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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第六章 見えない中で
35/55

その6(35)

リポーターA(以下、A)<「外堀が埋まってから」、「髪の毛は裏切らない」、「距離感を保て」という言葉をニブイチ氏は繰り返し口にしていたようですが、今回はそれが明らかになりますかね>


リポーターB(以下、B)<以下はニブイチ氏と各キャラクターとの通信になっています>



<詩人との通信>


詩人『悪い。これ以上は動けそうにない。何体かは蹴散らしてやったが、肝心の犬は見当たらなかった』


僕 (ニブイチ)「どういう場所にいるのか知りたい。メルメのいる部屋から遠いのか近いのか」


詩人『頑張れば、俺の声がメルメに聞こえるだろう』


僕「それじゃあ喚いて一分程度メルメの気を引いてくれないか」


詩人『一分も気を引けるかよ。いつ喉が奪われるか知れたもんじゃない』


僕「詩を詠え。内容はてるてにまつわるものにするんだ」


詩人『詩人だからか。でもなぜテルテなんだ。あいつにテルテの話でもしたのか。奴の武勇伝は贋てるてを撃破したことしか知らない』


僕「違う。原作のひらがなの方のてるてだよ。メルメは原作愛が強いんだ」


詩人『なるほどな。そこらへんを逆撫でしてやればいいわけだ。だがな、即興で作るから期待はするなよ』


B<そうしてできた詩が以下のようです>


「らしさ」ってなんでしょう

周りが決めるものですか

人が好む振る舞いが「らしい」のですか


変わろうとすれば 人格否定

嫌いな自分なら 黄色い声


自分の体を叩いてみると

有体離脱の音がする


ある花は美しく咲き誇る

でも美しいと

人に言われるためではありません

ひとえに生きるためなのです

人は余計なのです


……私は花ではありません

人に生かされ殺される

嫌いな枠に自分をはめる


変わろうとすれば 人格否定

嫌いな自分なら 黄色い声


誰もが汚れを持っている

タブーは私のキーワード

枠があるなら壊したい

服が私に合わせなさい


変わろうとすれば 人格否定

嫌いな自分なら 黄色い声


B<この詩は見事にメルメの導火線に引火させ、怒りの炎を上げました。ニブイチ氏は別の通信のため聞いていません。なんとなくですが、ニブイチ氏がこの詩を聴いていたら、作戦を変えたような気がします>



<尻毛1らとの通信>


僕「詩人が時間を稼いでいる。そろそろだぞ。モップからは抜け出せたか」


尻毛1『骨が折れましたよ。もっとも一本の毛に過ぎない自分たちに骨なんかありませんがね』


僕「そのモップというのは臭いのかな」


陰毛3『まあ、犬の口ほどではないですけど、埃などが集まってそれなりに臭いです』


僕「その臭いを全身に塗りたくってくれ。そしてメルメの鼻に突撃だ」


尻毛1、陰毛3『『嫌です』』


僕「これが肝心なんだって。メルメを悪い気分にさせておくことで、ようやく外堀が埋まるんだよ」


尻毛1『そういう汚れ仕事は、裏切らない髪の毛にでもさせておけばいいのでは?』


僕「……」


陰毛3『あとで頭皮に付け直すから、髪の毛に汚れ仕事はさせられないとでも?』


僕「いや、汚れ仕事にまわせるほど数はないんだ……」


尻毛1『だからってしませんからね。もし強要するのなら裏切りますよ』


陰毛3『上に同じ』


僕「脇毛1はどうなんだよ。黙ってないで返事してくれ」


尻毛1『彼なら堂々と裏切ったじゃないですか。もういませんよ』


僕「こうなったら逆だ。君たちにはいい匂いを纏いなさい」


尻毛1『いい匂いの基準がわかりません』


僕「聖人をイメージさせる神聖な匂いだ」


尻毛1『余計にわかりません。聖人ってどんな匂いがするんですか』


僕「いや、そういうリアルに拘る必要はない。肝心なのは神聖な感じだと思い込ませることなんだ」


陰毛3『それって、その人自身の経験と感覚に依存しませんか。悲しい曲は悲しさを想起させるが、始めはそうではなく、悲しい場面でその曲調を聞いた経験から悲しさを想起するようになる、という感じにです』


僕「だとすると神聖なイメージ……神の匂い……」


尻毛1『原作てるての匂いが一番でしょうね』


僕「そんなに詳しくない。……こうなったら本能的にいいと感じる匂いだな」


陰毛3『食欲をそそるような?』


僕「その方面で行こう。食べ物が近くにあるなら手っ取り早いが」


尻毛1『そんな都合よくあるわけがないでしょう』


陰毛3『それにまずはこの臭いを取らないといけないでしょう』


僕「そうか、時間がかかりそうだな……」


A<ここから時間がしばらく空きます>


尻毛1『とりあえず、パンの匂いを付けました。これで鼻の穴に突撃します』


僕「メルメの反応が知りたいな」


陰毛3『無茶ですよ、聞かれたら一巻の終わりです』


僕「いや、ここはニブイチの仇!とでもメルメにバレるように突撃だ。メルメも滑稽な毛だとみなすだろうよ」


尻毛1『でもそれじゃあ、鼻詰まりはできないですよ』


僕「わかってる。代わりにパンの匂いを擦り付けるんだ。それでいい気分になってくれればこっちのもんだ」


A<パンの匂いでいい気分になるのか怪しいところですが、ここまでは作戦成功します>


B<堂々と突撃するなら詩人の詩は必要なかったような……>


A<気を引かないと鼻の中に入ることすらできないので、必要でしたよ。そしてテルテさんが動き出すのです>



< <テルテからの通信> >

 

A<彼女との意思疎通に言葉はほぼ不要である。だからこの通信は基本的にテルテとメルメのやり取りになる、とのことです>


B<地の文で心中を吐露していますね>


 敵が来れば僕一人に抵抗の余地はない。そんな危険な状態で長らく夜を過ごしている。テルテは屋敷のドアの前に立った。僕と同じく、左薬指に連絡毛を結わせている。尻毛1たちの報告が正しければ、メルメにもそれを仕込めたはずである。

 これでテルテとメルメで通信できるようになった。てるてという一言で全てを納得してくれるだろうから、理屈は考えていない。しかしメルメがなぜ外の人間の声が聞こえるのかということに関心を向けないように、最低限言葉は選ばなければならない。


テルテ『夜分遅くにすみません。てるてと申します。よろしければ一晩宿泊させて貰えないでしょうか』


メルメ『三文芝居じゃないか。もっとマシな演出を考えなよ、贋作のテルテさんよ』


テルテ『贋作というのはどういうことでしょう。私に身に覚えはありません』


メルメ『分かりきったことを何度も言わせるなよ。そこにニブイチがいるんだろ。どうなんだ!』


テルテ『そのニブイチという人がどなたなのかは存知ません。私は一人旅の道中です。ただ一晩泊めてもらいたいのです』


メルメ『そりゃそうだ。中へ入りさえすれば、贋作自慢の怪力で私を捻りつぶすことができる。ものは言いようだな』


A<全然納得してないじゃないですか!それに「距離感を保て」だけは何のことかはっきりしませんでした>


B<次回にお預けですね>

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