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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第七章 そして街は……
37/55

その1(37)

リポーターA(以下、A) <前回でメルメを打ち負かしたってことでいいですか>


リポーターB(以下、B) <だと思いますね。テルテから落ちるはずのない髪が落ちたというのは……>


A<ええ、ニブイチ氏の髪を借りたのでしょう。この演出のために、他の用途で髪の毛を使えなかったのだと思われます。

 では、ニブイチ氏の独白から再開します>


 屋敷内の現地に着き、部屋を見渡す。聞かされた通り、苦しんでいるメルメに、気絶したサカとそれを見下ろす人形ルタ。そして人形ネーテが「テルテはルタを殺した」と言いながらテルテにすり寄っている。足元に目をやると、多量の髪の毛が散らばっている。

 僕は指笛を鳴らし、髪の毛たちを整列させた。持ち合わせていたタオルを床に置き、毛たちに体を拭くように求めた。その後、毛たちは僕の足から頭へ向かってよじ登った。


「結局力技は使った?」

 そうテルテに尋ねると、


「メルメの鼻をハンカチで押さえて、腹パンする奥の手のことか。それには及ばなかったね」


「僕以外にも通用するんだな。てるてとテルテの違いは、メルメにとっても最重要事項だったわけだ」


B<ニブイチ氏も同様の発作を第二章で起こしていましたが、あれを利用した作戦だったようです>


 髪の毛の大半は僕の頭部に到着し、それぞれ元いた毛穴へと戻っていった。

 ここで少し問題が起こる。ある髪の毛が、


「あのー、俺の毛穴に脇毛がいるんですけど」


 と苦言を呈した。忘れていた。ワキガというあだ名をつけたあの毛が、毛穴を占領したままだったのだ。ワキガは強気だった。


「何だよ。脇毛が頭皮の毛穴を使っちゃいかんのか」


「俺の毛穴なんです」


「生意気な。お前の代わりならいくらでもいるだろう」


「いや、困るんですよ、俺は」


 僕としてもワキガが占領したままなのは困る。せめて脇の毛穴に戻ってほしい。しかしワキガが一向に譲らず、一つの毛穴をこの髪の毛とワキガで共有することでこの場をやり過ごした。


 頭を掻こうと右腕を持ち上げ、爪を立てた。何の意味も介在しない、癖か無意識かに違いない動作は、久々に満足のいく感触を生んだ。ただそれだけのことだったが、込み上げる充足感が頬を伝播し、顔を綻ばせた。


「いやニヤけている場合でもないだろうに」


 テルテは冷静に告げる。


「まだ夜は続くけど、どこで休む?ここで夜を過ごすのはメルメの魔術の全貌が分からない以上、避けたい。でも街の性質上、夕暮れ時にならないと、どの扉も開かないじゃないか。外で野宿でもいいけど、またグロテスクな怪人に襲撃される心配がある」


「そこなんだが、今なら出入りできるか確認しないか。メルメの魔術と街の性質が関連しているなら、影響力の弱い今なら僕の魔術でもどうにかなるかもしれない。とりあえずみんなでここを出よう」


 気絶しているサカをテルテが担ぎ、まずは詩人を探そうということになると、


「詩人なら上の階にいる」


 メルメが声を絞るようにして言った。


「わざわざ親切にありがとう」


「お互い様だよ」


 僕とテルテで上の階を探す。人の姿はない。犬という変質者がどこかに潜んでいるかもしれないと僕は身構えるが、辺りは無人であることを告げようと、静寂を主張した。


 三つに分かれていた部屋を何度も探したが、やはりいないので、嫌な予感が全身を震わせ始めた。


「腹を決めた方がいい」


 テルテに促され、僕は息を止めた。詩人の全身が収まるはずのないタンスに手をかける。腕を引くとそこから彼の羽根つき帽子が現れた。それを取ると今度は敷き詰められた肉体が映し出された。組み立てる前のプラモデルのパーツのようにバラバラにされていた。止めていた息は無理に吐き出される。血は全く出ていないとはいえ、サカが眠っていて、目にする気づかいがないのはせめてもの幸いだろうか。


 反射的に僕はタンスからパーツを取り出し、元の形になるように並べ替えようとした。テルテはしばらく茫然としていたが、スートに体の主導権が変わって、


「やめましょうよ。魔術の供給が止まったので、どのパーツも空っぽです。私ももうじき……」


「僕の方から魂を打ち込めば」


「そうして起き上がるのは詩人ではなく、詩人に似た人形です」


 体が無邪気に震えている。僕の作戦のために詩人は犠牲になったのだ。他でもない僕の責任である。今すべきは何だ。テルテを見るとサカが背負われている。サカに触れるとその鼓動が鳴っている。


「無闇に人を殺す趣味はない。だが無闇に人を生かす趣味もない」


 メルメが弱々しく笑みを浮かべて言った。部屋の前で立っていた。僕はメルメを突き飛ばし、テルテと共に屋敷を後にした。


 力任せな足取りで適当な家の前に立ち、ドアノブを握ると、簡単に開いた。突然のことに家の人は驚いていたようだが、僕は何ら説明せずに場所を見つけて倒れ込んだ。テルテが代わりに何かを言っているのを耳にしながら、闇の中に溶けていった。



A<いくらなんでも不用心すぎませんか。メルメに狙われる気がするのですが>


B<それ以前に宿を借りる態度がね。今回はここまでです>


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