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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第六章 見えない中で
31/55

その2(31)

リポーターA(以下、A)<今回からニブイチ氏の補足を担当させていただきます、リポーターAです>


リポーターB(以下、B)<同じくリポーターBです>


A<ニブイチ氏の恐るべき遅筆のせいで、これまで読んでくださった方も設定をすっかり忘れてしまっていることでしょう。前回から本格的に屋敷への侵入パートとなっていました。状況としてはニブイチ氏の体毛を駆使して屋敷内に閉じ込められた仲間二人(詩人、サカ)を救出しようという、非常にわかりにくい状況となっています>


B<普通は人間が潜入するところを、自我を持った毛が毛穴から飛び出して潜入していますからね。これは魔術士メルメかニブイチ氏かどちらかの魔術によるものだそうです。どちらかはっきりとは氏もわかっていないのだそう>


A<ニブイチ氏は屋敷の外で体毛たちを指揮しています。彼はテルテという人造人間を造りました。

 対するメルメはニブイチ氏の右手やズボンに自我を持たせて氏に嫌がらせを繰り返していました。あとスートも造っていましたね>


B<テルテもスートもニブイチ氏と一緒に屋敷の外でしたね。そういえば、スートってニブイチ氏の何が素になっているかって説明されてました?>


A<それは言わないお約束でしょう。ニブイチ氏がそれを知ればスートは瓦解してしまうのだから>


B<失礼しました。スートはメルメに造られたけれど、今の所はなぜかニブイチ氏に従順なのでした>


A<……それでは直前のシーンに移りましょう。おや、犬に尻毛1たちが咥えられていますね>


B<体毛にも嗅覚があるのか、犬の口臭に悶えているようです>


A<以下はニブイチ氏と尻毛1らのやりとりになります>



尻毛1『う、動けない。それに臭い』


陰毛3『犬に飲み込まれる日が来るとは思わなかったなあ』


僕 (ニブイチ)「どういう状況なの?」


陰毛3『犬に連れ去られている真っ最中です』


僕「参ったなあ。助かりそうにない?」


尻毛1『さあ、犬の口の中じゃ臭いだけで何も聞こえないし、これから何をされるか分からない。別の毛に後を託すのが賢明でしょう』


脇毛1『突然ですまないが、君たちを裏切ってもよろしいか』


僕「それは突然でなくとも困る話だね。気に入らないことがあったならちゃんと言ってくれ。善処する」

 

脇毛1『気に入らないことがない。そんな現状が気に入らないのだ』


僕「裏切れば、状況は君にとって都合がよくなるの?」


脇毛1『分からんな。裏切ってみない限りは』


B<これに対してニブイチ氏はこう綴っていますね>

 

 直後、別の部屋を散策している体毛も含めて連絡を取った。人がある相手に運命を感じるように、毛は裏切ることに運命を感じる習性があるのかはっきりさせたかったからだ。正直な毛たちだった。陰毛1、2は既に裏切ったつもりでいたと告白した。他の毛の多くも裏切ろうかと迷っていたらしい。

 このまま作戦を続けていいものか悩む。テルテはわからないと即答し、スートは間をおいて別の作戦を考えますと言って黙り込んだ。幸い犬に咥えられている尻毛1と陰毛3はそのつもりはないと言い切った。この二本がどんな活躍をもたらすか、確認してから次の手に移ろうと思う。



