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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第六章 見えない中で
33/55

その4(33)

リポーターA(以下、A)<前回は語り手のニブイチ氏が気絶し、語り不能となりました。それが屋敷の外の話で、入手した音源によると、屋敷内では魔術士メルメが人形を使ってサカくんをいたぶっていました>


リポーターB (以下、B) <そろそろR-15のタグをつけた方がいいんじゃないですか>


A<それを最終的に決めるのはニブイチ氏です。提案はしますけど却下されそうだ>


B<あの人変に拘りがありますからね。拘りと言えばメルメも恐ろしい。幼いサカをいたぶっている人形はよりにもよってサカの友人エブを模しているんです>


A<旅の仲間だった詩人が同席しているのにただ黙っているんですよね。もう仲間じゃないのかな>


B<とにかく音源の続きを聞いてみることにしましょう。殴る音がbgmのように鳴り響いています……>



詩人『おい、サカの心を折りたいようだが、そのまま痛めつけてばかりじゃサカの体の方が先に折れるぞ』


メルメ『まあ、それはそれで一興かな。死んだらサカそのままの人形を造って、再試行すればいいだけのことだし』


詩人『正気の沙汰とは思えんな』


メルメ『ゲームをしているだけさ。何度でもやり直してサカのいろんな反応をたくさん見たい気持ち、分かるだろ?特に普通ならしないような表情とかそそるよなあ。人形をおれの友人と言い張る滑稽なサカの姿とかさあ』


詩人『ゲームと現実を混合しているから、正気じゃないと言っている』


メルメ『そうかな?混合も何も人生の内部にゲームがあるわけだし、正気とかどうかは関係ないでしょ。ゲームで定められたルール内でいくら非道なことをしても、それはゲームだからという理由で誰も咎めないでしょう。下手に咎めればゲームは成立しなくなるからね』


詩人『そうか、それならゲームの範囲とルールを教えてもらいたいものだな。対戦相手がいても構わないだろう?』


メルメ『残念ながらそれはできない。君たちは将棋で言う駒だからだ。駒はルール通りに動かされるが、ルールを知っているわけではない。知る必要もないな』


詩人『そうか。駒のいくつかはお前に口ごたえをしたが、それはいいのか?』


メルメ『このゲームが終わるまでは姿を現すつもりはなかったが、予定が変わったんだ。だから口ごたえはオーケーにした。例えば外に私の造ったスートという人形がいるが、お前は誰かに使われるのが適任であって仕えることは向いていないだろうって言ってやったし、実際その通りに使った。あいつはニブイチに仕えているつもりでいたが、まさかその自分がニブイチを殺す側に回るとは夢にも思わなかっただろう』


詩人『ああ、ニブイチの汗から造ったあれか。可哀想なことをしたんだな』


メルメ『お前とは話していて楽しくないな。犬、連れて行け』


犬『了解だゼ』


人形ネーテ『テルテがルタを殺した。テルテがルタを殺した。テルテがルタを殺した。テルテがルタを殺した……』


メルメ『こいつダメだな。ネーテらしさを履き違えてやがる。あれに変えとくか』


 金属刃と刃のぶつかり合うような音が響く。


サカ『ああ……ネーテが化け物になった……』


メルメ『気絶しちゃったか。つまらんなあ』



A<ここまでのようです。早速詩人が登場して驚きました。それよりもサカはどうなってしまうのでしょう>


B<それもそうですが、ここに来て語り手が語る力を取り戻したようです>


A<そうですか。ならばここはニブイチ氏に任せましょう>



 目を覚ました。僕は仰向けに倒れていた。痒かったからか、左手の爪が右手の甲を掻いていた。

 テルテが目の前に立ち、こちらに背を向けていた。テルテの向こうにはグロテスクな黒装束の何かが身体を震わせていた。お互いが動かないように二体は睨みあっているように見えた。


 そうだ、僕はテルテに引きずられてスートの体内から露わになったグロテスクから逃げていたのだった。今の状況から考えるに、既に追いかけっこは終わりを告げ、次の段階に突入したようである。

 今テルテに話しかけていいのだろうか。何が身を守るために最善手なのだろう。頭を掻こうと右腕を持ち上げた。その先の爪でポリポリ擦るはずだった。何の意味も介在しない、癖か無意識かに違いない動作は今度も果たされなかった。右手はついていたが、掻きむしる対象に毛はなく、皮膚だけだったのだ。想定外の痛みを頭に与えてしまい、慰めるようにして右手の平で頭を撫でた。あまり嬉しくない事実を悟った。


A<要するにハゲていたってことですね>


思わず、

へっ

 という声を漏らした。そこまで大きくはなかったはずだが、テルテが気づくには十分だったようだ。振り向きはしなかったが、

「おはよう。スートは矛盾に耐えられなくて苦しんでいるみたいなんだ。彼女を止めるために素の正体を教えておく。……君のあ」

「待て待て待て!」僕の声でテルテの声をかき消した。「まだ現状を把握しきれてないんだ。どうしてスートの正体を知る必要がある。彼女はもう別人になって」

「すっかり変わったわけではないんだよ。昆虫の胴体が頭から切り離されても、しばらくは一人でに動く程度かもしれないが、スートはまだ生きている」

「スートは何か言ってるのか」

「何も」

「せめて最後に話しておきたい」

「スートは君の汗からできたですよ」


 突然テルテから告げられた事実は、グロテスクとなった人形一体を蒸発させ、この場から退場させた。やり場のなさに僕はテルテに苦言しようとしたが、テルテは振り向いて透過性のある瞳で僕を照らし、

「あるじ様は甘いです。もっと野獣にならないといけません」

 そんなスートのような言葉を続けた。

「テルテさんの体を貸りて話しています。わたくしのことよりも、今はサカと詩人の方ために行動しましょうよ」

 スートは混乱気味な僕を気にせず、

「髪の毛は裏切らない。他の毛はともかく、メルメならそうします。実際わたくしがついさっきまでテルテさんと睨み合うだけでとどまったのは、あるじ様の髪の毛がわたくしの複眼に突き刺さって動きを止めていたからですもの……え?分かりました」

 独り言を始めたかと思うと、瞳の色を煌びやかに変えて、

「ニブイチさん、私もここにいるから。ちゃんと話し合おうよ」

 とテルテの体でテルテが僕に呼びかけた。そうしてようやく僕は今すべきことを考え始められたのだった。

 

A<スートが変貌したとき、その顔をニブイチ氏はスズメバチのようだと喩えていました。複眼だとすると喩えというよりはそのものだったのでしょうか。今回はここまでになります>

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