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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第七章 そして街は……
38/55

その2(38)

リポーターA(以下、A) <前回はニブイチ氏が突っ伏したまま寝て終了でしたっけ>


リポーターB(以下、B) <はい。これからどうするんですかね。ニブイチ氏の仮説通り、メルメが街に魔術を施しているのなら、長居するだけ危険ですよ>


A<これからのメルメの行動次第だろうとは思いますが、残虐な行為を躊躇する人間ではありませんものね。街から脱出するどころか、街の住人の家に闖入して寝たというのは悪手にしか思えません>


B<目にした光景が光景だけに、気分がすぐれないのか。それともメルメの仕業なのか>



 起きるとそこが知らない立方体の空間であり、自分一人だけがそこに取り残されたような錯覚が襲い、身も心も萎縮した。テルテがいなければ、心許ない。このまま目を閉じて、そのうちにあらゆる困難が通り過ぎてほしいという叶いもしないことを切願するも、やはり叶うはずもないと諦観した。


 空間の四方に窓があり、物を照らすためではなく、ただ光があるということが目的であるような弱い光が各方向から差し込んでいる。空間を見渡してみても、出入りするような扉はない。窓に手をやるがこれも開きそうにない。


 窓の向こうは見えない。光源が壁となり、どうもこの空間を囲んでいるらしい。

 

 僕はこんなところにどうしているのか。それとも僕がいた場所に、このような空間が作られてしまったのか。


 敵意を潜め、弱みを隠そうと身構えようかと考えるが、同時に何もかも見透かされているような虚しさに直面している。四方から無生物の光源が常に監視しているだけのことが、人に見られているよりも緊張を強いられているのだ。

 

 本当に光源が置いてあるだけのことならば、今すぐにでも窓を突き破り、光源の壁を壊すかよじ登るかしてここから脱出しようとすればいい。それくらいしか現時点で脱出の術が思いつかない。


 それだけに原始的なこの脱出行為を、空間の作り手が想定していないはずはない。作り手の目的によっては、僕にそうした行為をさせることを狙った可能性すらある。いずれにせよ罠の臭いが立ち込めている。


 まるで自分が箱の中の人形のように思われた。物理的に捕まえられることのない精神まで捕まえられたようで苦しい。


 閉じ込められた人形ーーそれも、自発的に動くことのできない文字通りの人形ーーが空間の狭さに対して、苦しみを感じることがあるのだろうか。動くことのできる自由がそもそもないのなら、それほど苦しくないのかもしれない。今の僕のように、動き回れる範囲が理論上世界中だったところから、視界に収まる程度にまで縮小されたからこその苦しみかもしれない。



 空間に紙切れがあることを発見した。拾って目を凝らしてみると『私の造り上げた世界を楽しんでくれ』と煩雑に書いてあった。記入者が誰とは明記されていないが、メルメだろうと推定した。メルメの屋敷を出てそのまま街を出られれば、こんな場所に閉じ込められることもなかっただろう。


 僕は頭の髪の毛数本に命令し、空間の構造とその外を詮索させることにした。その過程でテルテと再開できればそれに越したことはない。最悪なのは、髪の毛を使役することを見越してこの空間が作られていた場合だろう。メルメの目的は判然としないが、本人曰く、


「無闇に人を殺す趣味はない。だが無闇に人を生かす趣味もない」とのことである。


 このとき僕は笑っていなかったはずだ。しかし、窓に二重写しになっている僕は微笑を浮かべていた。


 髪の毛からの連絡が来るまでの間、僕は誰にどこから見られても気後れしないと思った姿勢を探しつつ、街について考えた。魔術が一度途絶えたことで、住人たちは外出の自由を手に入れたことに気づいただろうか。これまで一日に僅かな時間しか外出できないという束縛を受けていたことに不満を抱いただろうか。不満が一体感を生み、力が打倒メルメの方向性を向けば、彼を追い出すことができるかもしれない。


 

A<どこかの家で寝たかと思えば、変な場所に移されていたのですね>


B<メルメがニブイチ氏をいつでも殺せるのに、敢えてこのような処置を取ったとするなら、しばらくはニブイチ氏の命の心配はいらないでしょう。今回はここまでです>

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