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第20話 ただいまの挨拶と家事見習い

「しかし、そうは言っても学園に異世界人がいるという根拠となるものは乏しいな」


 グレインに言われるがそれはその通りなのだ。

 いくつかの状況証拠とベアトリーチェがAクラスではなかったというこの世界単体で見れば根拠にもならない根拠しかないのだ。


 そこで私は一計を案じた。アリスティアに頼んで食堂の片隅に調理場から借りてきたジン・トニックを二本置いてもらって。


「あれ? こんなところに二本、ジンがあるんだけど……」と大声で言ってみせた。


 他の生徒にとってはなんで食堂にアルコールが……くらいの話題だろうけど、転生者、もしくは転移者にとっては「こんなところに日本人がいる」と聞こえて反応せずにはいられないだろう。


 結果、「マヌケは見つかったようだな」と私は心の中でつぶやくことになる。


 露骨に反応したのはベアトリーチェの取り巻き、金髪のベルタただ一人だった。驚いた顔で私を見つめるベルタに「なに?」って顔を見せてしらばっくれておいた。


……

………


「……はぁ……一人でいったいどこまで……あくまでも監視係として送り込んだつもりが俺はとんでもなく優秀な使い魔を持ったものだな」


『えっへん! 最強の魔術師の弟子ですから!』

 黒猫姿でドヤ顔? してみせると、めちゃくちゃ頭を撫でて貰って喉の下を撫でてゴロゴロして貰える。幸せ!


「とにかく、これからは俺の方でもベルタ・ノルン子爵令嬢に注意しておくし大浴場の入り口に魔道具持ちこみチェック用のゲートを設けることにする。早めに連絡用の遠隔通話術式を開発しないと……」


 グレインが魔法理論についてブツブツ言いながら部屋の中をぐるぐると回り始める。

 これは考え事をしている時のグレインの癖なので、グレインの腕の中からぴょんと飛び降りると服を咥えてパーティションの向こう側に隠れてからもう一度変身魔法!


 せっかくなので黒髪黒目の美弥呼の姿に戻る。なんというかミーヤの茶髪はいまだに落ち着かない。


 私が着替えている間にグレインは自室から研究室に移動していたのでトコトコと移動して書き物机でいろいろと書類を書いているグレインの後ろに立つ。


 この土日の間に大浴場の盗撮防止や訓練場の改装を行うつもりらしく金曜日の夕方のこの時間から全力で仕事をするつもりらしい。本当に……世界一忙しい理事だと思う。


「ただいまグレイン。いつもありがとう」


 グレインの広い背中にぎゅっと抱きつくようにして感謝の気持ちを伝える。


 グレインは自分の都合で私を王立学院の生徒にしたと思っているが、私としては大好きな『マジ・マリ』の世界を堪能できて楽しんでいるのだ。


 この世界を、グレインやアリスティアやみんなが不幸になるルートなんて絶対に選ばせない。


「おかえり、美弥呼」


 優しく迎え入れられて私は改めて、この大切な人の元に帰ってきたんだと実感できたのだった、のはいいけど……グレインの手元にある書類を見て驚愕する。


 ちょっと待って!? 女子寮の各個室へのシャワールームの取り付けって?


 とりあえず私とアリスティアの部屋に試験運用として取り付ける?

 本当にどれだけ私に過保護なの?


 グレインが仕事? を始めたので、部屋に戻ると料理をしているマリアさんに付きまとうようにして一緒に夕食の準備をする。


 女子高生だった頃はそこまで料理なんてできなかったし、マリアさんがいるから家事をできる必要なんてないかもしれないけどグレインのために何かしてあげたいと思う。


 私が猫の時はグレインはご主人様だけど、私が女の子時のグレインとは新しい関係を築いていいと思うのだ。もっと進んでいきたい。


 意識はしてくれてるって思うんだけどねぇ。


 残念ながらマリアさんは家事専用オートマターであって人にものを教えるなんて器用なことができるようになっていない。


 マリアさんの包丁の扱い方や素材の下ごしらえ方法、火加減などを見て盗むために一緒にキッチンに立って食事の準備をする。


 二体以上のオートマターがいるときに備えているのか、他人が手を出しても強調して料理できるようなので野菜を切ったり皮を剥いたりっていう作業を代わって貰う。


 今日のメニューはハンバーグにポタージュスープと季節の野菜のサラダ。


 あ、ここはゲームの世界だからハンバーグはハンバーグだよ。


 ハンブルグがどうこうとかじゃなくてハンバーグの形をしてるミンチを焼いたものはハンバーグだから!


 グレインは私がいないと研究や魔法薬作りで平気で徹夜しちゃうみたいだから食生活くらいヘルシーで健康的なものを提供したい。


「マリアさんのレパートリーって何種類ぐらいあるんだろう?」


 マリアさんは返事が出来ないから仕方ないんだけど、食事とお風呂、選択の仕方なんかを勝手に師匠扱いして見様見真似で学ばせてもらってる。


(グレインが帰ってきたら、二人きりの時間を作って甘えちゃお。えへへ、何かご褒美があるといいなぁ……)


 猫の時なら頭を撫でて貰って喉の下を撫でて貰うのも好きだけど、ぎゅっと抱きしめてもらうのも好き。


 グレインは私が人間になっちゃうとべったーってくっつくの好きじゃないみたいだけど、私は私のままでもっとべたべたしたいのだ。


(まあ、猫の時に可愛がってもらえるだけでもめちゃくちゃ役得なんだけど)

 そんなことを考えながらグレインを待つ時間も楽しかった。

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