるか! こんなに早く使うことになるとは思わなかったけど……」


 そう言うとベルタが懐から何かを取り出して建物の床に押し付けた。真っ赤な球体? まさか……


 慌ててリリィの寝ているベッドに駆け寄ると爪で拘束具を切る。


 毛布をブレスレットから取り出してリリィの体に巻くとそのまま飛びのくようにリリィの体を抱きしめて後ろにジャンプした。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォ


 地面が鳴動して廃屋の屋根がバラバラと落ちてくる。石造りの廃屋の瓦礫はそのうちの一つがぶつかっただけで大怪我をしそうだ。


「ベルタっ!!」


 叫ぶがベルタの体は石くれの中に見えなくなった。


 もうもうと土煙上がる。どうにか屋外まで逃げ切れた私の前に制服のあちこちが細かい切り裂かれあちこちに怪我をしたメルヴィン現れた。怪我をしているけどそれでも竜牙兵をバラバラの骨にして倒していた。


「なにが起こっているんだ?」


 メルヴィンが叫ぶ。地面の鳴動が止まらないから大声だ。


「ダンジョン・コア……」


「は!?」


「ダンジョン・コアをベルタが使った。ダンジョン・マスターになったんじゃないかと思う」


 ダンジョン・コアを持っていたからあの廃屋を一つのダンジョンとみなして魔法禁止エリアを作れたのだと気付く。


 ズガガガガァ


 音がすると目の前に小山ほどもあるストーンゴーレムが屹立きりつしていた。


『あひゃひゃひゃひゃひゃ! お前の猫の爪ではストーンゴーレムを切り裂くことはできまい!』


 さっきまでのベルタの声と違い男の声……ベルタの体からダンジョン・コアに取り込まれた?

 目の前に立ちふさがるゴーレムに無意識に息を飲んでいた。

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