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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第四章 道中記
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その21 少年の決意、男の未練

旅の一行

僕 (ニブイチ)→主人公。穏やかな生活を望むも、結局はアクシデントに巻き込まれる不幸体質。一応魔術士。




テルテ→ニブイチの造った人造人間。ニブイチの幸せを願う一方、溢れんばかりのエネルギーで理不尽に暴れ回る衝動に駆られることがある。




詩人→テルテに興味を示し、行動を共にしている。

 街へ向かう途中の森でのことである。悪天候が僕らを襲った。雨が風が猛威をふるい、歩くことが困難になっていた。僕らは天候が比較的穏やかな時間が来れば動き、荒れれば安静にするのを繰り返していた。

 それを繰り返す内に、僕らは開けた場所にたどり着いていた。そこには家が一軒建っており、その家の付近には大木が構えていた。

「立派だなあ。僕は苦しいが、この木だって黙って耐えているんだ。弱音を吐いていてはダメだね」

 これは僕のつぶやきで、テルテにも詩人にも無視されてしまったが、この大木には勇気をもらった。僕らが来る以前にも悪天候に苛まれてきたに違いない。それでも耐え続け、今もこうして耐えている。雨風は厄介だが、試練だと思えた。

 そんなとき、扉が開いて中から中年らしき男性が現れた。

「さあさあ、お入りなさい。こんなときに外を出歩くのは危険ですよ」

 僕が返事をする前に、

「僕は是非とも入れてもらいたい」詩人はそう言った。

「私もそうさせてほしい」テルテは疲れないから断るんじゃないかと思っていたが、どうやら水浸しになりたくないのだろう。このまま一人で歩き続けるつもりはなかったので、僕はこの男の善意に甘えることにした。


 男は息子のサカと二人暮らしで、畑を耕して生活しているのだという。以前は街に出かけたことがあったが、男が脚にけがを負ってからは一度も行っていないのだった。ここから街まではそれなりに険しい山道で、自分のことで精一杯でサカの面倒を見ていられないから行かなくなったのだとか。

 そのサカという少年だが、街に友人がいて定期的に文通をしていた。可能なら一人で街に行きたがっていたが、まだ幼く体力的な不安があることから男に止められていた。

 サカは僕らを歓迎した。そして僕らのことを知りたがった。どこに行くのか、何をするのか次から次へと質問攻めにあった。だが一番サカが反応をしたのは僕らが夕暮れの街へ行くことにだった。目を真珠のように輝かせて、

「ぼくも連れて行ってほしい」

 と頼み込んできた。友人の顔を久しぶりにみたいのだということはひしひしと感じられた。しかし、それを聞いた男が飛び込んできて、

「それはもう少し大きくなってからだといっただろ!」

 と怒鳴った。

「もう十分大きくなったよ!」

 とサカは怒鳴り返し、僕らがいることも忘れて大喧嘩が始まるのだった。



 夜中には暴風で、締め切った室内にも吹き付ける高音が響き渡っていたのだが、翌朝になると天候はずいぶんと好転した。一応追われている身ではあるので、早いうちから出発するつもりでいたが、意外にも詩人が爆睡中で起こすのに時間を要した。そんな内に家に手紙が届いた。最初に封を開けたのは男だったが、テルテの見たところによると、男は複雑な顔をしていたという。そしてその手紙をサカより先に僕に見せた。

「この手紙を持って行って、中身を見ずにどこかに捨ててくれませんか」

「そんなに不都合なことが書いてあるんですか」

「お願いです。黙って捨ててきてください」

 僕はこの男の要望を守るべきかに悩んだ。赤の他人である僕たちに、無条件で寝る場所を提供してくれた恩人の頼みごとなのだから言うとおりにしたいところなのだが、僕の脳裏には前日の男とサカの喧嘩が鮮明に刻まれていた。だから手紙の中身がサカの友人に関することが書かれているのではないかと気になって仕方がなかったのだ。

 男が見ていないことを確認して、僕は中身を読んだ。僕の予感は的中していた。手紙にはサカの友人が重篤であることが書かれていた。

 このまま病気が悪化して二度と会えなくなるようなことがあれば、サカは一生後悔して生きることになるんじゃないか。もしこの手紙がサカに渡れば、彼は何してでも友人のもとへ向かおうとするだろう。男としてはそんな息子の行動が見て取るように想像できたに違いない。男が僕に頼もうしたことはサカを危険にさらすまいとするが故の行為であるのだと思った。

 手紙をテルテに見せた。テルテは妙に納得した顔つきをした。

「で、ニブイチさんは連れていきたいんじゃないの」

「確かにそういう気持ちはあるよ。でも万が一さ、街に着く前に盗賊に襲われたとかでサカが死んでしまったらって思うとね、そう簡単に決断できないよ」

「責任を取りたくないから断ろうってこと?以前は二人で街に行ってたんでしょ。それに比べたら私たち三人が付き添った方が、よっぽど安心だし確実だよ」

「僕がどうこうじゃなくて、あのお父さんをどう説得しようかってことだよ。何だか圧を感じるんだ」

「強引にサカを連れて行こうとして嫌がられるなら、そのお父さんも連れていけばいいんじゃない。私が背負って、」

「そんなことを頼んだ覚えはない!」

 テルテの言葉を遮って男がこちらを睨んでいた。だが、彼の声が大きすぎたのだろう、サカまでこの場に来てしまった。

「お父さん、何を頼んだの?」サカはそう言って僕の方を向いて、「それ僕宛ての手紙だよね、返してよ」

 テルテは僕から手紙を取り上げ、男の眼光に構うことなく渡した。当然のことながらサカは街へ行くことを宣言し、男は猛反対したため、再び大喧嘩が勃発した。

 

 詩人がようやく目を覚まし、僕らは外へ出た。青空が広がっていたが、悪天候の影響で自然が荒れ、いくつかの木々は倒れていた。男はサカに、

「外に生えているあの大木を見てみろ。あれぐらい立派になったら俺も文句は言わん。何十年もの間、どんな攻撃にも耐え忍んできた大木だ」

 と言ったのだが、その肝心の大木があるべき場所になく、倒れていた。ここを訪れた時に僕はその大木の姿に力をもらったことを思い出し、あれからの変化に衝撃を受けた。ましてや大木と共に何年も生活してきたであろう男にしてみれば僕の比ではなかったに違いない。男は放心していた。現前していたのはメメント・モリであった。

 男はしばしの沈黙の後、力なくこう言った。

「この人たちについていけ」

「あなたも一緒に来たって誰も文句いいませんよ」とテルテは言ったのだが、

「そこまで未練がましくはおれんよ。サカが街に行ってしまえば二度と帰ってこない、少なくとも自分と疎遠になってしまうのが怖かったのだ。大木を盾にして今日まで自分を正当化してきたが、それも終わりだ」と断られた。男の瞳はどことなく寂しげだった。



 こうして僕らはサカを含めた四人で旅を再開したのだった。僕はこまめに後ろを振り向いたが、男は姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。

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