その3(32)
リポーターA(以下、A)<前回はサカがモップを投げたことで生じたであろう音まで紹介しました。今回はニブイチ氏がその音で、何が起こったのかと耳を傾けるところから始まります>
リポーターB(以下、B)<流石のニブイチ氏もこの音は聞き流せなかったようですね>
僕 (ニブイチ)「何があったの?」
尻毛1『サカが突き飛ばされました』
陰毛3『ネーテの姿をした人形の仕業です』
A<あれ?そんな音でしったけ?私が間違えただけでしょうか>
B<尻毛1と陰毛3は裏切らないと断言したので、嘘は言ってないと思いますが……>
僕「サカがいたぶられているのか?」
尻毛1『まあ、そうなりますね』
僕「詩人は何をしてるのさ」
尻毛1『何もしていません。腕を組んで壁にもたれかかっています』
僕「そのネーテ似の人形は止められそう?」
尻毛1『無理ですよ。鼻をむずむずさせるとか嫌がらせならできますが、人形相手なので効果は未知数です』
陰毛3『そもそも私らは捕まっているのだから、動くことすらままならないでしょう』
尻毛1『人に比べれば小さな体だから、脱走くらいお手のものでしょ』
僕「詩人に話をつけることはできないか」
尻毛1『それこそ無理でしょう。メルメがこちらに人間か人形か問われた時に、私ら体毛はどちらかと言えば人形と答えたのですが、まるで聞こえていませんでした』
僕「そこにメルメがいるのか!?夜でも屋内に入る手段があるじゃないか」
僕は暴力的な衝動が体を震わせたのを感じた。
A<無駄に指をポキポキ鳴らしたんだろうなあ。あの人のことだから>
その勢いに任せる形でテルテに、
「屋敷に入れそうな場所がないか探ってくれ。もしかしたら毛じゃなくても入れるかもしれない」
と頼んだ。するとテルテは、
「ニブイチさんも一緒に来てくれ。何も四六時中連絡し合うことはないでしょ」
と返して僕の手を握った。その一連の動作は単に淋しがっているようでもあり、何か外敵に警戒しているようにも取れた。どちらにせよ、断る必要もないので僕はテルテに引っ張られるがままに歩いた。
後ろから忙しない足音が鳴っていた。振り向くと、後ろからスートが微笑のまま追いかけてきていた。暗い視界でぼんやりとしか見えないから厳密には違うかもしれない。僕の視覚は主張が強く、ぼんやりとしか見えない部分は都合のいい記憶で補ってしまう。こういう補完は誤解や齟齬を発生させかねない。今のような事実のピースが一つでも多くほしい状況に、間違った埋め方は避けたかった。
だからテルテの前進に逆らうようにして、スートとの距離を縮めた。結果徹底してよかったという思いと、しなければよかったという後悔が矛盾なく共存することとなった。よかったと思うのはスートが微笑を浮かべていなかったからで、後悔したのも微笑を浮かべてなかったからである。破れた笑みとでも言おうか、とにかくグロテスクで見ていられない光景がそこにあったのだ。
テルテをそれを見たのだろう、僕の足取りを無視して全速力で走り出した。突然強く引っ張られて僕はバランスを崩し、引きずられるがままになった。地面と尻が摩擦を奏で、絶え間ない痛みが僕を感傷的にさせた。
そんな痛みも、恐怖の前では影を潜めるものなのか、グロテスクがこちらとの距離を一歩ずつ詰めてきていることにまもなく僕は釘付けになった。目をつぶればある程度恐怖から解放されるに違いないが、そんなことを思いつく余裕はなかったし、思いついても目を閉じれそうになかった。
グロテスクはさらに間合いを詰め、その具体的な外見が、刃物で肌を刻むように僕の目を痛めつけた。スートの顔面を破るようにして現れた顔はスズメバチの顔そのものだった。服装は白と水色の服装が食いちぎられ、内から黒装束が、触覚のような長いひげをいくつも垂らしながら露わになっていた。
あれはスートだろうか。スートならば確か素の姿を突きつければ人型を保っていられなくなる。だが既にスートでないのなら、考えるだけ時間の無駄だ。引きずられている身なので、祈るくらいしかまともな行動がない。
刃と刃のぶつかり合う音がグロテスクの顎から聞こえてくる。僕は一心不乱に祈りながら、意識を飛ばした。
A<大丈夫なんですかね。この後がすごい気になるんですが>
B<よりによって語り手が語れなくなりましたから、困りました。話半分で先の音源の続きを聞きますか>
A<屋敷内の方ですか。あれ本当に体毛が録音したのですかね>
B<もしかしたら、ニブイチ氏がグロテスクと言った存在に言及しているかもしれませんので、聞いてみましょう>
メルメ『サカよ、ここに人形が二体ある。一つはネーテ、一つはルタを模した人形だよ。思う存分遊ぶがいい。お前の心の中で生きている二人よりもよっぽど本物に忠実だよ。というか、本物よりも純粋だな』
サカ『あんなのエブ(ルタ)じゃない』
メルメ『エブだよ。それもエブ以上にエブだよ。お前だって、エブは友人というより、自分の中で友人と言えばエブという記号だったんだろ。こいつはちゃんと友人の条件を満たしているよ。なあエブ、サカと遊んでやれ』
人形エブ『サカくん、ボール遊びでもどう?』
サカ『馴れ馴れしく呼ぶな』
メルメ『もしね、お前が本心からこの人形をエブとネーテとして受け入れたのなら、外のニブイチは命は助けよう』
サカ『何の話だ?よ』
メルメ『放っておいたら、ニブイチ死ぬよ。外は危険がいっぱいなんだ』
サカ『テルテも死ぬか』
メルメ『それはわからん。てるてには詳しいがテルテには疎いんだ』
サカ『テルテが死ぬなら、それでもいいよ。エブの仇だし』
メルメ『それだと面白くないんだなあ。おいエブ、サカを殴れ。……そんな一方的になるのかあ』
人形ネーテ『テルテがルタを殺した』
メルメ『要件を変えよう。この人形たちを友達として認めるなら、暴力をやめさせようじゃないか』
サカの嗚咽が鳴り響く。人形エブからくしゃみ?
A<これ、逆効果じゃないですかね。余計にサカは友達と認めない気がするのですが>
B<始めはメルメはニブイチ氏を引き合いにしましたがダメでしたね。条件がサカを揺さぶるには弱いんでしょうね。もっといい条件をださないとサカが死んでしまいますよ>
A<詩人は何をしているのでしょう。彼は置物じゃないのだからそろそろ動いてほしいのですが。今回はここまでですかね。次回こそ詩人に活躍してほしいです>




