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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第六章 見えない中で
36/55

その7(36)

リポーターA(以下、A) <前回から引き続き、テルテとメルメの言い合いが続きます>


リポーターB(以下、B)<前回は書くべきことと書かないこととが混合してしまい、わかりにくくなってしまいました。ニブイチ氏もそこは反省しており、大きめの改稿をするかもしれません>



< <テルテからの通信・続き> >


テルテ『どうしてもダメですか。別の宿を探します……。私は生きなければならないので』


メルメ『芝居はもうたくさんだ。ニブイチはどこにいる』


テルテ『……』


メルメ『そうやって自分を被害者に仕立て上げ、罪悪感を植え付けようって魂胆だろ。悪いが子供じゃないんだよ。人形を人扱いするつもりはない。逆に人ですら人形扱いしてしまう性分でね』


テルテ『そういうあなただって人形じゃないですか。私を見てもいないのに、贋物だと脊髄反射で決めつける人形だ。自分だけ例外だなんて気のいい話はありません。みんな誰かの"人形"ですよ』


メルメ『私が誰かの人形か……。てるてさんならそう返すかもしれないな』


 ここで一旦メルメの言葉が途切れた。そして次にメルメが口を開くまで、テルテの発言に対して無言を貫いた。


メルメ『あなたは今どこにいる』


テルテ『どこかの屋敷のドアの前です』


メルメ『今から使用人にドアを開けさせる。この街の性質上、夜の開錠は原則御法度だから、開錠している屋敷を見つけて入ればいい。話はその後だ』


テルテ『ご厚意ありがとうございます』


 ようやく交渉が終わり、テルテが堂々と屋敷に入れる下地ができた。ようやくてるてと勘違いしてくれたらしい。おそらく人形である使用人に案内されてテルテはメルメのいる部屋に入った(と思われる)。


メルメ『まったく、乗せられた気分だよ。だが乗せられて新しい人形の可能性を見出せるのなら、それも悪くないと思った。ということで、あなたは原作のふりをし続けて私と口論なさい。結論によってはゲストの二人(サカ、詩人)をお渡ししましょう。しかし、あなたが原作としての振る舞いを失った時点で追い出す。他人の手垢がびっしりついた人形のお世話なんてごめんだ』


メルメ『警戒しているのか知らないが、もう少し近くに来い。滑舌が悪いから、聞き取りにくいだろうに』


テルテ『いいえ、ここで十分聞こえています』


メルメ『そうか。それなら結構。さすがてるてといったところかな』


メルメ『私としてはだね、この気絶しているサカにだね、こっちの人形と友人になってもらいたいんだよ。それさえ見られれば、サカは用済みさ』


人形ネーテ『テルテが……ルタを……殺した……』


メルメ『気が変わった。先にこっちの始末を検討してもらおう。まずは前の姿に戻してと(何かを掴む音)。"あなた"は知らないだろうからこの人形について説明させてもらう。こいつはネーテという人を模した人形だ。ネーテという少年は兄弟のルタを殺されたことを怨んでいる』


テルテ『それが私ですか』


メルメ『いいや、ひらがなのあなたではなく、カタカナのテルテの方だ』


テルテ『そちらがネーテの姿ですか。先程のグロテスクなのは一体』


メルメ『どうだっていいことです。このネーテと言う人形をあなたなりに解釈し、私に説明してくれ』


人形ネーテ『テルテがルタを殺した。……お前だな、人殺し。テルテなんだろ』


テルテ『そのテルテとは別人です』


メルメ『まさかと思うが、ネーテが哀れな被害者であり、復讐の鬼なんて方向の解釈で終わったりしないでね。終わるようなら、口論も終わりだよ』


 いくらテルテがてるてを演じているとはいえ、ここまでてるてとして扱われると違和感が湧き上がってくる。文字に起こせばある程度明解になるが、僕は読んでいるのではなく聞いているのだからそうもいかない。

 そしてテルテがルタ、ネーテに対して不機嫌だったあのときを思い出した。あのときのように暴力的になれば、もはやメルメを欺くことはできないだろう。


 ……テルテは僕に醜態を見せることを避けてきた。こうして通信を聞いているだけでも、醜態に対する意識が働いて彼女を苦しめているのではないか。だとしたら作戦成功のために僕はこの通信毛から離脱することが最善なのか。


テルテ『それには及びません』


 先程までの発言が肩を軽く叩くようだとするなら、この返事からは頬をビンタされたような衝撃を受けた。


テルテ『この人形を、あなたのいうような、復讐を願い生きる者とみなせなくはありません。しかしそれは一つの可能性であって全てではない。誰もが復讐の意志を貫徹できるわけではない。むしろ貫徹できる人は少数だと思います。多くの場合があるとするなら、時間の風化によって復讐心は薄れ、心は現在に向かうこともあるでしょう。あるいは、殺された人との形式的な間柄によって復讐しようとするように外部から見えるだけで、実はそれほどでもない人もありえます。

 さて、この人形の場合はどうでしょう。加害者に対する怨念を、念仏のように唱える姿勢は、執念を燃やしているように見えます。ですが、同時に執念という服を無理をして着込んでいるようにも見えるのです。何せ同じ言葉を淡々と繰り返すばかりなのですから。

 衣装は自己表現の手段の一つであり、アイデンティティにも通ずると思います。つまりこの人形にとって、加害者への怨念を唱えることが、自身の存在意義そのものとなっている。手段の目的化の流れを感じます。

 ですから手違いで復讐が果たされてしまったら、この人形はナンセンスとならざるを得ないと思います。復讐の的がいてこそこの人形は生きられるのです。憎い相手がいることが、かえって道なき道に方向性を与えることもある。そうでしょう、ネーテ。私は仇にして、ある意味では命の恩人ということになるわけです。

 そしてその観点では、テルテという加害者は被害者ネーテのために生きなければならない』


 しばしの沈黙。僅かな音は漏れている。誰かが動いているに違いない。



人形ネーテ『テルテがルタを殺した……』


 何かがテルテにぶつかる音がした。





メルメ『人形め、そんな言葉を連ねながら仇にすり寄って懐くとはな。馬鹿げているよ。もはや人形という言葉すら剥奪せねばなるまい』


テルテ『仇なのはカタカナの方でしょう。私はひらがなですよね』


メルメ『調子がいいようだな。足元をすくってやるよ』


 ここでようやくメルメがテルテに向かって分解の魔術を行使したと思われる。テルテは砂という一要素でできた人造人間だから、人のように細かく分解されはしない。その事実を指摘して、いちゃもんでもつけて追い出そうと考えたに違いない。

 しかしこれは想定通りだ。


A<他は悉く裏目に出ていましたね。結果オーライでここまで来ましたけど>


メルメ『髪が、抜け落ちている……。あり得ない。この類の人形の髪の毛は、本体から分離しようがないはず……いや待て、複数の要素で構成されていればこれくらいあり得ることだ。小細工をしてもお前が人形なのには変わりない。出ていけ!汗もかけない人間もどきが!』


テルテ『汗ならもう、かいていますよ』


 すっかり忘れていたが、テルテとスートは体を共有しているのだった。だから、スートが体を操縦すれば可能な話なのだろう。





メルメ『余程私にこの人形を原作と言わせたいようだな……。絶対に言うものか……絶対にな……』


 倒れる音がして、地面から荒い息が噴き出すのを耳にした。僕はその音の正体をテルテに確認し、屋敷内へと向かった。



B<今回はここまでです。次にニブイチ氏らを待ち受けているのは何でしょうか>


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