第22話 失踪した男爵令嬢とベアトリーチェ
そのまま土日をグレインの部屋で過ごして日曜日の夕方、学園の寮に戻る。
私の部屋には本当に工事が入ったらしい。
トイレシャワー付き……魔法で空中から水が湧く(?)から給排水の工事が楽なのがスピード施工できる決め手らしい。
日曜の夕方、寮に戻ると玄関を入ったところでアリスティアがすぐに声をかけてきた。
「ミーヤさん、大変なの! なんでか分からないけど私たちの部屋に工事が入ってて……ってそんなことより本当に大変なことが!」
アリスティアが本気で焦っているっぽい。
「ただいま。どうしたの、アリスティアさん? 工事はちょっといろいろあったんだけどそんな焦るようなことじゃないでしょ?」
「本当に大変なの。1年のBクラスの女の子が一人寮からいなくなっちゃったんだって!」
アリスティアに引っ張られてそのまま食堂に連れていかれる。
1年のBクラス? それってもしかして……
私はアリスティアに引っ張られるまま、移動している間に少し情報を聞き出す。
地方の男爵家から学園に来ている令嬢が土曜日に寮の部屋から消えてそのまま戻ってこないそうだ。日曜日の夕方になっても戻ってきていないということで騒ぎになっている。
「私みたいに家に帰っちゃったとかは?」
「そういうことはないみたい。地方の貴族だから王都にはタウンハウス? っていうのがないから戻る場所なんてないんだって。領地に戻るのは二週間以上かかるらしいから入学してすぐに帰るはずがないってクラスメイトが言ってて……」
アリスティアと食堂に入るとそこには……ベアトリーチェを始めとして沢山の生徒で溢れていた。
アリスティアが私の腕を引っ張ってベアトリーチェの前まで連れていく。
「ミーヤ・キャンベルさんだったかしら? はじめまして……わたくしベアトリーチェ・ジェロシアールと申しますの」
「初めまして、ベアトリーチェ様。Bクラスの女子生徒がいなくなったとか?」
「ええ……まだ学園も始まったばかりでいなくなるなんてありえないタイミングで……学園の教師にも報告しましたがミーヤさんがグレイン理事長のお弟子さんとお聞きいたしましたのでお話させていただこうと思いまして」
私はちょっと考え込む。
最初男爵家の令嬢がいなくなったと聞いたときベアトリーチェの取り巻きのアネットかと思ったが違うそうだ。
居なくなったのはリリィ・マイドル男爵令嬢。ちょっと小柄で可愛らしい女の子だったらしい。
ただし、スタイルはとてもいいそうだ。その情報いる?(貧乳のひがみではない)
リリィはゲームでは名前も出てこないしこんな失踪事件はなかったからなぜこんなことになってしまっているのか?
「リリィさんも王都に出てきて寮生活に不慣れだから……一人で外出されて何かあったとか?」
私の言葉に心配しているベアトリーチェの顔も曇る。
お人形さんみたいだよね。肌なんか私の百倍綺麗。美白成分配合状態?
「わたくし、Bクラスのクラス代表ですの。クラスの生徒はわたくしが守るつもりでしたのに……」
責任感が強くて真面目なベアトリーチェらしい……この子、絶対悪役令嬢じゃないよね?
ポジションは悪役令嬢だし、逆ハー作ったり、婚約者がいる攻略対象と恋仲になるアリスティアと敵対するけど結局ユーザーに愛されてベアトリーチェ主人公になるスピンオフゲームができちゃうのもわかっちゃうよね。
「私も調べてみます。もちろんグレイン理事長にも伝えますし、全力で協力させて下さい」
私がそういうとベアトリーチェの後ろから声をかけられた。特徴的な青い髪と瞳、シルヴァ王子だ。
「俺からも頼む。王立学園の生徒に何かあったとはなっては王家としても無視することはできない」
茶髪でハシバミ色の瞳のアルフレッドもいる。
「こっちでも探しているんだが、いかんせん情報がなさすぎて……お前とアルヴィンの魔法にみんな期待しているんだ」
二年生と三年生がすでに捜索してるのに役に立てるかどうか分からないけど……
「分かりました。とにかく日が完全に落ちるまでに何か手掛かりくらいは見つけてみたいと思います」
私がそう答えるとシルヴァ王子が駆け出して食堂を出ていく。
「とにかく男子で街をもう一度聞きこんでくる。ミーヤは女子寮内を調べてみてくれ」
「お待ちください、殿下」
アルフレッドも慌てて追いかける。私はアリスティアと顔を見合わせて頷いた。
失踪事件なんて初めての経験だし、ただの女子高生だった私には荷が勝ちすぎるけど……今の私はグレインの使い魔で弟子なのだ。
まずは現場百遍!
できることから始めよう。
「アリスティア、まずは失踪したリリィさんの部屋に案内してくれる?」
「分かったわ、ミーヤ。こっちよ、ついてきて」
そう言って小走りで寮内に戻っていくアリスティア。お互いに初めての呼び捨てだった。