B<ところでニブイチ氏は体毛とどうやって連絡を取っているんでしたっけ>


A<左薬指に一本の髪の毛が蝶々結びになっていて、それがトランシーバーみたいな連絡の役割をしているようです>


B<そうでしたか。ってこの時代にトランシーバーなんてありませんよね>


A<その話は避けられないですね。ただこれに関してはニブイチ氏が自分で種明かししたいので黙っておけと言われています>


B<そういえばそうでした>


A<そして以下は脇毛1と尻毛1と陰毛3とは別の毛が拾った音源ですね。この時点では、ニブイチ氏は聞きそびれたようです>


B<それにしても優秀ですね。誰の台詞かまでちゃんと判別してあるなんて。毛が判別したんですか>


A<そのようです。ただ予想の範疇を超えないので、確定ではないらしいです>



サカ『信じられない。エブがテルテに殺されたなんて……』


メルメ『エブか、懐かしい響きだな。最近の通り名はルタだったんだ。こいつの場合はネーテだし』


ネーテ?『テルテがルタを殺した……』


サカ『テルテか……』


メルメ『ニブイチはエブがルタの名前だとは知らないと思うよ。問題なのは、ニブイチがテルテの言葉を信じていることだよ。テルテがネーテを殺したと思ってないんだ』


ネーテ?『テルテがルタを殺したんだ』


サカ『ニブイチはネーテよりも人形の方につくのか』


メルメ『人間は裏切るが、溺愛する人形は裏切らないと思っているんだろう。もっとも裏切りなんてのはね、個人の孤独な問題であって他人はそのきっかけに過ぎないんだが』


犬『みなさん、お客様ですよー』


 何かが吐き出される音。

B<脇毛1たちですね。音から察するに、みんな涎でびしょびしょでしょう>


メルメ『人間というのは、どこか途中で矛盾するものさ。矛盾しないとしたらそいつは人間じゃない、人形だよ』


サカ『人形ねえ。そういえばスートはメルメを裏切ったんだろ』


メルメ『人間の不完全な魂を吹き込んだからさ。想定内だ』


ネーテ?『テルテはルタを殺したっ!』


メルメ『分かったから大きな声を出すな。ニブイチもテルテもしっかり分解して下品な人形にしてやるからさ。そこでだ、体毛ブラザーズくん』


脇毛1『な、なんだよ体毛ブラザーズって』


メルメ『君たちは人間なの、それとも人形なの?』


脇毛1『……』


尻毛1『……』


陰毛3『……』


メルメ『ちなみにこのネーテは人形だよ。なぜって本物は分解しちゃったからな』


サカ『な、なんだって畜生!ネーテが何をしたって言うんだ!』


人形ネーテ『テルテがルタを殺した』


サカ『人形は黙ってろ!あの手紙は結局何だったんだ』


A<あの手紙というのはサカが家を出てこの屋敷を目指すきっかけになった手紙でしたね。たしか「その21」の頃です>


メルメ『ネーテもルタも何もしてないよ。手紙を書いてみたかったのさ、私が』


サカ『……』


メルメ『すーん、そうだ。サカくんが理由を決めてくれていいよ。私がネーテを分解した理由をね。私からだと衝動でやったとしか説明できないんだ。ニブイチらを外にして君と詩人を招き入れたのも、これからすることもね。でもやっぱり今後の方針がほしいな。気の利いた理由を作ってよ』


サカ『ふざけるな……』 


メルメ『モップで床を掃きながらじっくり考えてくれたまえ。喋らない毛に用はないからさ。うーん。じゃあ犬、代わりにモップがけしておいて』


犬『了解だワン、って取るなヨオオ……』


B<ここで何かが壁に痛ましくぶつかる音が広がりました。サカがモップを投げたと考えるのが妥当でしょうか>


A<それもそうだけど、外でニブイチ氏らに突っかかっていたメルメがどうして屋敷の中にいるのですか。街の性質上、夕方にしか屋内外の出入りはできないのに、夜のこの時点で出入りしているのはおかしい。それに、先程まで外にメルメがいたのなら、ニブイチ氏が門前払いをくらってから今までは、別の誰かが詩人とサカの面倒を見ていたことになる。犬がその役割だったのでしょうか>


A<何らかのからくりがあるのでしょうね。もし、からくりを見抜いてニブイチ氏も出入りできるようになってしまったら>


B<今まで何してたんだよ、毛なんかお呼びじゃねえんだって話になりそうではあります。味毛ないってね>


A<えー、妙に寒くなってきたので今回はここまでとします>


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