その4(40)
リポーターA(以下、A) <前回、ご都合主義的じゃなかったですか。口論じみた何かは突然終わりましたし>
リポーターB(以下、B) <確かにそうです。メルメにしては呆気ないゲームでしたが、どうもメルメじゃないみたいです>
A<では早速見ていきますよ>
「こんな感じですかね。原作ならばね」
突如として空間を構成していた要素が消え去り、あの夕暮れの街に戻っていた。光源の代わりに人が立って、上記の言葉を発した。原作という言葉に、目の前のメルメのような人物が人形ではないかという可能性を思い起こした。ような、というのは顔つきが長く、体格が細いため、メルメ本人とは思えなかったからである。
「君はメルメだよね」
僕は冷静というより、棒読み気味に感情を込めず、尋ねる。相手は隠し味程度に憤りを溶かした口調で、
「めるめ、だね。テルテと同じ人形だ。見た目が原作とかけ離れているから、どうやって身元証明しようか迷った結果、こんなアトラクションを用意することにした。ニブさんに時間を奪い、ストレスを付与してしまったことは反省している。おまけに術を維持できなくて、中途半端に空間は崩れちゃった。ただこの程度でも、メルメに関する存在ということは認めてくれるだろ」
「認めよう。しかし誰が君を造ったというのか」
「あんただよ、ニブさん。少なくとも決め手はあんたの魔術だ。メルメがいなければ造られるはずもなかったというのも、確かではあるが」
「メルメに似た人形を造った覚えはない」
「テルイチのときもそうだったみたいだね。テルイチと違って、水を被せるぐらいじゃ消滅しないけどね」
僕の内側を覗き見たような即答が続き、僕は言葉の引き出しは空洞化した。その情けない風情の僕を見て快感でも覚えたのか、めるめは眉毛を上下させ、追い討ちをかけてきた。
「もっとそんな顔がみたいから言っておくよ。テルテを造ったとき、仕上げに魂を入れて完成したと思ったよね。あんたが"意識的に"魂を入れる前から、砂の人形には魂があった」
そんなことはさっぱり知らない話で、(知っていても僕しか知りようがない話を)聞いた途端にモヤモヤしていた頭が白一色になってしまった。そんな状態で口にできる言葉と言えば、テルテくらいだった。
「そ……そうだテルテだ。テルテとサカはどこにいる。メルメが次にどう出るか」
めるめは間をおいて(人形には不要な)深呼吸をし、
「メルメなら、そろそろ処刑されるんじゃないかな。この街の民衆に晒される形でね。だからテルテとサカの心配はいらないよ」
事の経過がさっぱり分からない。だから心配いらないと言われても、信用しようと思えなかった。
「ついてきてよ。早くしてよ。処刑の現場に着く前に一日が終わっちゃう」
めるめは足踏みを始めた。電車のように加速し、土煙が風を伴って大きくなった。
移動をする間、僕は偵察に出した髪が地面に単なる髪として落ちているのをいくつか発見した。どれもこれも反応なし。頭皮の毛穴に戻ってくる気配はない。頭皮に残った髪を、これ以上行使するまいと誓った。
A<結局、あの空間の意味合いが分かりませんでした>
B<めるめの本質の一端があそこに表れているのかもしれませんよ>
夕焼けが空を赤らめ、街を暖色に染め上げている。
「惜しいな。空はともかく街が暖色なのは夕焼けが原因じゃない。あくまできっかけで、街の住人の意思が暖色を選んだんだ」
どういう比喩か検討もつかないが、自慢げにめるめは言った。先程の空間と同じく、口にしていない言葉が聞こえているらしい。比喩の意味と、このテレパシーについて聞こうとしたが、その前に処刑の現場に着いていた。あの空間の近くにあったようで、到着は早かった。
野次馬が柵の前に密集しており、僕らは遠目で見ることとなった。既にメルメはXの文字に磔にされ、晒し者となっている。そしてメルメの体は魂が抜かれたように、もしくは本当に抜け殻となっているために、重力に掌握されていた。野次馬たちの多くは石を積極的に投げていたが、義務感に苛まれ、仕方なく投げる人も一人二人は見つけられた。
「なぜ、メルメは処刑されるんだ」
「人を、人形を、ゲームの駒として弄んだだろ。今度はあの男が、人々のゲームの駒となる番、というだけのことだ」
めるめはつまらなそうに言った。それ以上の説明はしてくれなかった。
野次馬の中には"犬"がいた。こういう処刑場には怖いもの見たさであったり、日頃の鬱憤を晴らすためであったりして、興味津々で来る人がいるわけだが、この犬に関しては対照的で、無心にメルメの姿を見つめていた。時が止まり、ここに来てから今に至るまで、一度も瞬きしていないのではないかと思われた。
「あれは主人の死を悲しむ姿ではないね」
めるめは楽しげに断言した。
「メルメは生きているんだな」
「ニブさんのアレではくたばらなかったのか。今もどこかに潜んでいるかもね。となると、あの空間でニブさんが考えたように、メルメへ不満を向けさせるべきだ。まずは夕暮れの街から夕暮れ時以外での外出を普及させることから始めて、メルメの望む街から少しずつ乖離させべきだね。そして怒り狂ったところを仕留める感じかな」
「そのつもりだ。場合によってはまたテルテにてるてを演じてもらうかもしれない。形式上はメルメは死んだ。しかし魂として生きているという説明は難しいから、仮想敵を別に用意すべきだな」
「仮想敵としながらも、メルメ対策をするわけだ」
油断すれば、バラバラに肉体を解体してくる魔術士相手にすることになるというのに、めるめからは楽観的な雰囲気を感じた。
……メルメの体は傷つき続けている。
「人形なら、分解される気遣いかないのだろうが、メルメが生きている以上、僕はいつ殺されるかという危険の渦中にいる」
「そうではない。メルメはしばらく魔術を使えないと思うんだ。まずはテルテのいるあの家に戻ろうか」
「さっきのテルテの話、本当なのか」
「魂のことか。知らない。嘘かもしれないし、事実かもしれない」
B<こうしてニブイチ氏とめるめはテルテのいる宿に戻りました。聞いた話によると、ニブイチ氏がその37で闖入した宿のようです>
「テルテ、ただいま」
「おかえり」と返事が返ってきた。「スートは消えたよ。時間切れみたいだね」
「あの……わたしの家を私物化しないでもらえますか……」
宿の女は、迷惑そうな反応を示した。
「サカはどこに」
「上の階で一人遊んでいるよ。それより、ニブイチさんがすると思ったことはやったよ。でもこの女性、反応が弱々しいよ。夕暮れ時以外の外出に消極的なんだ」
テルテは話が早くて助かる。
「そりゃあ、そうですよ……」今にもこの場から消えそうな雰囲気を宿の女は纏っていた。「安全性が損なわれてしまいますからねえ。わたしは気が気でないんだ。住人の誰もそんなことに気づいていなければいいのですが……」
「まあ、時間の問題ですな」めるめはためを作り、「魔術士に街を乗っ取られないためには住人一人一人の強い意思が必要です。そのきっかけとして、街の無意味なしきたりを住人自らの手で突き破らなければならないのです」
「突き破れと言われましても……わたしはその……夕暮れ時のみのドアの開錠に不満は何もないのです……」
話は平行線を予感させ、実際交わることなく夜になった。
A<今回はここまでとします。メルメ対策の行方はどうなってしまうのでしょうか>




