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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第二章 名前の代償
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その4(8)

 役人三人を一階の隅に追いやった。上半身の胴と足首を紐で縛った。周りに散らばっていた小道具や剣など彼らの所持品を回収しておいた。これで彼らの意思では逃げ出せまい。彼らには頼んでおきたいことがある。ネーテのことを聞き出すのはもちろん、テルテの追跡をやめてもらうことである。僕はテルテがルタを殺していないということを信じることにした。その一方でネーテがこんな迷惑なことを言い出したのにはやむを得ない理由があるのだと信じたかった。

 ネーテをあれから探したのだが見つからなかった。テルテに、

「君、屋根から見下ろしていただろ。その時にネーテがどの方向へ逃げていくか見なかったか?」

 と確認したが、

「見てないな。ニブイチさんは最後にどこで見たんだい」

「玄関で僕を睨んでいるところまでは覚えているけど、役人と戦ってからは見ていない」

「案外逃げずに潜伏しているかもね」

 役人がまだ目を覚ましそうにないので、潜伏しているという可能性を考えてみることにした。ありえないことではないが、こんな家に何か用でもあるだろうか。

 テルテが機敏に動いた。そしてこっちを向いた。彼女の目は金属光沢的に光った。

「この袋で役人(A)を殴って気絶させたんだっけ」

「そうだよ。中に砂がぎっしり入ってる」

「これは元々一階にあったんだよね。その役人(A)がわざわざ殴るためだけに持って上がったのかな」

「別の目的があるのかな。人造人間を造りたかったとか」

「役人がそんなことを考えてるとは考えにくいから……」

「ほかに協力者がいるか」

「あるいはネーテが魔術士なのか、だね」

「そのことも役人に聞きだせるといいな」

 しばらく家の中を探したがネーテの姿は見当たらなかった。



 結局ネーテが見つからないまま、役人らと話をつけることになった。

 ここで思わぬ攻撃が僕を襲った。それは話を始めようとしたときの役人Aによるものだった。彼はテルテを見て、

「うん……やっぱりそうだ、間違いない」

「やっぱりというのは?」と僕が聞いた。

「そのてるてさんにはね、待ってる人がいるの。君のところでいつまでも居候されては困るんだよ」

「いや、似ていることは認めるがその有名なてるてさんとは別人で」

「そんな冗談がこの顔を見てよく言えるね。こっちはね、本物のてるてさんを一回見たことがあんの。騙されるわけがないじゃないか」

 思わずテルテを見た。役人Aの言葉のせいでてるてにしか見えない……いやそれはそうだ。同じ体、顔つき、声を目指して設計したのだから当然なのだ。内面を見ようとしてはじめてその違いを理解できる。僕はそれをこなしていたはずだった。

 しかし、このときの僕はてるてとして彼女を見ようとする衝動を抑えることができなかった。そうなると僕の体内からある症状が出た。てるてが結婚したと知った時と同じあの症状だった。それは心臓付近で重さを感じるようになって怠さが放射状にわめきだし、普通に呼吸をしているはずが、いつの間にか呼吸困難になる呪いである。精神的に苦しい。今すぐにでも役人たちを追い出して横になりたいという欲求がこみ上げてくるのを感じた。こんなコンディションでは考えは上手くまとまってくれないのは、これまで経験済みである。

 ただし、この症状はかなりの時間を引きずることが多い。ひどいときにはひと眠りしても治まらずにいることだってあった。息苦しいのをこらえて僕は尋問を続けた。テルテは見ないようにした。

「それじゃあなんです、殺人犯を待つ人がいるんですか。あなたの言い方だとそうは思えないが」

「殺人の件についてはよくわからないんだ。でも、てるてさんを一刻も早くここから出すための言い分にはなりうると思ったから利用したのさ」

「何度でも言うが彼女はテルテであって僕の女なんだ。それ以上でもそれ以下でもない。なぜならーー」といって僕は言い淀んだ。魔術のことを話すことは危険を誘致することにほかならない。最悪の場合、僕は誰かの陰謀で人造人間の製造マシンとして一生こき使わされる可能性すらある。知り合いの魔術師の一人は金貨製造マシンとして死ぬまで働かされたのを知っている。言わずに説得するに越したことはない。

「どうした、言い訳が浮かばないのかな」

 役人Bとともに屋根から突き落とされた役人Cから横やりが入った。苦しい今、そういう煽りに耐える余裕はなかった。過呼吸気味で考えがなかなか形にならなくなり、次第に苛立ちまでもが募ってきた。ますます状況が悪くなっていた。


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