その5(9)
僕の呪いは相変わらず続いていたが僕、テルテ、役人三人が入り乱れながら話し続けた。
「てるてさんよ、あんたはこんなところにいつまでもいていい人じゃないはずですぜ。早くみんなのもとに帰りなさい」
「私はそのてるてさんじゃないよ。そっくりさんではあるけどね」
「無理があるね。それじゃあ別人だという証拠が欲しいところだ」
「ニブイチさん、なんかない?」
「あったらとっくに出しているよ……オーラが違うとかでどうだ」
「この砂とかは関係ないのかな」
「ただの砂と彼女に何の関係があるっていうんだ……」
「俺がそれを聞いている。ニブイチ、お前知っているよな。砂とてるての関連性をさ」
「なんで僕が知っているのさ……」
この辺で彼らも僕の反応が弱々しくことに気づいたらしい。
「どうした、体調悪いのか」
「問答なら横になってもできるからな、座りなよ」
「この通り俺たちは拘束されて逃げられないんだぞ。安心しろよ」
「そうだな、安心だな……」
言われるままに椅子に座った。さらにテーブルに倒れ込んだ。体が少し楽になった。テルテがこちらに来て背中をさすった。側から見ると疲れているように見えるらしい。
「おいおい、寝るなよ、寝たら話にならないぞ」
「ああ……ちゃんと聞いてるよ……」
眠くはなかった。そうだ、眠くはない……眠くはないんだ……。
「起きろって」
鈍いが線が切れる大きい音が同時に響いた。驚いて音のした方を見ると役人Bが自由の身となっていた。
「こんなに緩いとね、ほどくのは簡単だな」
「手応えあったんだけどなあ」
テルテは困った顔を大袈裟に見せてそう言った。なぜかテルテと役人がグルではないかという突拍子のない考えが浮かんだ。
「ほどけなかったらどうするんだよ……」
顔の右半分をテーブルに押し付けながら僕はぼやいた。
「そいつは企業秘密だ」
今度は役人Aが拘束を切った。
「お前ら色々と爪が甘いよな。俺が盗み聞きするチャンスはいくらでもあったぞ」
「盗み聞きって言ったって君、さっきまで寝ていたじゃないか」
「あんなやわな一撃で俺が気絶するわけがない。お前だって気絶したふりをしてたじゃないか。俺がそれを真似してもおかしくはないだろ」
「……縛るとき全く抵抗しなかったのに。それじゃあ何も聞くことはないだろ。とっと帰りな……」
実際にとっと帰ってしまい、後日役人を増やして再訪問されても困るので、鎌をかけただけである。
「そのときはな、気絶したふりじゃなくて本当に寝てた。寝不足なんだよ」
「なんだよ私を捕まえに来たという割には緊張感がないな」
「お前らの遊びに付き合ってやったんだ感謝しろ」
「ほかに目的があるのか。それともそうやって縛られて自らほどく遊びが目的だったのか」
「お前の説明次第では教えてやらんでもない。てるての正体をお前の口からはっきり言ってくれればな」
「そいつが目的だな。言わせなくとも検討はついているんだろ。それでいいじゃないか」
「確証が欲しい」
「なぜ……」
「これを先に言っておけばよかったな。俺たちはお前らの敵ではない」
「敵ではない?仮にテルテを捕まえたら、僕はどうなっていたんだ。そのまま捨て置いていたんじゃないのか……」
「さあな、いずれにせよ結果論だ」
お互いにはぐらかしあって話がまるで進まない。しかし、始めから状況が悪化していた。役人Cにしてもその気になれば紐を破ってしまうだろう。こうなっては僕らが不利だった。だが、彼らは変わらず問答をするつもりでいた。これがよく分からなかった。
僕が新たに言おうとするのをテルテが制して、
「ところで、ネーテは今どこにいるの?」
「あのガキか、知らんな。もう帰ったんじゃないか」
「その可能性は低いかな。屋根にいたけどそういう姿は見なかった」
「見なかった?ってことは今もここにいるのか?」
役人三人が動揺し出した。その反動で役人Cの紐も破れた。
「まさか、あいつが目付け役なのか」
「目付け役って何?」テルテが尋ねた。
「世の中知らない方がいいこともある。知った方がいいこともあるぞ。この村にてるてが訪問しているって噂があることとかな。もちろんあんたのことだよ。お前ら帰るぞ」