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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第五章 夕暮れの街
23/55

その1(23)

旅の一行

僕 (ニブイチ)→魔術士。穏やかな暮らしが欲しい。


テルテ→ニブイチの造った人造人間。自称・理想の女


サカ→子供。友人との再会を望んでいる。


詩人→主張が強い男。テルテに助言をしたかと思えば、ある時は強く当たる。

 夕暮れの街という異名は、その街の人々が夕方の時間帯に活発に活動するということが由来である、というのが詩人が知っている情報であった。サカによると、その場所での思い出にはいつもオレンジ色の空があったと言うのだから詩人の情報は概ね合っているようだった。詩人は街に来たことはなく、サカは昔以来来ていないので、あまり詳しいことは分からないとのことだった。

 紆余曲折を経て僕らはようやく夕暮れの街に到着した。空が青く澄み渡る晴れた昼頃のことだった。建物が隣接して要塞の如く聳え立っていた。僕らは疲れていた。僕個人に関して言えば腹が減って苛立っていた。食材が枯渇したので、街の飲食店を利用することになっていた。

「お腹すいた。早く店に入ろうよ」

 サカが何度目か要望した。誰も返事しないで黙々と歩いていると、誰かが返事をするまでこの言葉を繰り返した。

「黙れ、これ以上わめいたらお前の食事は抜きにするぞ」

 詩人が脅しがちに怒鳴り返すのだった。その様子を見て僕は自分の身振りを正していた。サカがいなければ僕が騒いで、「黙れ」と言われていただろう。僕なんてそんなものだ。

 ここに来てまず驚いたこと、そして僕とサカを絶望させたことは、外に人がおらず閑散としていることだった。夕暮れ時にはまだ時間があった。この街の噂によれば昼時には人が少ないとは想像したが、全くいないのだ。そして晴れた午後とは思えぬほどの静けさは不気味と言わず何と言おう。街のどこを歩いても、誰もいない。そして、僕らに食事を提供してくれそうな飲食店も見当たらなかった。

「この街って誰も住んでいないのか」

 食事のあてがないと悟った僕は、どこかに感情を投げつけたかった。

「いや、そんなことはないだろうよ。習慣が成せる技術なんだろうさ」

 テルテが僕をなだめるように受け流した。

「こんなに聞こえないものなのか?話し声ひとつとして家から漏れないなんて相当な防音技術だぞ」

 僕の耳に入ってくるのは、鳥のさえずりか木の枝や葉の擦れる音だけだった。そこでテルテの感覚が人より優れていることを思い出し、人の話し声が聞こえるか尋ねてみた。どうやら囁き声は微かに聞き取れるらしい。テルテですらその程度しか聞こえないのでは僕に分かるはずがないわけだ。

「このまま夕方まで待つとしよう。それで無人なら引き返して夜営だな」

 詩人は特に問題はないかのように宣言した。彼は空腹に喘いでいないようだ。喘いでいる僕からすれば悪夢より悪夢な宣言だった。そんなに耐えられるかではなく、耐えたくない。早く腹を膨らませて贅沢な眠気に誘われたかった。

 こんな思いをもっていたが、僕は詩人に直接苦言しなかった。苦言代行者がここでも先行してくれたからである。

「おい詩人。食い物の恨みは怖いんだぞ。おれに恨まれたくなかったらさっさと飯を用意しろ」

 生意気なサカの発言は僕を勇気づけた。しかしこの直後詩人はサカの首を掴み、殴り倒した。

「お前に恨まれたってちっとも怖かあねえんだ。ほかのやつだって腹は減ってるんだ。いちいちほざくな」

 躍起になったサカは立ち上がって詩人に取っ組み合おうとした。詩人はそれを払い、今度は蹴り倒した。それが三度続いて、とうとうサカは諦めて泣き出した。静かな空間なので、その絞り上げるいたたまれない声は街中に響き渡っていった。詩人に力勝負で勝てそうにないのは僕も同じなので、同じく泣き出したい気分になった。

 そんな気持ちを察してくれたのだろう、テルテはひとりでに歩き出し、仕方がないので近くの家のドアを叩いた。中から返事はなかった。どの家も鍵がかかっており、密室と化していた。窓かドアを破壊するしか中に入れそうになかった。

 これは僕たちに厚かましくなれと言う街からの洗礼なのだろうか?ドアを壊し、助けを求めることが最適手段というのはテルテにも抵抗があっただろう。相手に施しを行い、それに感激した相手がこちらに恩返しをすると言うなら分からなくもない。そんな物語ならいくらか読んだ覚えがある。逆に相手への嫌がらせをすればこちらにあるのは報復に決まっている。

 テルテにしても全て締め切られている密室にいかにして風穴を空けようかと勘案していた。彼女なりに時間をかけて考えたのだろうが、名案は実力行使以外になかったらしい。テルテは窓から距離を取り、助走をつけて衝突しようと構えを取った。

「やめろ。禍根を無闇に増やそうとするな。それなら正面からドアを叩いた方がいい」

 詩人の冷静な指図だった。テルテは反抗せず、言われた通りにドアを叩いた。その家は誰も出なかった。

「いるんだけどなあ。とりあえず総当たりでいくよ」

 テルテは文字通りこの付近の家全てにあたった。それでドアを開けた家は一軒もなかった。ますます空腹が僕を嘲笑った。僕はやり場のない苛立ちにその場に倒れ、寝てしまうことにした。

「ばっちいなあ、やめろよ」

「夕方になったら起こしてくれ」

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