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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第五章 夕暮れの街
24/55

その2(24)

旅の一行

僕 (ニブイチ)→魔術士。弱腰。


テルテ→ニブイチの造った人造人間。中腰。


サカ→子供。


詩人→強腰。

 実のところ、世界がオレンジに染まる夕方まで、この街に人がいるなんていうのは嘘っぱちだと思っていた。夕方のその時間まで人気は全くなかったし、それ以後人が現れそうな雰囲気は街のどこにもなかった。それが時間になると、人が街角から出て来たかと思うと、反対側からも人が歩いて来ており、見渡せば人混みが形成されていた。緩急が激しいなんて言えるものではない。時間的かつ空間的な隔たりがあるとしか思えなかった。目にする人々の雰囲気は僕の住んでいた村の人と決定的な差異を感じなかった。現在の時間帯にここに来ていれば、ありふれた街だと僕は誤解しただろう。

 黄色い声も聞こえてくる。


「長い間こいつなりに我慢したんだ、まず腹ごしらえといこうじゃないか」

 僕はサカの両肩をもちながらそう言った。しかしサカは拗ねていたため、

「もういいよ、死ぬまで食べないから」

 と吐き捨てた。おい、よせよ。別に君のために言い出したことじゃないんだよ。僕が直接詩人に飯を食わせろと言っても、我慢しろと返されたら我慢するしかないんだ。まだ君の方からごねてくれた方が食える可能性があるだろ。なあ、大人の僕がギャーギャー喚くわけにはいかないからさ、そう強情を張らないで頼み込んでくれよ。僕に言わせないでくれよ……。サカが口答えするのには子供だからこそ許してやろうと思える作用があるんだよ。それを僕がやってみろ、こいつは面倒くさいと愛想をつかされて最悪仲違いだ、ぞ……。

 テレパシーが使えるわけではないので僕の本音はサカには伝わらなかった。伝わったからと言って、言うことを聞いてくれるわけでもないからそれでいい。サカは肩に置かれた僕の手を振り払おうとしていた。

 しかし伝わった相手がいた。

「私も何か食べておきたいな」

 テルテはそう言って僕にだけ見えるように親指を立てた。

「人形のお前がそんなもんいらないだろ。ニブイチが言わせたな」

 詩人は反駁した。

「まさか。ファスとか言う男の人形とニブイチさんのそれが同一の物体でなければならないなんて決まりはないよ。そりゃ人とチンパンジーの類似点くらいはあるだろうけどさ」  

 なかなか最もらしい言い分であるが、彼女に食事は不要なのをよく知っている僕からすれば苦しい嘘に聞こえた。ここまで行動を共にしてきて、食べ物を口にする場面がなかったのを詩人は目撃している。その理屈は無理だ。

「おいニブイチ、飯が食いたいならはっきりそう言え。こんなまどろっこしい真似をしなくちゃならんほど俺が信用できんのか」

「すまない。僕の悪い癖だよ」

 こうして、余計な時間を割きながら僕らは夕食に向かった。この街にもちゃんと店はあった。サカはまだ拗ねて、一人で友達に会いにいくと言って聞かなかった。僕はサカの首根っこを掴み、無理矢理連れて行った。料理が並べられ、「食べたくないなら僕たちが食べ終わるまで何もせず座ってろ」と言いつけた。しばらくは言う通りに我慢していたが、肉の匂いが絶え間なく彼の空腹を刺激した結果、彼は静かに食べ始めた。




 食事を済ませるとすぐさまサカの友人のいる場所を探すため、周りへ聞き込んでみた。その友人の名前をエブと言った。とある女性によると、どうやらここは街の西端らしく、エブのいる場所は街の東端らしいことがわかった。そして、

「今日は間に合わないよ」

 と告げられた。夕焼けのオレンジは薄らぎ、遠ざかりつつあった。問答には僕が応じた。

「いつ訪れたらいいのですか」

「とにかくここからそこまで歩いて四十分はかかる。それを忘れないことだな」

「いやそうではなくて、夜間には訪問できないとか、」

「はあ?夜なんか出歩くわけないだろう」

「単に、ものの例えでして」

「例えにしちゃイマイチだな。さては外の者だな。隠すことはない。締め出そうって気はないんだ。ここの人はなあ、夕方のそれもオレンジ色で照らされている時にしか外に出ないんだよ。なぜかって言われても困るんだけどな。こっちにしちゃ、それが日常なんだ」

「今のような時間帯だけ外にいて、それ以外の時間は家にいるのですか?」

「そのはずだ」

「そのはずって地に足がついていない言い方……」

「暮らせば分かるが、家の中じゃ時間は一瞬なんだ。試しにうちに泊まってみなよ。口で説明するよりよっぽど分かりやすい」

「早くエブのところへ行ってやらないと(サカの方に目を向けて)コイツが気が気でないんだ」

「行きたい気持ちは分かるが今日はもう無理だぜ。時間がない」

「日が沈んだら屋内に入れないとか?昼間家を眺めたら、どれも閉め切ってあって中は覗きようがなかった」

「分からない。上手く説明できることじゃないよ。とにかく入りな」

 強引な勧誘のようで気後れしながらも僕らは家に入れてもらった。見知らぬ男三人、女一人をよくもまあ入れようと思ったものだ。もうじき外は暗黒に包まれる。影の世界である。窓からその瞬間を覗こうとーー



 さて、僕は窓の向こう側に何を見たと思う?

 暗闇の黒を見ようとしたはずなのに、目に焼きつけられたのは夕焼けだった。世界は先程と同じくオレンジ色に満たされていたのだ。

 時間的な繋がりが分からなかった。女性はさも当たり前に、

「もう一日経った。早く行きなよ、今日も短いからな」

 この街は室内にいると時間の流れが早いようだ。

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